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18 魔塔主の決断

お読みいただきありがとうございます。

徐々に読みに来てくださる方が増え、ブックマークしてくださる方が増え、とても励みになっています!

ありがとうございます!!

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


金髪白皙碧眼の美幼児であるリヒトには前世の記憶がある。

前世、52歳で亡くなるまでの記憶があるリヒトは中身が”おじさん”であることを隠しながら、前世の推しであるカルロを不憫な未来から守るべく国の改革を目指す!


しばらくBL要素はなく、ブロマンス要素の方が強いと思いますが、徐々にBL要素が強めになる予定です。


 私は魔塔主が子供の講義など受ける必要はないと散々断ったのだが、強引な魔塔主は必ず講義に参加するから講義予定日を絶対に知らせて欲しいと念押しして帰っていった。

 カルロにはちゃんと基礎から教えてあげたいと思ったが、私は基礎部分もある程度の魔法が使えるようになるまでも独学だった。

 前世のゲームの記憶があるからそのようなことができたわけだが、いくら記憶があったとはいえど、独学は独学だ。

 そのような知識を専門家の前で披露などしたくない。

 特に、一般の人々を蟻、一般の魔法使いをちょっと飛ぶことができる羽蟻程度にしか思っていない魔塔主になど本当に参加してほしくない!




 初めて魔力を使った子供は数日間寝込むと聞いていたので、ゆっくりと体を休めることができるようにカルロは乳母の屋敷に送った。

 私の部屋の中にある従者の部屋では、私の部屋にメイドたちなどが出入りする音が常にするため、眠を妨げてしまうかもしれない。

 カルロの看病をするために乳母にも屋敷に戻るように伝えたが、従者であるカルロがいないのだからなおのこと自分が私のそばを離れることはできないと言われてしまった。

 そのため、カルロにはシュライグが付き添った。

 まだ5歳とはいえ、意識のない子供を抱き上げるのはなかなか重いと思うのだが、シュライグの身のこなしはカルロを抱き上げていても優雅だった。


「シュライグの身のこなしは貴族のように優雅ですね」


 感心した私の言葉に乳母が教えてくれた。


「本当はシュライグに爵位を与えて元ルーヴ伯爵領を管理させるという案もあったのです」


 シュライグの家は平民だったが、長年ルーヴ伯爵家の執事長を任されていたため、貴族の礼儀はしっかりわきまえているし、話し方も動き方も非常に優雅だった。

 屋敷を管理するための実務も領地管理のための実務もシュライグたちがこなしてきたわけだから、領地を繁栄させる才能があるかどうかはともかくとして、経営だけならば問題なく行えそうである。


