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176 来訪者たちと事件

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


 来賓客用の食堂でも席が足りず、小広間で立食パーティーのような形で夕食を取ることにした。私の両親は本当に心から彼らを歓迎しているようだった。

 これまでもカルロやヘンリックから魔法学園での私の様子を聞いてはいたが、聞く人数が増えれば違う視点から話が聞けたり、違うエピソードが出てきたりするものだから、遺憾無く親バカっぷりを発揮していた。


 転移魔法が使える王宮魔導師がいる大国の王子王女や貴族は近くまで馬車ごと転移したようだが、そうではない国の者たちは距離によっては数ヶ月の馬車旅をしてきたことになる。

 そんなに前からエトワール王国に来ることを計画していたのかと疑問を持って聞いてみると、転移魔法を使える王宮魔導師がいない国の生徒たちは、転移魔法を使える王宮魔導師がいる国の生徒に迎えに来てもらったのだという。


 それならば、なぜ各国の馬車に乗ってきたのだろうとは思ったが、そこはそれ、王侯貴族の品位を保つためらしい。

 それに、転移魔法が使える王宮魔導師の国の馬車には馬車の中にあるものを安全に転移させるための魔法陣が刻まれたある種の魔導具になっているそうだ。

 私もまだ複数人と一緒に転移するのは怖いが、それは王宮魔導師たちも持っている恐怖なのだろう。

 魔法陣を刻み、転移魔法の補助とすることで確実に安全に人や物を運ぶというのは参考になった。

 彼らが帰るまでに魔法陣を写させてもらおう。




「皆さんに城の庭園やエトワールの街を案内したいところなのですが、私には仕事がありまして……」


 両親も宰相や第一補佐官も客人を優先していいと言ったが、私は知らされていなかった予定よりも前もって決めていたスケジュールを優先した。

 こういう融通が利かないところが、前世の上司が「使い難い」と言っていたところなのだろうが、私としてはサプライズは望んでいない。


 しかし、生徒たちはそんな私の態度に不満を抱くこともなく、問題ないと言った。


「リヒト様と同じ城にいるだけで満足です」

「お夕食の時だけでもお顔を見られれば幸せですわ」

「リヒト様がお生まれになって、これまでお過ごしになった場所にいるだけで感無量です」


 彼らは王侯貴族としてある程度のわがままは許容されてきたはずなのに、私に対してはわがままを通そうと文句を言ったり怒ったりもすることなく謙虚だ。

 まぁ、皆一様に何言ってるのかよくわからない部分はあったが、要するに自国にいる時よりも気がラクということだろうか?


「リヒト様、どうしてみんなに帰るようにおっしゃられないのですか? リヒト様は寛容すぎます」

「みんなは外套作りの会議の場所として、魔法学園のあるエトワール王国を選んだだけだろう? 私に来訪を知らせてくれなかったからすこし驚きはしたが、父上母上には許可を取っていたようだし、母上は女生徒たちとお茶会をするのだと楽しそうにしていたから問題ないだろう」


 カルロは不満そうに頬を膨らませたけれど、両親が許可を出し、納得しているのならば私には問題ない。

 もしも彼らが想定外に長く滞在して食費や生活費が嵩むようなら、次の魔法学園の授業料は値上げしようと考えていたが、心配事はそれくらいのものだったはずなのだが……


 生徒たちがエトワール王国に滞在して数日後、事件が起きた。




「リヒト様! ベルヴォーク王国のランツ様が攫われました!」


 勉強部屋に飛び込んできたマルクの知らせに私は慌てて席を立った。


「即刻、捜索隊を編成の上、探しに……」


 そう指示を出したが、それはすでに不要であると知らされた。


「ランツ様はすでに救出済みです。ランツ様ご自身、誘拐犯がどこの手の者なのかを確認するために積極的に囮になったそうです」

「それはつまり、事件の前兆があったということですか?」


「そのようです」とマルクは頷き、説明してくれた。


「街に出た王子や王女に近づく怪しい者がいたそうなのですが、そこは魔法学園の王子や王女ですから、それぞれに対処されていたそうです。しかし、あまりにも何度も、それも魔法学園の生徒を狙っているようだったので、リヒト様のご迷惑にならないように自分たちで犯人を捕まえようと思ったとのことでして……」

「あの子たちはまったく……それで、どうしてマルクはそのように慌てて私に知らせに来たのですか?」

「それが、誘拐犯の裏にいた者がグレデン公爵でして……」


 マルクの声が自然と小さくなる。

 グレデン公爵はグレデン卿やゲーツの実家だ。


「そのグレデン公爵の愚行に怒ったグレデン卿が捕らえたグレデン公爵と後継者である兄を切ろうと暴れていまして、手がつけられないのでリヒト様に助けていただきたいのです」


 グレデン公爵の対応に困って私を呼びに来たのかと思えば、まさかの騎士団を困らせているのはグレデン卿の方だった。


「わかりました。場所はどこですか?」

「グレデン公爵領の地下牢です」


 私はまたそこで不思議に思い、マルクに質問を投げかけることになった。


「グレデン公爵領は馬を飛ばしても王都から二日はかかりますよね?」

「それが、王都でランツ様を救い出して誘拐犯から黒幕を聞き出したというタイミングで魔塔のラズリ様が通りかかりまして……」


 そこまで聞いて私はなるほどと頷いた。


「王宮近衛騎士団の皆さんをグレデン公爵領まで転移魔法で連れて行ってしまったということですね?」

「はい。それで、グレデン卿が手をつけられなくなってしまった時点で私を王城まで運んでくださるように騎士団長がラズリ様にお願いしたのです」

「そうですか。それで、その迷惑な魔法使いは今どちらに?」

「眠いから魔塔に帰ると……」


 これは、後で魔塔にクレームを入れなければならないだろう。

 王宮近衛騎士団は本来、王宮と王族を守る組織だ。





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