147 教師代行
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「どうして、こうなったのだろう?」
私は困惑しながらも教壇に立っていた。
天才肌な上に気難しい魔塔の魔法使いの授業についていけない生徒たちは授業でわからないところを教師に聞くこともできずに私に聞いてくるようになった。
最初は一人ずつ対応していたのだが、その人数がどんどん増えたため、放課後に補習を行うことを提案して空き教室を使うようになったのだが、教室に来る人数は日に日に増え、今では全生徒が集まるようになってしまった。
そうなると、空き教室をわざわざ使う必要もなくなり、普段使っている教室を使い始めたのだが、そのうち、なぜか教師役の魔塔の魔法使いたちまで集まり出した。
「あの、先生方が私の話を聞く必要はないと思うのですが?」
「リヒト様の魔法のお話は面白いと魔塔主から聞いておりました。せっかくの機会ですので、見識を深めたいと思います」
私の講義は魔塔主から習ったものが大半だったが、それを理解するための基礎はゲームをしていた頃の知識と幼少期から独学で魔法を学び積み上げてきた知識だ。
魔塔主も他の魔法使いたちもおそらくそうした知識が混ざり合った部分に面白さを感じているのだろう。
私の講義が終わった後には個別で質問を受け付ける。
その個別対応にはカルロとライオスも巻き込んでいた。
私の従者で一緒に学んできたカルロの優秀さは入学試験の成績でも証明されている。
しかし、魔力量が少なくて実技試験の成績が入学者の中では最下位のライオスへの評価は高くない。
さらに、盗賊国家と揶揄されていた元公国を治めていた公爵一族という立場もあり、ライオスを内心で見下している者は多かった。
しかし、ライオスは魔法を使う時の基礎となる魔法陣についての理解が深く、勉強も地道にやってきたため教えるのも丁寧だ。
あまりコミュニケーションに長けている性格ではないが、魔法についての話ならば自然に言葉が出てくるので教えること自体に苦労することはなさそうだった。
ライオスの魔法陣についての解説を聞いた者たちは徐々にライオスの凄さや努力を認め、ライオスへの見方が変わってきたのはいいことだった。
「リヒト様は二属性の魔法を同時に使う時も杖や呪文を使わないのですか?」
生徒の一人にそんな質問をされた。
魔塔主は無詠唱だし、大きな杖を持っていることもあるが、滅多に使わない。
他の魔塔の魔法使いたちも無詠唱だったし、乳母たちが魔法を使う時も詠唱するところを見たことがない。
しかし、魔塔主と魔塔の魔法使いたちは天才であるために複数属性を組み合わせた魔法の時でも詠唱や杖を必要としないだけだし、乳母や両親、他の貴族が使う魔法は一属性だったために詠唱しなくてもよかっただけのようだ。
王宮魔法使いなどが複数属性の魔法を使う場合には、詠唱や杖などの補助がないと魔法を使うことはかなり難しいらしい。
「必要な属性の魔力でそれぞれその属性の魔法陣部分を描くようにイメージするのですが……」
「それが難しいのです!」
そう。一般的には複数属性の魔力で複数属性の魔法陣を描こうとするのは至難の技なのだそうだ。
例えば、光属性と風属性を組み合わせて結界を張る場合、魔法陣はそれらが混ざり合った紋様となるわけだが、魔法陣の中で光属性を示す部分は光属性の魔力で描き、風属性を示す部分は風属性の魔力で描く必要があるのだ。
私はゲームで何度も何度も魔法陣を見ているため、光属性の紋様を思い浮かべた時には自然と光属性の魔力が流れ、その流れのままに風属性の紋様が描かれれば、紋様に合わせて風属性の魔力が自然と流れている。
これはゲーム画面で属性によって魔力の色を変えて表現してくれていたから、紋様と魔力の色がセットになっており、子供の頃から属性と魔力の色を自然とリンクさせて考えていた結果身についたもののようだ。
前世のゲームの知識があるからこそ私には自然とできてしまうことも、他の生徒たちには難しいことのようで、それを補うのが詠唱や杖なのだ。
『光の糸を紡ぎ、風のゆりかごを……』
そうした詠唱をすることによって、イメージの補助を行い、流す魔力を変えるのだ。
杖を魔法の補助に使うのも同じで、杖を動かすことにってイメージを固めて魔法陣を作り上げる魔力を変えるためだ。
しかし、これまで一属性の魔力を使うことしか学んでこなかった生徒たちは杖や詠唱の補助があっても複数属性で魔法陣を作成するのが非常に難しいという。
何度も練習して慣れるしかないと言うのは簡単だし、その通りなのだが、効率のいい練習の仕方があるのならば教えてあげたい。
次の日の放課後、私は一枚の紙を生徒たちに見せた。
教師役の魔法使いたちも数人いたので、ついでに彼らにも見せることとなった。
「火魔法と風魔法を組み合わせた魔法陣ですね」
積極的にそう答えてくれた生徒に私は微笑み、頷いた。
彼の顔がすこし赤くなった。
部屋の中が暑いのか、もしくは風邪気味なのだろうか?
具合が悪そうだったらすぐに補習は打ち切ろう。
「このように自分が使える複数属性の魔法陣を描き、属性ごとに色を分けて絵の具でなぞってください。例えば、火属性の部分は赤で、風属性の部分は緑で、という感じです」
私は絵の具でなぞって見せて、説明を続ける。
「これは魔力の流れのイメージを定着させるための練習です。同じように何枚も魔法陣を描くことで、魔法陣のイメージをすぐに思い浮かべることができますし、属性によって色を変えてなぞることによって、魔力の流れを感覚的に覚えることができると思います。属性のイメージの色はご自身の感覚に合わせて決めてください。けれど、ひと属性につき、ひとつの色に固定してください」
まるで小さな子供の色塗りのような作業だったが、生徒たちは誰一人として一言の文句も言わずに毎日この作業に取り組んだ。
そして、徐々に複数属性を使える者が増えていった。
この訓練方法の効果を知った魔塔主が前もって魔法陣を描いた紙を教材として売り出すと言い出した。
発案者の私にも売上の2割をくれると言うので許可した。
商品とするための名前をつけるように魔塔主に言われた私は前世のゲーム内のアイテムを思い出してスクロールと名前をつけた。
この用紙があれば魔法が発動するというものではなかったけれど、巻物の状態で売り出すようなので間違ってはいないだろう。




