150 魔物討伐? 03
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森の中を歩くと、木に登って枝の間からこちらを見ていたスキウロスが私の後を追うように一緒に歩き始めた。
「足元にいると危ないよ」
私はスキウロスを踏まないように注意して歩く。
その様子を生徒たちは驚いたように凝視していた。
「こら! リヒト様の肩に乗るな!」
私の服にしがみついたり肩に乗ったりするスキウロスに対してカルロが注意する。
「リヒト様は魔獣使いでもあったのですね」
「あのように魔獣に好かれるとは、よほどお心がお優しいのだろう」
「リヒト様に侍れるなど、魔獣が羨ましい……」
何やら誤解を生んでいるようだ。
本当に私が心優しい人間ならばこの森で暮らす人間たちのために魔獣を殺し排除することを検討するのではないかと思うが、彼らはそのことには思い至らないようだ。
カルロのことであれ、魔獣のことであれば、結局は私は自分の好きなものに対してだけ優しさを見せる自分勝手な人間だ。
私の少し後ろを歩くカルロを見れば、まだ私の肩に乗っているスキウロスに文句を言っている。
その姿が愛らしく、私は思わず笑ってしまう。
他の生徒たちも森の奥に入り、手分けしてスキウロスの数が増えてしまった要因を探すことにした。
しばらくすると、上空から周辺を探していた風属性の生徒たちから「ダンジョンだ!」「ダンジョンがあります!」という声が聞こえてきた。
「この森にダンジョンがあるなど聞いておりません」
ちょうど私の近くにいたアラステアが呟くように言った。
風属性の生徒たちの案内する方へと向かうと、確かにそこにはダンジョンがあった。
ダンジョンの中を覗けば、光る目がいくつもある。
私が光魔法で中を照らせば、スキウロスが大量にいた。
どうやら、ダンジョンがこのスキウロスを増やしていた要因だったようだ。
「このダンジョンは消滅させても?」
アラステアに聞けば、彼も他の生徒たちも驚きの表情を見せた。
「ダンジョンを消滅……」
「そのようなことができるのですか?」
「わかりません」と私は正直に答えた。
「ただ、先日、図書館でダンジョンに関する面白い考察が書かれた研究書を読んだのです」
学園の図書館にはできる限り、帝国中の魔法書を集めておいているが、書物が少ないこの世界の本をできる限り集めてもちょっと大きく作りすぎてしまった図書館の本棚を埋めることは難しかった。
図書館のサイズは、その図書館を本で満たすことができるほどに魔法書があるはずだというライオスの願望の現れだった。
そして、前世の図書館を知っていた私は、学校の図書館程度が書かれた設計図を見て、そのまま許可を出してしまったのだが……魔法書で図書館の本棚を満たすなど、到底無理だった。
完全に計算を誤ったことをオーロ皇帝と魔塔主に伝えると、オーロ皇帝からは年代物の魔法関連の本が届けられ、魔塔主は魔塔の魔法使いたちが書き上げた貴重な研究書ではあるものの、魔塔主自身は興味がない分野のものを図書館に置き出したのだ。
つまり、二人とも魔法学園の図書館を倉庫のように使い始めたのだが、それでもライオスが感動していたので、私もそれを受け入れることにしたのだった。
そうして置かれた本の中に、ダンジョンについての研究書があった。
「研究書には、ダンジョンとはなんらかの要因で瘴気が溜まった場所にでき、その瘴気とは魔素が変質し劣化したものだと書いてありました」
私の話に大半の生徒が理解が追いついていない顔をしていた。
しかし、ライオスをはじめとした数名の生徒は理解できているようだった。
「劣化した魔素がダンジョンを生み出しているということですか?」
「いえ」と私は首を横に振り、研究書に書かれていた内容の続きを話す。
「ダンジョンはその劣化した魔素を精霊が修復するために作るそうです」
「つまり、リヒト様は魔素を修復しようとしているのですか?」
面白そうに魔塔主が目を細めて聞いた。
私は頷く。
「はい。初めてやりますから、うまくいくかはわかりませんし、魔素の修復が上手くいったところでダンジョンが消滅するかどうかはわかりませんが……」
「実験してみるのは面白そうですね」
ハバルも興味深そうにダンジョンに視線を向ける。
私は光属性と水属性、風属性を合わせた浄化の魔法陣を作るように魔力を注ぐ。
呪いを解く際には光属性の魔法を使い、治癒魔法は水属性のため、この二つを組み合わせ、風属性を加えたのは単なる勘だったが、どうやら上手くいったようだった。
魔法陣をダンジョンを囲むように広げると、ダンジョンは徐々に煌めく光になって崩れていき、消えた。
ダンジョンが消えると、生徒たちが興奮したようにわっと盛り上がりの声をあげた。
「リヒト様すごい!」
「さすがリヒト様!」
そう生徒たちが駆け寄ってこようとしたのを私は手を挙げて止めた。
そして、その手でダンジョンがあった場所を指差す。
「ダンジョンが消えた後にはダンジョンの中にいた魔物が残ります。危険なものもいるかもしれませんから、気を抜かないでください」
ダンジョンを指差していた私の指を、私の肩にいたスキウロスが腕を渡ってきて、指を挟み込むように小さな両手で掴んだ。
私としては他の生徒たちに注意を促したかったのだが、何とも締まらない絵面になってしまった。
なんだこの可愛いスキウロスは。
そう私がスキウロスにドキドキしていると、「うわぁ!」と怯えた声が聞こえた。
完全にダンジョンが消えて、大量のスキウロスの他に、中型犬サイズの魔獣が牙を剥いていた。




