165 忠告 01
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ジムニからドレック・ルーヴが面会を求めていると聞いた私は情報ギルドへと向かった。
「リヒト様が魔法学園を作ってくれたおかげで他国の王侯貴族にもカードゲームやボードゲームが売れるようになりました」
ドレック・ルーヴが機嫌よく報告する。
「魔法学園とカードゲームが売れることに関連性があるのですか?」
「エトワール王国以外ではカードゲームもボードゲームも王侯貴族には売れなかったのです。そのため、材質を落とし、デザイン性をなくし、価格を下げて商家の子供など平民でも生活に余裕のある家に売っていました」
なぜ王侯貴族には売れなかったのかと言えば、王侯貴族の屋敷に出入りしている大商人がエトワールを帝国傘下に入ったばかりの小国だとバカにしてドレック・ルーヴの商会を取り合わなかったせいだという。
「しかし、リヒト様が魔法学園を作って、エトワール王国のリヒト様が魔塔主やオーロ皇帝のお気に入りだと知れ渡ると、リヒト様が後ろ盾をしている私の商会にも注目が集まりました! 魔法学園に子女が通っている国の王侯貴族はもちろんのこと、魔法学園に子女が通っていない国の王侯貴族からもお呼びがかかるようになったのです!」
「しかも」とドレック・ルーヴの口角がニィッと上がる。
「私の商会をバカにしていた大商人はお叱りを受けたそうですよ」
最後の話を実に楽しそうにするあたり、ドレック・ルーヴの性格の悪さが窺える。
つまり、それは、ドレック・ルーヴの中の人、飽き人くんの性格が悪いということになるのだが……
前世で仲良くしてくれた数少ないSNS仲間を悪く思うのはなんだか気が引けたが、SNSでは見えなかった彼の素の部分もあるのだろうから、私は王子として彼との接し方には十分に注意することにする。
「それで、商会が繁盛しているというのが本日の報告ですか?」
私の言葉に「それもあるのですが……」と、ドレック・ルーヴは同席しているジムニと魔塔主を見た。
「この二人はすでに私が異世界での前世の記憶があることを知っているので、異世界の話をしても大丈夫です」
そう話を促しても、ドレック・ルーヴはこの場で話してもいいのか迷っているようだった。
「リヒト様の推しのカルロ様の話です」
カルロの話は他の者に知られない方がいいと考えているのだろう。
ゲームのカルロと現在のカルロは置かれている状況も性格も全然違うため、確かに飽き人くんの話で印象が変わってしまうのはカルロにとって良くないかもしれない。
私はしばし考えて、ジムニに席を外してもらうことにした。
「まぁ、商売の話ではなさそうだから俺が席を外すのはいいですけど……そいつに何を言われても魔塔主だけは同席させてください。わかりましたね?」
心配性のジムニに私はわかったと約束をする。
ジムニが退室してから私はドレック・ルーヴ……飽き人君に向き直った。
「それで、カルロの話というのは?」
「リヒト様は、前世で『星鏡のレイラ』の二作目はプレイしていないですよね?」
「二作目が出たのですか?」
「はい。前世でリヒト様が亡くなった後に」
飽き人くんは前世の呼び名を使わないでほしいという私の希望を守ってくれている。
それに、言葉も飽き人くんの時よりも丁寧だ。
体裁を保ってくれているのだろう。
「そうなんですね……」
二作目では、カルロは幸せになれたのだろうか?
そう思った時、ドレック・ルーヴから衝撃的な言葉が告げられた。
「その二作目のラスボスである魔王が、カルロ様なんです」
「……え?」
私はあまりの驚きにドレック・ルーヴを凝視する。
カルロの親戚だとは思えないほど似ていないが、それでもかなり整った部類の顔だろう……まぁ、悪役とは言えど、乙女ゲームにブサイクを登場させるわけにはいかなかったのかもしれない。
「えっと……カルロが魔王というのは、どういうことですか? そもそもラスボスってなんですか?」
『星鏡のレイラ』は女性向け恋愛シュミレーションゲームであって、RPGとかではない。
一作目にはラスボスなんていなかったし、ラスボスなんていう存在を必要としないゲームのはずだ。
「一作目は一番好感度の高かった攻略対象とヒロインが恋人になりますよね」
私は頷いた。
一作目では攻略対象の好感度を上げて、特定の攻略対象のルートに入ってからは好感度を上げることと、選択肢を間違えないことが求められる。
元々ヒロインの婚約者であるリヒトの選択肢は何を選んでもほぼ正解で、どう見てもこれはアウトだろうという選択肢さえ選ばなければ簡単に攻略できて政略的な婚約者以上の存在になれる。
逆に、一番難しいのがカルロで、ルートに入っただけではなかなか攻略できず、無数にある選択肢の中からたった一つしか正解がないのではないかと思うほどに攻略が難しかった。
しかし、どの攻略対象を攻略して恋人になっても、一作目ではタイトルになっている『星鏡のレイラ』という神獣を見つけることはできなかった。
魔塔主とオーロ皇帝の話を信じるなら、星鏡というのは運命を知る異世界から来た者であり、レイラというのは前の星鏡の名前ということなので、実際にはこの世界には神獣はいないのかもしれない。
ドレック・ルーヴに憑依している飽き人くんによると、続編の二作目では、ヒロインは一作目で恋人になった攻略対象との絆を深めながら『星鏡のレイラ』を探すそうだ。
しかし、そこに邪魔が入る。
「その邪魔をしてくるのが魔王のカルロ様と情報ギルドなのです」