138 リヒトの婚約者 04
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魔塔主の執務室で充分に気持ちを落ち着かせてから私は勉強部屋に戻った。
私が戻った時、カルロは乳母にお説教されていた。
「リヒト様を追い詰めていはいけないと何度も繰り返し教えたにも関わらず、あなたは一体何をしているのですか?」
乳母に叱られながらもカルロはなんだか少し拗ねているようだった。
その姿が妙に可愛くて、先程の見知らぬカルロではないことにホッとした。
それにしても、乳母の言葉が気になった。
「あ、あの、もしかして、乳母はカルロの気持ちに気づいて……」
「リヒト様、カルロの気持ちはリヒト様以外の皆が知っています」
皆と言われて、私は思わずグレデン卿やグレデン卿と交代のために来ていたヘンリックにも視線を向けた。
二人とも無言のままこくりと頷いた。
その時、「失礼します」とシュライグが部屋に入ってきたので、シュライグにも聞いてみると、その表情を明るくして感動された。
「リヒト様はやっとカルロ様のお気持ちに気づいてくださったのですね!!」
本当に、私以外のみんなが知っていたのか……
魔塔主のところで気持ちを落ち着かせてきたというのに、驚きの衝撃で今度はめまいを覚える。
少し揺れた私の体をすぐにヘンリックが支えてくれた。
「リヒト様、大丈夫ですか?」
「ありがとう。ヘンリック」
カルロの眉間に皺が寄る。
時々、あのような顔をしていたけれど、まさか、あれは嫉妬していたのだろうか?
そう考えると、これまでに似たような場面は何度もあったような気がする。
カルロは本当にずっと私を好きだったのだと理解した途端、顔が熱くなった。
やばい、これは恥ずかしい。
とはいえ、私は恋愛的な意味でカルロを好きだったことがない。
同い年という認識もなかったし、ずっと大人としてカルロの成長を見守ってきたし、大人として子供時代の推しキャラまじ天使だと思ってきた。
こんな私が、いくらカルロが私のことを好きだと言ってくれるからと言って、婚約者となり、自分に縛りつけてもいいのだろうか?
……いや、よくない。
全然よくない。
「いいですよ」
不意に、すぐ近くでカルロの声がして、私はいつの間にか思いっきり瞑っていた目を開いた。
「……え?」
「リヒト様、今、僕のことで悩んでましたよね?」
「よくわかったね」
「すごく顔に出てました」
「そっか……」
「いいですよ」
カルロはもう一度同じ言葉を繰り返したが、私にはさっぱり意味がわからなかった。
意味がわからないから話しをしたいが、前世の話が出てしまうかもしれないから、みんながいる前では迂闊なことが言えない。
困って乳母を見ると、すぐに察してくれた乳母はみんなを連れて部屋の外に出てくれた。
扉を閉める前には「カルロに襲われそうになったらすぐに呼んでください」と言って閉めた。
乳母が息子を全く信用していないことが伺える。
「カルロ」
「はい」
先程のように逃げ道を塞がれると困るので、私は立ったまま話した。
「いいって、何がいいんだ?」
「リヒト様は僕のことを好きだし、大切だけど、それは恋愛的な意味じゃないというところで悩んでましたよね?」
え? 闇属性の魔法って読心術もあるの? 怖い……
「別に、恋愛感情がなくても、僕のことを婚約者にして、他国からの婚約話を断る口実に使ってもいいです」
「良くないだろ!?」
私が考えていたことを全部理解しているのすごく怖い……
「リヒト様は僕の前でお気持ちを隠したことがないので、考えていることは大体わかります」
「……言われてみれば、確かに、カルロの前で気持ちを隠したり、コントロールしたことはないかもしれない」
だって、カルロはこの世界に転生した私にとって一番馴染みのある存在だったから。
前世からずっと知っていて、ずっと守りたかった存在。
「……カルロのことは、恋愛的な意味では好きじゃないけど、ずっと守ってあげたいって思ってる」
カルロが私に一歩近づいて、私の手を握った。
「それは、私が中身おじさんだから……カルロより、ずっとずっと大人だから」
カルロがもう一歩近づいてきて、私は思わず一歩後ろに逃げた。
「大人として、カルロのことを守ってあげたいと思ってきたんだ」
恋愛的な意味でカルロのことを好きなわけじゃなくて、中身がおじさんで、カルロとは色んな意味で不釣り合いなんだけど……
「それでも、いいのかな?」
「十分、幸せです」
それなら、カルロを婚約者にしてもいいのかもしれない。
「あ、他に好きな子ができたら…「絶対ないです!!」」
食い気味に即否定された。
両親にカルロと婚約することを報告すると、「やっとか」とどことなくホッとされた。
本当に、私以外のみんなが気づいていたようだ。
自分の鈍さが恥ずかしい……