「それはいい案だと思いますが、どうしてそのようにはならなかったのですか?」

「本人が断ったからです」

「シュライグが?」

「はい。シュライグは今後もカルロとリヒト様のお側に仕えることを望みました」

「そうですか……」


 私とカルロの世話だけではシュライグの才能を十分には活かせないかもしれないが、100%の力を発揮して生きたい者ばかりではないのも確かだ。

 70%の力で、余力を残して仕事を行い、いざという時に100%の力を出すという生き方もあるだろう。


「本人が爵位を授かることを望まないのであれば仕方ありませんね」


 貴族になれば利権は手に入るけれど、責任も苦労も増える。

 シュライグはこれまでルーヴ伯爵家の執務を行ってきた実績も才能もあるが、本人が望まない立場にして重責を負わせることはするべきではないだろう。




 数日は寝込むと思われていたカルロは我々の想定を遥かに超えた回復力を見せて、翌日のディナー前には王宮に戻ってきた。

 本当は昼から来るつもりだったのにシュライグが引き留めたと少し怒っていた。

 王や王妃、乳母、宰相など、多少なりとも魔法を使える大人たちは自分たちが初めて魔法を使って寝込んだ時のことを思い出し、カルロの早すぎる回復に驚いていた。

 おそらく、カルロの回復の早さは攻略対象者チートだろう。


「魔塔主はしばらくカルロが寝込んでいると思っているはずだから、魔法の基礎学習を早めに終わらせて魔塔主を驚かせよう」


 私の言葉にカルロはその目を輝かせて「はい!」といい返事をした。


 早速、私たちは次の日の朝からカルロの魔法の集中講義を始めた。

 乳母は私の講義の予定を変えてまでカルロの講義時間とすることを反対したため、私は講義の内容を変更するのではなく、一日の予定の中にカルロの魔法の講義の時間を追加した。

 それが朝と夜の時間だ。


 最初は朝に私と乳母が講師を務めて座学を行い、夜に私とグレデン卿で実技を教えていたのだが、カルロは座学よりも実践で身につけるタイプのようだったので、朝に実技、夜に座学に変えた。

 もちろん、魔塔主が来ていた私の魔法の講義時間もカルロの魔法の講座に充てた。


 その日には魔塔主も来て、なぜか私の講義を熱心に聞いていた。

 独学で魔法の基礎を学んだ子供の私の話など何の役にも立たないと思うのだが、魔塔主曰く新しい発見があるのだという。


 毎日実技と座学で知識を体に覚え込ませているため、カルロの魔法上達のスピードは非常に早かった。

 3ヶ月ほどで魔法の基礎学習、座学と実技をどちらも終えた。

 さすがカルロは優秀だ。



「リヒト様はご自分に厳しい方だとは思っておりましたが、他者にも厳しかったのですね」


 基礎学習の後、さらに半年かけて闇属性の初級魔法をカルロが全て習得した日に、私たちの訓練を見守っていた乳母がなんとも言えない表情で言った。


「……私、厳しかったですか?」


 5歳の子供相手に厳しすぎる訓練をしてしまっていたのかとカルロに確認すると、カルロはやり切ったいい笑顔で「いいえ! リヒト様はいつもお優しいです!!」と力強く答えてくれた。


 しかし、魔塔主に乳母と同じような言葉を言われた。


「リヒト様は思った以上に鬼畜だったのですね。毎週の講義でリヒト様の従者の魔法上達度が異常な速度で成長しているとは思っていましたが、まさか一年もせずに初級魔法を全て使えるようになってしまうとは」


 魔塔主曰く、初級魔法とは魔法の適性がある貴族たちが貴族の学園に入学する12歳までに習得しておくべきものだそうで、5歳の子供が半年ほどで習得するものではないらしい。


「……カルロ、ごめん」

「僕はリヒト様のお役に早く立ちたかったので嬉しいです!」


 カルロが健気で今日も可愛い。

 魔法はカルロが今後、自分自身を守る際に大いに役立つはずだ。

 だから、きっと、多少スパルタだったとしても、カルロの損にはならないはずだ……


「リヒト様の従者が魔力回復の早い特異な体質だったから可能でしたが、普通の子供なら死んでいてもおかしくないですよ」


『死』という言葉に私は背筋が凍った。


「そんな無理をさせていたなんて、カルロ、本当にごめん!!」

「僕は全然平気でしたよ?」


 カルロが攻略対象者のチート持ちで本当に良かった。


「しかし、他の子供には使えない方法です」

「私が他の子供に魔法を教える日など来ないでしょうが、今後は気をつけます」


 私は深く反省した。

 カルロ以外の誰かを指導することにはならないだろうけれど、万が一、誰かに何を教える時には相手の力量をきちんと考えよう。


「でも、楽しかったですけどね」


 毎朝カルロの実技に付き合ってくれていたグレデン卿が言う。

 確かにグレデン卿は楽しそうにしていた。


「それに、リヒト様の講義は魔法陣への理解が深まり、以前よりも魔法の発動が早くなりました」

「それはどういうことですか!?」


 グレデン卿の言葉に魔塔主が食いついた。

 魔塔主がグレデン卿の言葉に反応したのはこれが初めてではないだろうか?


