181 お説教 02
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「でも、皆さん、リヒト様にご迷惑をかけたじゃないですか!」
カルロの言葉に皆がううっと怯んだ。
「役に立つどころか、国際問題になってリヒト様にご迷惑をかけるところでしたよね!」
カルロの言うことは正しい。
みんな一国の王子王女なのだから、万が一にでも何かあれば国際問題になり、我が国は圧倒的に不利な立場に追いやられただろう。
「それは……」
「も、申し訳ありませんでした」
カルロがふんすっと怒り、他のみんなはなんだかしょんぼりとしてしまった。
正論を突きつけたカルロの圧勝なのだろうが、みんなは私のためにしてくれたことでもあったので、なんだかすこし可哀想になってしまった。
それに、これではカルロがみんなに嫌われてしまわないか心配だ。
私は場の空気を変えるためにパンッと手を打ち鳴らした。
「とにかく、今回はみんなが無事でよかったです。今後は無茶なことはせずにすぐに私に報告してください」
「リヒト様……」と数名の王子王女の目が潤み、カルロの頬が膨らむ。
「リヒト様は甘いです! みんなはもっと反省すべきです!」
私はカルロの怒りを鎮めるためにその頭を撫でた。
「カルロのおかげでみんな反省したようだし、せっかくの料理が冷めてしまう前に食べよう」
私は給仕の者に冷めてしまった食事は温かいものに変えてくれるようにお願いして、私も食事の席についた。
みんな、できるだけいつも通りに振る舞おうとしているようだったが、その表情はなんだか硬い。
それに、ちらちらと私を盗み見るような視線も感じる。
私が怒ったことなどあまり響いてはいないようだったが、やはり気まずいのだろうか?
私がいることによって食事の席の空気が悪くなるようであるなら私はこの場にいない方がいいだろうと、私は顔を上げてみんなを見回した。
数名の王子王女と目が合い、彼ら、彼女らは慌てて私から視線を逸らした。
「私がここにいることで気まずいようでしたら、しばらくは私は自室で食事をすることにしましょう」
そう言って立ち上がろうとすると、数名の王子王女が「「「違います!!」」」と慌てたように言った。
「リヒト様に対して気まずく感じているわけではありません!」
「そうです! ただ、リヒト様の先ほどの……」
皆一様に、なんて言ったらいいのかわからないという表情をしている。
一体なんだと言うのだろうか?
「リ、リヒト様!」
ザハールハイドが意を結したように、彼にしてはやけに大きな声で私の名前を呼んだ。
「リヒト様は転移魔法が使えるのでしょうか!?」
その言葉で彼らがどうして気まずそうな雰囲気をしていたのかやっと合点がいった。
私が食堂に転移魔法で出現したためにずっと気になっていたようだ。
もう隠しても仕方ないというか、ランツに見られたのは二回目だし、みんなの前にあのように現れてしまったのだから隠しようがないだろう。
「はい。実は、そうなのです。今回の件で騎士団の者たちにも私が転移魔法が使えることは知られてしまいましたが、我が国の貴族でも知っている者はごく少数ですので、できれば、皆さんが自国に戻った際にも秘密にしていただければありがたいです」
そんなお願いは無理だろうと思いながらも、少し困った表情を作ってそのようにお願いしてみれば、なぜか情熱を宿した熱い眼差しをみんなから向けられた。
「わかりました! リヒト様の秘密は絶対に守ります!」
「お父様になんて絶対に言いませんわ!」
「リヒト様が危険に晒されるような情報は絶対に漏らしません!」
「我々を信じて教えてくださり、ありがとうございます!!」
先ほどから、この子たちは自身が一国の王子王女という自覚があるのだろうか?
この中には長男長女は少ない。
なぜなら、帝国傘下に入ったばかりの若輩の小国にできた魔法学園に長男や長女を入れることに躊躇う国が多かったからだ。
だから、ここにいるのは大体は三男や三女、四男や四女だったりするわけだが、それにしても自国への忠誠心のようなものが少ない気がする。
一国の王子王女であるという自覚が低いことは彼ら彼女らにとってはあまりいいことではないと思う。
しかし、転移魔法のことを大体的に発表するつもりもないし、私が転移魔法を使えると知られればこれまで以上に警戒する国は多いだろうから、外交や貿易を行う面ではやはり私に対しての警戒心は持ってもらわない方がいい。
私は決して私の秘密は話さないと誓ってくれた王子王女たちにお礼を言った。
一国の王子王女としては不安はあるものの、学友としては非常にありがたいのは確かだった。
「あ、あの……」と、グアラ王国のアラステアも口を開いた。
「差し支えなければ、もう一つお聞きしたいのですが?」
「なんでしょう?」
「リヒト様とカルロは夜にどちらに行かれているのですか?」
そういえば、夜遅くに何度か私の寝室を王子たちが揃って訪ねてきたことがあると乳母やメイドから報告があった。
「何度か訪ねてきてくれたそうですね」
「はい! リヒト様と、その、夜遅くまで遊びたくて……」
乳母たちからは王子たちがそれぞれ枕を持ってきていたと聞いていたから、そんなことだろうとは思っていた。
だから、私はあえて、翌日に彼らに用事を聞くようなこともしなかったのだ。
「枕投げのようなことがしたければ、魔法学園の寮でしてください」
「寮は学び舎の一部のような感じで、そういうことをするのとはなんだか違いますので」
変なところで真面目なようだ。