174 中毒 02(ザハールハイド視点)
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リヒト様が私には文章の才能があると言ってくれたから、私は本で読んだ内容や授業の内容をまとめ、さらには自身で考察した内容をまとめた論文を書くようになった。
リヒト様にもっともっと褒めてもらうために。
私がリヒト様に近づく度にカルロからは睨まれたが、リヒト様の微笑みと頭を撫でられる高揚感はカルロへの恐怖など簡単に忘れさせてくれた。
それは他の生徒たちも同じようだった。
リヒト様が私のノートを褒めてくださってからというもの、他の生徒たちも私のノートをよく見にくるようになり、私も他の生徒たちの輪に入れるようになったのだが、リヒト様と話したい、褒められたいという気持ちを持っているのは私だけではないことがわかった。
そして、リヒト様に近づく度にカルロに睨まれるのも私だけではないのだ。
カルロはリヒト様の全周囲に睨みを利かせていた。
それは教師である魔塔の魔法使いや、魔塔主までも含まれる。
怖いもの知らずすぎてちょっと引いた。
「でも」と男子生徒の一人が言った。
「カルロはめちゃくちゃ怖いけど、なんかあの目を乗り越えた先にリヒト様の微笑みがあると思うと、逆に燃える!」
「「「わかる!」」」
周囲が即同意する。
「リヒト様って同い年には思えないわよね」
別の日にも、女子生徒が言った。
「同じ10代とは思えないよね」と他の生徒も賛同する。
「大人っぽいというか、私のお父様よりも落ち着いているように感じる時があるもの」
「私たちへの接し方も同年代というより、大人として見守ってくれている感じがするのよね」
「魔塔の魔法使いたちよりも断然頼れる先生って感じ」
「リヒト様ご自身は魔塔主やオーロ皇帝と話している時の方が肩の力が抜けている気がするよな」
そんな言葉に他の生徒はナタリア様に視線を向ける。
「ナタリア様はリヒト様と親しいですよね? 実際のところ、リヒト様とオーロ皇帝は孫と祖父という感じですか? それとも……」
「そうね」とナタリア様は少し考えるようにしてから、何かを思い出したよう可憐にお笑いになられた。
「いつも威厳のあるお祖父様が、不思議とリヒト様とご一緒の時には普通のお祖父様に見えるわ」
「オーロ皇帝でさえも、リヒト様の前ではリラックスされるということですか?」
「そうですね」
我々、王子や王女どころか、各国の王だってオーロ皇帝の前では緊張し、オーロ皇帝も王たちににこりと笑う姿など見せたことがないと父王から聞いている。
それなのに、孫のナタリア様にならばまだしも、血縁関係もないリヒト様の前ではリラックスされるなど、リヒト様は一体どのような魔法を使っているのだろうか?
オーロ皇帝の心をもほぐすリヒト様の人柄に我々が陥落するなどあたり前のことで、入学からすっかりリヒト様中毒になってしまった我々にとって恐ろしい終業式が近づいてきていた。
我々はリヒト様とカルロが生徒会室に籠るお昼休みの時間に毎日ランチ会議を開いた。
議題は、どうしたら、リヒト様と再び早くお会いできるのか。
まずは穀物の収穫時期に魔虫が出るという国の王子が魔物退治の案を出したが、しかし、それは結局のところ新学年が始まる直前になるので、あまり効果的ではない。
「わたくし、ザハールハイド様が羨ましいです」
できるだけ早く再びリヒト様にお会いするための案を考えていたはずなのに、女子生徒の一人がそのように言い出した。
「一体、私の何が羨ましいというのですか?」
特別なものを何も持たない私のことなどを羨む者がいたことが驚きだった。
「ザハールハイド様はリヒト様に教科書作りに誘われていたではありませんか」
確かに、先日、私のノートを元に下級生用の教科書を作りたいとお声がけいただいた。
「リヒト様からお仕事をいただいたのですから、それを口実にこちらに留まることも、会いに来ることも可能ではないですか」
そのようなことを考えていなかった私は女子生徒の言葉にハッとした。
確かに、私にはリヒト様にお会いする口実があるのだ。
「そのような口実が私にもあれば……」
他の男子生徒まで羨むような眼差しを私に向けてきた。
そこで私は考えた。
「我が国の学園では成績優秀者に称号を与えて、その印として特別なマントを贈るのですが、我々も制服以外にそのようなものを提案してはどうでしょうか? 生徒会長であるリヒト様を中心にデザインや素材を決めたいと言って、みんなで集まるのです」
私の意見にみんなが真剣に考え始めた。
「揃いのマントですか……」
「魔法学園は9月開講ですから、外套がいいかもしれませんね」
「リヒト様としては制服以外にも皆様の好みや個性を縛るのは心苦しいとおっしゃっておりましたが、皆様が外套も統一しても問題ないということでしたら、きっとリヒト様は受け入れてくださると思いますわ」
ナタリア様の言葉に我々は驚いた。
まさか、リヒト様がそのようにお考えだったとは。
むしろ、我々は制服以外もリヒト様とお揃いのものを身につけたいと思っていたのに。
全身、リヒト様とのお揃いで飾っているカルロのことがどんなに羨ましかったことか……
「あの……」と、イーコスの件でリヒト様に相談していたイェレナ王女が恐る恐る言った。
「わたくしの国は雪が多く、寒い季節が長いですから、外套についても詳しいですし、素材も様々なものを用意できます」
「それから……」と王女は自信なさそうに言う。
「わたくしは裁縫も得意ですから……その……リヒト様にご提案しても違和感がないかと……」
私は彼女が自信なくそのように言う気持ちがわかる気がした。
私がノートをまとめる能力を大したことのない能力だと思っていたように、彼女もまた自分の持つ才能に自信が持てないのだろう。




