149 魔物討伐? 02
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「どうしました? 皆さん、魔虫に愛着があるのですか?」
ハバルの言葉に一人の女子生徒が顔を青くして言った。
「逆です! 魔虫は気持ち悪いので近づきたくないのです!」
「気持ち悪いのならば思いっきり攻撃できると思いますが? それなりのサイズがあるので攻撃も当てやすいですし、群れているものもいるので攻撃魔法の練習し放題です」
「魔虫の群れとなると魔獣の群れとは違い、数が尋常じゃありません!」
私は前世のイナゴの大移動を想像してゾッとした。
「魔物に不快感を覚えることなど当然です。リヒト様のように魔物にまで慈悲の心を持つ方が稀です」
だって、魔獣や魔鳥は見た目が可愛いのだ。
私は様々な国を周っている時に小動物のような魔獣や美しい魔鳥を見てきたので、魔物に対しての抵抗感がますますなくなってきている。
「リヒト様は本当にお優しい」
「さすがリヒト様」
そんな囁きが生徒たちの間から聞こえてくる。
私は前世の害のない動物たちを知っているために魔物に対して怖いという思い込みや危険だという偏見がないだけで、別に魔物に慈悲をかけているわけではない。
誤解が広がる前に私は話を元に戻した。
「魔獣であれ魔虫であれ、国民に被害をもたらすのはよくないでしょう。そうしたものから選びましょう」
「それならば」、「やはり」と先ほど手を挙げた者たちが再び発言し、我々はひとつずつ対処することにした。
その日は話し合いで終わってしまったため、翌日から討伐に向かうことになった。
30名程度の生徒を一斉に同じ場所に転移させるために魔塔主が来てくれたのだが、その姿に緊張した生徒たちの口数が極端に少なくなった。
彼らからすると入学式以降姿を見せなかった魔法使いの最高位の憧れたり恐れたりする存在なのだろうが、魔塔主は最近は私の行動をちょくちょく監視しているようで、私が他国の王子から襲われそうになった時には守りに来てくれていた。
他国の王子や王女から内密に相談があると言われれば邪険に扱うわけにもいかなかったため、ヘンリックにも部屋の外で待ってもらい話を聞いていたのだが、そうした事件が何度かあってからはヘンリックかカルロがいる場所でしか話を聞かないことにした。
「魔塔主、先日も助けていただき、ありがとうございました」
「あれ以降は大丈夫そうですね」
「はい。一人で誰かと会うのはやめましたので」
それに、魔塔主も他の魔法使いたちも容赦無く生徒たちを退学させるので、おかしな考えを持った生徒や不真面目な生徒は一掃されたような気もする。
「それはよかったです。リヒト様は私の大事な存在ですから、気をつけてくださいね」
わかっている。
私は魔塔主の大事な実験材料なのだ。
魔塔主が私の頭を撫でる様子を王子王女は何やら羨望の眼差しで見てくるが、これは実験材料の埃を払うようなものなのだ。
「魔塔主、リヒト様の国宝級の髪に触れるなど不敬です! 離してください!」
カルロがそう抗議したが、魔塔主はオーロ皇帝でさえも下におくことのできない存在だ。
不敬という言葉は当てはまらないだろう。
それなのに、魔塔主は面白そうに口角を上げて、私の頭から手を退けた。
「従者君の言うとおり、リヒト様に対して不敬でしたね。失礼しました」
そう微笑み、魔塔主は私の手を持ち上げると手の甲に口付けた。
膝を折って礼などはしなかったものの、それはまるで忠誠を誓うような姿で、その場の全員、教師役のハバルでさえも息を呑んだ。
「魔塔主! 冗談はやめてください!!」
慌てて私が手を引っ込めると魔塔主はイタズラが成功した子供のように楽しそうに笑った。
カルロは私の手の甲をハンカチで拭く。
強く拭くものだから少し痛い。
「従者君、それではリヒト様の肌に傷がつきますよ」
「申し訳ございません! リヒト様!」
「私は大丈夫だから、カルロ落ち着いて。魔塔主はあまり私とカルロを揶揄わないでください」
「私としては可愛がっているつもりなのですが?」
まるでネズミなどの小動物をお気に入りのおもちゃとして構いすぎて殺してしまう猫のようだ。
「生徒のみんなの貴重な時間を無駄に削るわけにはいきませんから、早く行きましょう」
「まず最初に向かう場所は?」
私が国名と具体的な地名を告げれば魔塔主は一瞬のうちに我々を目的の場所に連れてきてくれた。
相変わらず見事な転移魔法だ。
生徒たちは身構える間もなく目的地に着いたことに驚愕し、感嘆し、感動していた。
最初はスキウロスが多く出るというグアラ王国の森へと来た。
しかし、本当に小さくて可愛いスキウロスの姿に数名の女生徒から討伐は可哀想だという意見が出た。
グアラ王国の王子であるアラステアが言うには、この魔物は繁殖力が高くどんどん増えるため、木々になる果物などを全て食べてしまうそうだ。
森に暮らす者はスキウロスと食料を奪い合うことになるらしい。
さらに、最近では森から出て、田畑を荒らすようにもなってきているということで、見た目は可愛いものの国を治める王族の立場としては看過できないという。
私はしばし考え、「これ以上増えないようにしてはどうでしょうか?」と提案した。
「魔物が増えるには、豊富な食料だけでなく魔力が必要でしたよね?」
ハバルは頷いた。
「瘴気がある場所や魔力が豊富な場所では魔物が増えやすいですね」
「繁殖力があるとは言っても、魔力がなければ子供に分け与えることができないため繁殖は控えるでしょう。この森に魔物が増える要因があるはずですから、その要因を探しましょう。放っておくと、獰猛な魔物や大型の魔物を呼ぶかもしれませんし」
他国の魔物討伐の方針にまで口を出さないと決めていたはずなのだが、可愛いスキウロスの姿につい口を出してしまった。
しかし、アラステアをはじめとした他の生徒からの反論も特にないため、私は彼らの心の広さに甘えることにした。