「魔塔主は実技に参加しませんからお気づきにならなかったのでしょうね」


 乳母の言葉に魔塔主が悔しがる。


「早朝6時からの講義とか意味がわかりませんよ!!!」


 まぁ、魔塔主はどう見ても夜型だろう。

 講義もいつも午後からと決まっているし。


「その代わり、リヒト様はカルロを夜9時には寝るようにしていましたからね。まぁ、ご自身はその後こっそり読書をしたり、法整備のための書類を作成していたりしたようですが……」


 メイドたちには黙っているように伝えたのだが、結局乳母にバレてしまったようだ。


「あ、メイドたちがバラしたのではありませんよ? 第一補佐官にリヒト様の作成した書類を見せてもらったのですが、昼間には作成した覚えがない書類があったので、メイドたちに確認したのです」


 さすが乳母だ。

 私が勉強している時も、新法の提案書を作っている時も常にそばにいるだけではなく、書類の中身まで把握していたとは……


「メイドを信頼して秘密を共有するのはいいですが、あまり困らせるようなお願いはしないようにしてください」

「すみません」

「リヒト様は、僕が寝た後もお仕事をしていたのですか……」


 カルロがとてもショックを受けた表情を浮かべる。


「あ、違うんだ……」

「今度からはリヒト様がちゃんとお眠りになったのを確認してから寝ます!!」


 ああ! こうなるから、カルロには内緒にしていたのに!!


「子供が遅くまで起きているのはダメです!!」


 私が慌ててカルロには早く寝るように言うと、すかさず乳母に指摘された。


「リヒト様もカルロと同い年ですよ!」


 言いたい……

 本当は50代の冴えないおじさんだから私は全然平気なのだと言いたい!!


「中身がどんなに大人びていようと、体は子供ですからね」


 まるで私の心の声が聞こえたのかのように魔塔主がそう笑った。

 そうか、この体はまだ5歳なのだ。

 子供の体にとって睡眠はとても大事なものだ。

 私はこの体の成長に必要な睡眠時間を蔑ろにしていたということか。


「リヒト様? どうされたのですか?」


 乳母の言葉に私は苦笑する。


「自分の体があまりにも小さくて、少し驚いただけです」


 私の言葉に大人たちはキョトンッとその目を何度か瞬かせ、それから笑った。


「それでは、成長のために今日からは夜更かしせずに眠ってくださいね」


 乳母の言葉に私は素直に「そうします」と頷いた。


「もうすぐ6歳の誕生日ですが、リヒト様は何か欲しいものはありますか?」

「魔塔主が何か贈ってくれるのですか?」


 私は魔塔主の言葉に驚いた。

 どこの国にも属さない魔塔のトップである魔塔主はある意味、王様と同じような立場で、さらに傍若無人な性格から誰かに何かを贈ったという話はこれまで聞いたことがない。


「この一年は私の方が色々と学ばせていただきましたからね。そのお礼です」


 私は少し考える。

 欲しいものではなく、いつも私を揶揄ってくる魔塔主に意趣返しできる返事は何だろうかと真剣に考える。


「それでは、私が助力を求めた時に一度だけ助けてください」

「……そんなお願いでいいのですか?」

「とても重要なお願いですよ。魔塔はどこの国にも属していない魔法研究所ではないですか。その魔塔の最高責任者である魔塔主に一度だけ我が国を助けてほしいとお願いすることができる権利ですよ」


 魔塔は現在、ルシエンテ帝国の領地に研究所となる塔を構えている。

 万が一にもルシエンテ帝国とこの国が争いでも起こして、私がエトワール王国を守るためにルシエンテ帝国の重要箇所に最大の魔法を落として欲しいとお願いすれば、魔塔主はルシエンテ帝国から狙われる身になるだろう。


