182 ダンジョン制作 01
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「私は夜には用事があります」
ヴェアトブラウの近くで、ドラゴンの亡骸から溢れてくる豊富な魔力を利用してダンジョンを作ることができるかを実験しているのだが、そんなことを話すわけにはいかない。
私の夜の行動を教えてもらえなかったことがショックだったのか、またしても食堂が微妙な空気になった。
「リヒト様は適当に誤魔化すことだってできるのにそうはなさらなかったのですから、皆さん、落ち込む必要はないと思うのですが?」
そんな風に言ってくれたのはナタリアだ。
ナタリアの言葉にみんなその表情をすこし明るくした。
「そうですわね。誰にだって秘密の一つや二つはありますもの」
「リヒト様に対して全ての秘密を教えてほしいと望むなど、不躾でしたわ」
王女たちの言葉に王子たちも頷いた。
「そうだよな。リヒト様、困らせてしまってすみませんでした」
「私だって全ての秘密を教えろとか言われたら困るのに……」
「大丈夫だ。お前の秘密を知りたいと思う奴はいないはずだ」
王子たちの表情も明るくなり、冗談を言い始めた。
「皆さんが理解のある方々でよかったです」
私はとりあえず微笑んでおいた。
ナタリアがいてくれて助かった。
「ナタリア様、ありがとう」
そうナタリアにお礼を言えば、ナタリアが可憐に微笑んだ。
それは、ゲームで見たことのある笑顔だった。
ナタリアもヘンリックもライオスもフェリックスも、そして、グレデン卿やゲーツ・グレデン、ジムニもゲームで見ていた姿に成長していた。
ただ、カルロだけは運命が大きく変わったせいか、見た目もゲームでの姿よりもずっとたくましく、そして華やかな様子に成長していた。
ゲームでは華奢な体型で影のある根暗なキャラだったが、そのような様子は全くない。
最近は長めだった髪も首周りがすっきりするくらいに切ってしまっている。
「……」
私は思わず隣で食事を摂るカルロの横顔をじっと見る。
ゲームで見ていた姿よりもすらりと凛として、格好良くなっている。
ふと気づけば、ナタリアもカルロをじっと見ていた。
ゲームではカルロがナタリアに片思いをしていたのに、今はナタリアの片思いなのだ。
だって、カルロは私のことが好きなのだから……
急に、頬が熱を持って熱くなった。
今日は色々と忙しかったから、疲れが出たのかもしれない。
それからしばらくすると、イェレナを中心にして繰り返されてきた魔法学園の外套の話し合いも済み、さらにはイェレナは持ち込んだ素材で試作品を作ってくれた。
仮縫いの状態ではあったが、よくできていた。
「これほどまでのものをお一人でお作りになることができるとは、素晴らしい腕前ですね」
この世界にはまだミシンはないから全て手縫いである。
しかも、外套になる素材だから薄い布ではない。
それをハサミで断ち、針を通したのだ。
確かに、イェレナ自身が言っていた通り、彼女は他の王女とは違って働く人の手をしていた。
きっと裁縫以外にも、色々やっているのではないだろうか?
私はそんな彼女を尊敬する。
「イェレナ様の手は、ものを生み出す美しい手ですね」
イェレナが自分の能力を誇れるように褒めれば、どういうわけか彼女はその頬を真っ赤にしていた。
もしや、風邪だろうか?
「イェレナ様? お顔が赤いですが、熱があるのでしょうか?」
熱を測ろうとイェレナの額に手を伸ばすと、カルロに手首を掴まれて止められた。
「みんな、リヒト様に見惚れているだけです。無闇に触っては悪化しますからおやめください」
周囲を見れば、他の者の顔も赤かった。
同年代の男に見惚れるなどおかしなことを言うと思ったが、ゲームの攻略対象であるリヒトが美形なのは否定できないし、私だってカルロに見惚れることがあるのだから、彼らの反応を否定することはできない。
その夜、私とカルロ、そして魔塔主とラズリはヴェアトブラウの近くの森の中にいた。
万が一にも他の者が近づかないように、周囲に結界を張っておく。
そして、私たちはここ最近、ずっと取り組んでいる実験を行う。
カルロが闇属性の魔法で亜空間を作り、その周囲を精霊が浮遊しているところを私とラズリが観察する。
一体、何をやっているのかと言うと、魔法でダンジョンを作れないかという実験だ。
ダンジョンとは、瘴気から自然を守るために精霊が瘴気の浄化を行うために作りだすものなのだが、そのダンジョンを空間分析した結果、闇属性の魔力によく似た精霊力で構築されていたのだ。
ちなみに、空間分析は今のところ魔塔主が作った魔導具でしか行えず、その魔導具も魔塔主しか扱うことができない。
私は別にダンジョンを作るつもりはなかったのだが、有益なダンジョンがあれば冒険者が集まり、その土地の経済が活発になり、それによって国が富むとラズリが主張し、その話を聞いたカルロが「リヒト様のためになるなら!」とやる気を出してしまったのだ。
その結果、人目のない夜にこうして毎夜、実験を繰り返している。
「精霊は亜空間には寄って行くんだけどな〜」
ラズリがぼやくようにそう言い、それから私の方をちらりと見る。
「もう、いっそのこと、リヒト様の周りにダンジョンを作れば……」
言葉の途中でラズリは魔塔主に叩かれた。
「カルロ、そのまま亜空間は維持していて」
今日はひとつ試したいことがあったのだ。




