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146 わたくしの好きな人 03(ナタリア視点)

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


「ナタリア様は今日もお美しくていらっしゃる」

「あの髪飾りは帝都で流行っているのかしら?」

「ナタリア様がお召しになると制服も可憐に見えますわね」


 魔法の実技の授業中なのにも関わらずコソコソと話している令嬢たちは一体何を見ているのでしょうか?   

 しかも、微妙にわたくしに聞こえるように音量調整していますよね?

 こういうところです。

 令嬢たちのあざとくて面倒臭いところは。


「そこの者たち、今の説明を聞いていましたか?」


 本日の実技の教師役の魔法使いがわたくしの話をしていた女生徒たちに声をかけました。


 先生に注意されれば当然、焦って「聞いていた」と適当なことを言うのかと思えば、彼女たちは平然と「聞いておりませんでした」と少し眉尻を下げた。

 自分の立場ならそのように振る舞っても許されるとでも思っているのでしょうが、目の前の教師は自身の国の王室魔導師ではなく、一人でも大国を半焼、小国をひとつくらい吹き飛ばすことができる魔塔の魔法使いです。


 魔塔主が実際に大国を半焼させた過去があることからこのような噂が流れているのですが、お祖父様の見立てでは、魔塔主一人で帝国全土を余裕で火の海にできるそうです。


 そのことをよく知っている者たちは顔を青ざめていますが、国で十分な教育を受けていない様子の者は彼女たち同様、教師に対する無礼な振る舞いを何とも思っていない様子です。

「では」と教師は微笑み、わたくしをはじめ、魔塔の魔法使いの恐ろしさを知っている者たちの背筋を悪寒が走りました。


「あなた方を退学とします」


 その言葉にわたくしたちはホッと胸を撫で下ろしました。

 退学程度で許してもらえるなど、なんと運のいい。

 しかし、当の令嬢たちは納得いかなかったようで、不満を露わにしました。


「教師だからって横暴ですわ!」

「わたくしはルシエンテ帝国の傘下に最初に入った王国の王女ですのよ!?」


 ああ、あの国かと思ったのはわたくしだけではなかったはずです。




 帝国が大きくなり、経済活動が盛んになり、豊かになると国同士の争いはなくなり、帝国傘下に入っていない国よりも豊かになっていきました。

 国力に余裕が生まれた国々の王族の中には、そうした豊かさを享受している自国は帝国に選ばれたのだという謎の選民思考を持っている者たちがいますが、その思想が度を越して酷い国がお祖父様が最初に侵略した国の王族なのです。


 彼らはお祖父様が最初に侵略した国だったために、お祖父様が率いる軍の勢力を知らずに抵抗して多くの血を流した国でもあります。

 さらに、その後、お祖父様が他の国を無血開城していく中で何度も抵抗して何度も敗北し、国民の命を無駄にした愚王の治める国として知られています。


 その後、王と王に近しい親族は処刑して王の異母弟で王位からは遠かった者を新王に据えて国自体は大人しくなったはずだったのですが、自分たちはお祖父様に選ばれたのだと言い出した時にはお祖父様は頭痛を覚えたと聞いています。

 それでもそれを放置していたのは無視できる程度の声だったからだと思うのですが、まさかわたくしがここでこのように彼らの愚かさを目の当たりにすることになるとは思ってもいませんでした。


「学園では王女とか王子とか爵位とか平民とか関係ないという規則でしたよね?」


「それに」と教師は杖を彼女たちに向けました。


「我々教師にはあなた方を退学にする権利が与えられています」


 教師が軽く杖を振るうと彼女たちの姿が消えました。

 教師は青ざめている生徒たちを見回し、穏やかに微笑んで言いました。


「それでは、授業を再開しましょう」


 彼女たちを一体どこへやったのかと聞ける者はいませんでした。


 ただ、皆、救いを求めるようにリヒト様を見たのですが、リヒト様は相変わらず落ち着いた様子で真面目に授業に臨んでいたため、おそらく大したことは起こっていないのだと皆授業に集中し始めました。


 みんなの信頼が厚い人物が落ち着いているというのはとても大切なことです。

 たまに現れる傍若無人な魔塔主や、こうした教師と愚かな生徒のやり取りなどでストレスを感じたわたくしたちの精神安定剤としてリヒト様は必要不可欠な存在です。


 授業が終わってから一人の生徒がリヒト様に彼女たちがどうなったのか確認すると、出身国の城のどこかに飛ばされているはずだと言いました。

 しかし、それは教師が王国と城の場所を正確に覚えている場合であって、そうでない場合は教師が思いついた場所に飛ばされるので教師を怒らせないことが一番だとリヒト様は生徒たちを諭しました。


 こうした愚かな生徒や、リヒト様に邪な気持ちを向ける生徒たちがどんどん減り、生徒はほんの数日で最初の半数ほどになっていました。

 魔塔主も他の魔法使いたちも愚かな生徒たちの排除に容赦がないので、1日に何人も消えていきました。




 気に入らない生徒は容赦なく排除する魔塔の魔法使いたちですが、教師役であるはずの彼らは天才肌であるが故に教えるのが上手くない上に気難しくて気まぐれで、わからなかったことがあっても生徒たちが気軽に質問できるような存在ではありませんでした。


 そんな中、試験結果第一位で魔塔の魔法使いたちからも人気の高いリヒト様にわからなかったところを教えてほしいと言い出す者が出るのは必然でした。

 そして、人当たりがよく優しいリヒト様がそのような生徒たちを無視するわけがなく、授業内容が進むにつれてリヒト様に質問する者が増えていきました。


 質問者の人数が多かったためにリヒト様は放課後に空き教室で補習を行うことにしたのですが、その補習に集まったのは生徒全員でした。

 さらに、教師役のはずの魔塔の魔法使いたちまで集まりました。


 最初は魔塔主やお祖父様のお気に入りという価値しかリヒト様に見出せていなかった者たちも、いつの間にかリヒト様に惹かれ、リヒト様の友達や恋人など、彼の特別な存在になりたいと思う者が増えていっているのは明らかでした。

 きっと、リヒト様は気づいておられないでしょうが。


 わたくしはリヒト様が慕われていく様子を見ながら焦りを募らせていました。

 カルロと違ってわたくしはリヒト様とすこしばかり親しいだけの存在です。

 そんなの、他の者に簡単に追い越されてしまいます。

 実際、ヘンリックやライオスにはあっという間に追い越されてしまいました。


 今は、せめて、女の子たちの中では一番親しい存在でありたいと願うのは、それほど愚かな願いではないと思います。

 もちろん、一番の願いは将来、リヒト様の隣に立つことです。


 この学園生活の中で、きっと、カルロを追い越すチャンスだって訪れるはずです。

 また焦って、リヒト様に怒られることのないように、今度はじっと、チャンスを逃さないように淑女として落ち着いて待つつもりですわ。






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