 だから、きっとこのお願いは断られるだろうと思っていた。

 中身52歳の私に誕生日プレゼントは必要ない。

 いつも揶揄ってくる魔塔主へ意趣返しができたのだから、それで十分だ。


 それなのに、魔塔主からは思わぬ返事が返ってきた。


「なるほど。それでは、いっそのこと、この国に魔塔を移してしまいましょうか?」

「………は?」


 想定外すぎる魔塔主の提案に、私は思わず王子らしからぬ間抜けな声を漏らした。そして、慌てて断った。


「それはダメです!」

「なぜですか?」

「国際問題になるからです!」

「魔塔はどの国にも属していません」

「だから一番力の強いルシエンテ帝国にいたんですよね!?」

「いえ。違いますが?」

「え?」


 違うのか?

 どこにも属さない魔塔の後ろ盾として、大陸最大の帝国に魔塔があるのだと思っていた。


「ルシエンテ帝国ができる前から魔塔はあそこにありました」

「歴史の授業では、ルシエンテ帝国が魔塔を保護していると習った気が……」


 私は乳母を見る。

 私の記憶違いかどうかを確認するためにだ。


「わたくしもそのように習いました」

「魔塔に集まっている魔法使いの方がルシエンテ帝国の騎士団より強いのになぜ保護される必要があるのですか?」


 言われてみればそれもそうだ。


「……もしかして、ルシエンテ帝国の方が魔塔の存在を利用して周囲の王国を取り込んできたのでしょうか……」


 つまり、ルシエンテ帝国は虎の威を借りる狐だったのかもしれない。

 みんなが無言になってしまった。


「リヒト様、そのお考えは他のところではお話ししてはなりません」


 乳母が私に注意してくれる。

 私も「わかっています」と素直に頷いた。


「なるほど」と、魔塔主は何度も頷いている。

 どうやら、魔塔は本当にルシエンテ帝国に与しているつもりはなかったようだ。


「では、この国に魔塔を移しますね」

「だからやめてください!!」

「知らないうちに利用されているなんて気持ち悪いじゃないですか」


 その気持ちはわからなくもないが、その問題にエトワール王国を巻き込まないでもらいたい。

「ん〜」と魔塔主はしばし考える素振りを見せてから、にこりと微笑んだ。


「リヒト様では絶対に折れてくれなさそうなので、ちょっとエトワール王国の王に話を通してきますね」

「魔塔主! 勝手な行動は取らないでください!」


 お人好しな父王では魔塔主に言いくるめられてしまうかもしれない。

 しかし、私の制止の言葉など聞かずに魔塔主は転移魔法を使って姿を消した。


「私たちも行きましょう!」

「リヒト様、おそらく魔塔主はリヒト様に転移阻害魔法をかけたかと思われます」


 乳母の指摘に確認すると、確かに転移魔法を使おうとしても空間が何かに阻害されているようにうまくいかない。


「走りましょう!」

「それは無理です」


 乳母はドレス姿だし、淑女として緊急事態でもないのに走ることはできない。

 ある意味緊急事態だが、淑女が走ることを許されるのは他者に走っている理由が理解される目に見えての緊急事態である必要がある。


「乳母は後で来てもらえれば……」

「リヒト様、私はリヒト様のお世話をする係でもありますが、護衛でもあることをお忘れなきよう」


 そうだった。

 乳母は私を前王から守る役目を担っていた。

 それは、グレデン卿だけでは不十分で厄介な案件なのだ。

 私だけでなく、私なんかよりもずっと美少年のカルロを守るために乳母の存在は重要だ。


「では、少し急ぎ足で父上の執務室へと向かいましょう! それまで父上が持ち堪えてくれることを願って……」


 子供二人、ドレスの淑女一人、その三人を置いていかないように速度に気をつける護衛騎士一人……全員頑張ったけれど、私たちが王の執務室にたどり着いた頃には、魔塔主は魔塔に戻った後だった。






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