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160 英明の手足 02(宰相視点)

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


「なんだそれは!? そんなの聞いていないぞ!」


 リヒト様に独自の情報網があるなど初めて聞いた話に私は驚いた。


「これまでは言う必要がなかったので」

「報告する必要があっただろ!」

「裏の組織の話を公にしたら裏じゃなくなり、リヒト様が動き難くなります」

「誰も公にすれなど言っていないだろう?」

「クリストフに話すには、大体いつも一緒のゲドルト様の耳にも入ることになります」


 ゲドルト様のことを言われると私は返す言葉がなくなる。

 確かに、最近忙しくてほとんどゲドルト様の執務室で仕事をしていた。

 そんなところでエーリッヒがリヒト様が持つ組織の話をすれば、ゲドルト様のテンションは爆上がりだろう。


 そして、下手すると会議の席などでリヒト様がいかにすごいかと話しかねない。

 全てを話さずとも、リヒト様が作った組織があるとか、リヒト様が後ろ盾になっている組織があると匂わるようなことを漏らせば、貴族たちは探りを入れ、裏組織の情報ギルドとて姿を隠しておくのが難しくなるだろう。

 だからゲドルト様に話すことは公にすることと同義なのだ。


 もちろん、ゲドルト様には悪気はなく、むしろ、自分の息子がいかに優秀かを7年間自慢することを我慢していた分、自慢と愛が止まらないだけなのだ。

 おそらく、あんなに優秀な息子がいたら誰だってゲドルト様のようになる可能性はある。


 エーリッヒが何を言いたいのかわかった私は理解を示して深く頷いた。


「それで、オーロ皇帝がリヒト様に仕事を与えているというのは、どういうことだ?」

「リヒト様は今でもたまに遠出をするのですが」


「ああ」と私は頷く。


「その数日後、ルシエンテ帝国の中でも冒険者に人気のないダンジョンが突如として消えたという情報が届くのです」

「その情報源が、リヒト様の作った情報ギルドなのか?」


 エーリッヒは頷く。


「情報ギルドのボスはグレデン卿の弟らしくて、リヒト様のために今やかなり広い範囲に情報ギルドの人員を配置して、魔導具で情報を収集できるようにしているそうですよ」

「……我が国の諜報員以上の情報収集力のようだな」

「残念ながら、そうですね」


 国の中枢で仕事をしている者として情けなくてため息が出る。


「そんな彼らからなぜエーリッヒが情報を得ることができているのだ?」

「リヒト様が公務を行うようになってから、連携が必要になるかもしれないからと紹介してくださったのですよ。情報ギルドのギルド長ではなくその下の者のようですが、彼にはリヒト様の公務の予定や公務でのご様子や行動を教える代わりに彼らが得たリヒト様に関わりのありそうな情報を教えてもらっているのです」

「つまり、エーリッヒはリヒト様が出かけた日を伝え、彼らはリヒト様が関わったであろうダンジョンの変化を教えてくれるということか」

「はい」


 私は眉を寄せる。

 リヒト様がお作りになった組織とはいえ、本当にその者たちを信用して大丈夫なのだろうか?


「信用しすぎるのは危険じゃないか?」

「私が会うのは常にジムニという情報ギルドのナンバー2なので、リヒト様を裏切るようなことは決してない者です」

「リヒト様を裏切らないと、なぜ言い切れるのだ?」


 エーリッヒは食後のお茶をひと口飲み、口角を上げた。


「リヒト様が下町に転移する時には毎回、そのジムニの部屋を使うそうです」

「……それだけ、リヒト様が信頼されているということか?」


 エーリッヒはリヒト様の人を見る目を信じているということか?


「そうです。それだけ、リヒト様に信頼されているのに、その栄光を手放せますか?」


 にんまりと微笑むエーリッヒの傲慢とも取れる態度に少し驚いたが、その言葉にはやけに納得もしてしまった。


「確かに、リヒト様から絶大な信頼を得ているというのは、素晴らしい高揚感だろうね」

「でしょう?」


 裏切ればその信頼も、あの穏やかな眼差しも失うと思えば、絶対に裏切ることなどできないような気がする。


「それで」と、私は話を元に戻した。


「オーロ皇帝の依頼によりリヒト様がダンジョンを浄化しているということか?」

「リヒト様が勝手にダンジョンを消すわけがないので、おそらくそうでしょうね」


 ダンジョンは魔物を集める。

 素材が取れる魔物は冒険者に人気があり、そうした魔物が多くいるダンジョンには冒険者が集まり、近くの町は冒険者を相手に商売をする。


 しかし、大した素材も取れない魔物しか出ないダンジョンはただ魔物を集めて近くの町や村を危険に晒すだけのため、消滅させることが可能ならば消滅させてしまった方がいいのだ。


 ダンジョンは作るのも消滅させるのも人の手では到底無理なことで、それがこれまでの常識だったのだ……いや、常識はきっとこれからも変わらないだろう。

 魔塔はおそらく今後もそのようなことができるとは公表しないだろうし、公表されてリヒト様の仕事が増えても困る。


「ヴィント侯爵はリヒト様の才能をずっと見ておられたのだよな? 王妃様には報告していたのだろうか?」

「いえ。ヴィント侯爵はリヒト様の全面的な味方ですから、リヒト様が王にも王妃にも秘密にしたいと言えば口を固く閉ざしていたようですよ」

「ヴィント侯爵がリヒト様の乳母になると名乗り出た時には不安だったが、愛情を注いでくれているようだな」


 ヴィント侯爵はもともと王妃様の親友で、才女である王妃様と純朴さくらいしか取り柄のないゲドルト様が婚約する際には一人反対を訴えていた。

 正式に婚約が決まってからは王妃様の側で働けるように己を磨いていたが、ゲドルト様に対してはその後もずっと冷たかった。


 なんなら今も冷たい。

 ゲドルト様は正真正銘、この国の最高権力者だというのに。






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