163 戦争勃発!? 02
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「私は快楽に弱いわけではありません」
普通ならば怯むはずの魔塔主の微笑みに怯むことなく穏やかな微笑みを返すとはさすがは第一補佐官だ。
「私はただリヒト様に弱いだけです」
「では、我々エトワールの者たちと同じですね」
何やら恥ずかしい会話をしているが、身動ぐ気配に後ろを振り向けば、私の後ろで待機しているカルロと乳母が深い頷きを繰り返していた。
二人だけでなく、ヘンリックやグレデン卿やメイドたちまで……
周囲の者たちに好かれていることはありがたいことだが、恥ずかしいのでやめてほしい。
「魔塔主はオルニス国にいつ支援に行くのですか?」
話題を変えるための私の言葉に魔塔主が不思議そうな表情で答えた。
「行きませんが?」
魔塔主はオルニス国の首長なのになぜ行かないのかと驚いたが、私ははたと冷静になった。
「もしかして、様子を見に行った際に支援も行ってきたのですか? すみません。魔塔主のことですから、そんなに迅速に対応しているとは思わず……」
「だらしなく寝ていたのですぐに戻ってきましたし、支援をする予定はありません」
私の言葉は途中で遮られ、信じられない言葉を聞いた。
「なぜ支援をしないのですか!? 魔塔主はオルニス国の首長なのですよ!?」
「私がいなくても何百年と問題なくやれている国に今更私が支援する必要がありますか? むしろ、私が行けば私を歓待しようとして国の修復作業が遅れますよ?」
「それは……確かに?」
そう言われてみれば、そのような気がしてきた。
魔塔主が行けば、城のあの大広間にまた皆が集まってくるのだろう。
オルニスの人々の性格上、復興作業など簡単に放り出しそうだ。
そして、また酒を酌み交わすに違いない。
それならば行かぬ方がいいのだろうか? とも思ったが、やはり国内がどのようになっているのか、皆無事なのかが気になる。
「私だけ行って様子を見て来ましょう」
「リヒト様が行っても同じことですよ」
どこか呆れたように魔塔主がそう言った。
魔塔主はオルニス国の首長であるため、たまに帰ると大歓迎を受けるのはわかるが、なぜ私まで?
私が首を傾げて魔塔主を見ると、魔塔主は第一補佐官に聞く。
「リヒト様はなぜ、いまだにご自身の影響力を理解していないのですが?」
「それは我々にも不思議なところです」
第一補佐官が困ったように眉尻を下げたが、小国の王子である私の影響力などないに等しいだろう。
「私はエトワール王国の王子ですから、エトワール王国ではそれなりに影響力はあると思いますが、オルニス国ではただの魔塔主の教え子に過ぎないでしょう」
「リヒト様は何百年も帰らなかった私をオルニス国に帰らせることに成功したただ一人の人間なのですよ? それだけでなく、変わり映えしない食事に飽きていた彼らに砂糖や香辛料をもたらし、長い年月を生きていた彼らに新しい喜びを与えたのです。もしかすると、今やオルニスの中ではリヒト様の影響力は私と同等かもしくはそれ以上のものになっているかもしれません」
あまりにも大袈裟な言葉に私は笑った。
「まさか、さすがにオルニス国の首長である魔塔主と同等ということはないでしょう」
「本当にリヒト様はご自身のことになると鈍いですね」
「では」と魔塔主は私の足元に魔法陣を展開させた。
相変わらず魔塔主が描く魔法陣は美しく、私は違和感など少しも感じることなくオルニス国の城の屋上へと転移した。
転移する直前にカルロとヘンリックが私にしがみつくようにしてきて、二人もしっかり転移している。
「カルロもヘンリックも急に魔法の範囲に入ってくるのは危ないよ!」
「そうですよ。私が従者君たちの魔力を正確に把握していなければ腕なり足なり、どこか一部分を置いて来てしまうかもしれません」
私と魔塔主からの注意にカルロの頬が膨れた。
可愛い顔をしても、危険なものは危険なのだ。
「リヒト様が私のことを置いていこうとするから」
「置いていこうとしたわけではありません。魔塔主が急に転移魔法を使ったのです」
そもそも、ヘンリックはともかく、カルロは魔塔主の転移魔法を使わずとも私の影を通って転移できるのだが?
「リヒト様がご自身の影響力を軽んじるからですよ……ああ、ここに私がいては意味がないですね」
そう言って魔塔主は姿を消した。
魔塔主が一体何をしたいのかはわからなかったが、私はオルニス国を見渡せる城の屋上から国を見渡した。
すると、美しい水晶の街並みには攻撃を受けた跡がしっかりと残っていた。
いくつもの水晶の建物にはヒビが入り、地面は陥没している箇所が何箇所もある。
エトワール王国が大国であったり、帝国傘下の古参で影響力のある国であればオルニス国の友好国としてエラーレ王国に抗議文を送るところだが、残念ながら今のエトワール王国がエラーレ王国に抗議をしたところでさしたる効果はないだろう。
むしろ、オーロ皇帝の邪魔にならないようにオーロ皇帝の処罰を待つ他ない。