177 罪深き公爵 01
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今回は王子王女たちからエトワール王国の街を見たいという要望があったため、王宮近衛騎士団の騎士たちを護衛につけただけで、護衛対象の王子に問題が起きたから多くの王宮近衛騎士たちが動いただけなのだ。
そんな彼らをグレデン公爵領に置き去りにされて王宮内の警備が疎かになるのは困る。
公爵領の調査に王宮騎士団を派遣するのは構わないのだが、それは近衛騎士団の役割ではないのだ。
国よりも魔塔の方が圧倒的に強いので、クレームを入れたところであまり意味をなさないような気もするが、国の組織を勝手な判断で動かしたという意味ではやはり国対魔塔という形でクレームを入れるべきだ。
おそらく、その方が他の魔塔の魔法使いたちへの抑止力にもなるはずだ。
……他の魔塔の魔法使いたちは魔塔主やラズリよりも身勝手ではないため、このような短慮な行動はしないような気もするが。
「ランツ様は今どこに?」
「グレデン公爵領に行かなかった王宮近衛騎士団の者たちが保護しているはずです。それに、他の王子たちも救出に力を貸してくれましたから、また襲われても魔法で対処してくださっていると思います」
この曖昧な返答は、マルクもラズリの転移魔法でグレデン公爵領に連れて行かれていたためにその後のランツについて把握できていないのだろう。
しかし、概ねはマルクの考えが正しいはずだ。
そもそも、ランツは体格がしっかりしており、単純な腕力や剣の腕では魔法学園で一番なのだ。
魔法学園が魔法を重視しているために上位の成績には入れていないが、騎士学校ならば成績上位者だろう。
特に火属性が得意な彼が剣と合わせて魔法を使えば、我が国の非魔法使いの王宮騎士団よりも強いだろう。
そんな彼が誘拐犯……グレデン公爵領の騎士なのか、雇われた冒険者やごろつきなのかは知らないが、その程度の誘拐犯にやられるはずがないのだ。
だからこそ、きっと囮役を買って出たのだろうが、それでも危険なことには変わりないので、危険を犯した生徒たちのことは後で叱る必要がありそうだ。
「カルロとヘンリックはランツ様の無事を確認してください。その後、カルロは私にランツ様の状況の報告を。ヘンリックはランツ様と他の生徒たちに聞き取りを行ってください」
私はカルロとヘンリックにそのように指示を出してからマルクの手を握り、転移魔法でグレデン公爵の屋敷の地下牢へと転移した。
「リヒト様!」
私の姿に気づいたグレデン卿と騎士団長がすぐさまその場に膝をつき、他の騎士たちもつられるように膝をついた。
「え、リヒト様?」
「どうして、ここに……」
「突然、姿を現されたようだったが……」
私が転移魔法を使えることを知らない騎士たちはざわめく。
困惑している彼らには悪いが説明は後だ。
「騎士団長、グレデン卿、状況説明をお願いします」
騎士団長が口を開く前にグレデン卿が「申し訳ございません!」と深く頭を下げた。
「護衛騎士の実家が他国の王子を攫うなど、リヒト様のお顔に泥を塗る行為、私が罪を犯した父と兄をこの場で殺しますので、私のことは処刑なり何なりしてください! 自害を命じてくださっても結構です! 公爵家はお取り潰しください!」
「ただ、どうか……」と、グレデン卿は肩を震わせる。
「公爵家とはすでに縁を切っているゲーツのことは、これまで通り、下町で生活させて欲しいのです……」
グレデン卿の震える肩にそっと触れると、すこし緊張したようだったが、その震えは止まった。
私はできるだけグレデン卿を落ち着かせるような落ち着いた声音で言った。
「実は、グレデン公爵が怪しい動きをしているということはすでにゲーツから聞いていました。そして、ゲーツからも似たようなお願いをされています。グレデン公爵もその意に従う長兄も自分が暗殺するから、どうか兄のことはそのまま護衛騎士として私のそばに置いて欲しいと」
「ゲーツが……」
「実によく似た兄弟ですね」
「なぜ」と、私は牢の中の二人の男を見る。
「あの方たちは違うのでしょう?」
「それは私にもわかりません」
返答を必要としない言葉だったのだが、グレデン卿は生真面目に答えてくれた。
「すみません。今のはエトワール王国の貴族としては出来の悪い彼らへの嫌味ですので、回答は不要です」
その時、牢の中にいる若い男が笑った。
「主人の言葉の意図もわからないような愚か者よりも、私をおそばに置くのはどうでしょうか? リヒト様!」
私は呆れてグレデン公爵の長男であろう男を見た。
「私は忠誠心のない者をそばに置く気はありません」
「エトワール王国の貴族として、王子への忠誠心はしっかりと心に刻んでおりますとも!」
「私の友人を誘拐した者に忠誠心などあるとは思えませんが?」
「リヒト様に恨みを持ち、ご友人を攫ってリヒト様のお立場を悪くしようとしたのは父であって私ではありません!」
「お前、裏切るつもりか!」
牢の中で醜い親子喧嘩が始まった。
「カルロ」と私が名前を呼べば、「はい」とカルロはすぐさま私の影から出てきてくれた。
「すまないが、大人しくさせてくれるかな?」
「はい」
カルロの影から触手が伸びて、グレデン公爵親子の体に巻き付いて口を塞いだ。
先ほどまで口汚くお互いを罵っていた彼らの表情は蒼白だ。
カルロに恐怖の眼差しを向けているが、彼らは勘違いをしている。
「恐怖すべきは己の愚かさだということがまだわからないようですね」
私は彼らに作り笑顔を向ける。
「あなた方はおそらく極刑になるでしょう。他国の王子を誘拐しようとしたのですから当然です。我が国の法でも、ルシエンテ帝国の法でも、極刑でしょう。グレデン公爵家はグレデン公爵と妾との間の子に継いでもらえばいいでしょう」
公爵が何か言いたげに唸っているが、カルロの触手に口を塞がれているためそれは言葉にはならない。
横暴だとでも叫んでいるのだろうが、ゲーツが逃げた後に妾を作り、子供を産ませて次の献上品を用意していた人間に何を言われたところで私の心には響かない。