154 魔物討伐? 07
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ルミーネが口を開いた。
「リヒト様のアイデアの使用料をお支払いします」
「なるほど。悪くないですね」
私は微笑んで頷いた。
「では、私からは魔法陣を提供しましょう」
「……よろしいのですか?」
「実のところ、エトワール王国ではすでに温室の試作を行なっているのです」
アイトスのための発案だったと思っていた二人は驚いたようだ。
「しかし、我が国は領土がそれほど広くなく、国民の食料しか賄えませんから、アイトスのための食料まで作ることは難しかったのです。テル王国が名乗り出てくれてよかったです」
「そうだったのですね。それでは、エトワール王国での研究成果もご提供いただけるのでしょうか?」
「我が国では非常に特殊な材料を使用しているため、それは難しいです。その代わり、魔法陣を提供します」
「特殊な材料……それを教えていただくことはできないのですね?」
オルニスの人工水晶が手に入る可能性を知れば、どこの国も欲しがるだろう。
そうなればかなり面倒なことになるし、我が国は帝国傘下に入るまでは鎖国状態だったので、他の国よりも研究を進めるための人材も施設も資金も少ないから、他国に人工水晶が渡ればあっという間に研究成果など追い抜かれてしまう。
オルニスの人工水晶が我が国にあることを知られたところで他国に売る気はないが、面倒を避けるためには知られないことが一番なのだ。
「特殊な材料については秘密です」
ルミーネとルフは大国の人間ではあるが、公爵と伯爵の立場で王子に強くも出られないと思ったのか、「わかりました」と、あっさりと引いてくれた。
「アイデアの使用料と言っても王や大臣たちを納得させるのは難しいでしょうから、作物が育つのに適切な温度にするための魔法陣の使用料だと言えば、説得がラクになるのではないですか?」
「リヒト様のアイデアを自国で使おうとしている我々にまでお優しい配慮をしてくださるなんて……」
「なんてお心の広い……」
感動している二人には悪いが、別に私は優しさでそのような提案をしたわけではない。
アイデアの使用料など、下の者のアイデアを無断使用することや他国のアイデアを盗むことに慣れきっている王侯貴族という人種が納得できるわけもなく、私のアイデアを勝手に使うはずだ。
しかし、自分たちが考える魔法陣よりも優れた魔法陣の使用料ならば渋々とはいえど払ってくれるだろう。
しれっと盗用されるよりは、使用料を支払い易いように少しの協力をした方がいいという完全なる打算だ。
「そんなに感動しないでください」
私は苦笑した。
「ルシエンテ帝国の次に膨大な国庫を抱える農業大国であるテル王国にはそれなりの手数料を請求させてもらうつもりです」
私の言葉に二人は少し困惑したようだった。
「それは、他の国がリヒト様の魔法陣を使用する時の手数料とは違うということですか?」
「いいえ」と私は首を横に振った。
「手数料を高くするのは、テル王国のためです」
「どういうことですか?」
「テル王国よりも寒さが厳しい国の暖房用の魔導具をご存知ですか?」
二人は「いえ」と首を横に振った。
「寒さの厳しい国の暖房用の魔導具は誰でも温度調整ができる仕組みになっているのです」
「温度調整ですか?」とルミーネが首を傾げる。
「部屋の中が温かくなり過ぎれば魔導具を切ればいいだけではないのですか?」
ルフが理解できないというように眉を寄せた。
「テル国のような冬の厳しくない国ではそうですが、冬が長く厳しい国では秋と冬の真っ只中では魔導具の威力が同じでは困るのです」
「秋にも使うのですか?」
「秋や春もテル王国より寒いのですよ。そのような国が使っている魔導具ならば、私が提案した冬でも農作物を作れるような環境……温室は作りやすいと思います」
「農業大国である我々よりもですか?」
「はい。農業技術ではなく、温度管理技術により、テル王国よりも先に研究が進んでしまう可能性があります。それは、農業大国であるテル王国にとって望ましくない事態ですよね?」
ルミーネが納得の表情を見せた。
「だから、魔法陣の使用料を高くして、農業技術に対する資金が十分に準備できる国しか手を出せないようにするのですね?」
正解に対して私は頷いた。
「国庫に余裕のある国でなければ高額な使用料を払ってまで成功するかどうかもわからない温室の試作品を作ろうとは思わないでしょう」
「あの、リヒト様、王たちを説得する時に、そのお話をしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
むしろ、そのためにこの話をしたのだから有効に使って欲しい。
「でも」とルフが疑問を述べた。
「それなら、暖房の魔導具を使って農作物を作る場所を温めたらいいのではないですか?」
ルフの疑問にはルミーネがすぐに答えた。
「暖房の魔導具は一つに対して温められる範囲がそれほど広くないから、そこで農作物を作ったところで国内で消費される分をすこし作れる程度だと思うよ。暖房の魔導具を沢山おいたところで、それだけの量の消費魔石の準備と交換は大変だし、農作業以外の人件費がかかるだろう」
ルミーネが正解を求めるように私を見たので、私は同意見だという意味で頷いておいた。
正直なところ、正解などわからない。
魔塔の魔法使いたちのような天才ならば、小さな魔石で広大な敷地を温めることができる魔導具を作れるかもしれないのだから。
ひと通りの話が終わり、食事を終えるとルミーネとルフは嬉しそうに自分たちの部屋へと帰っていった。




