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137 リヒトの婚約者 03

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


「カルロ!? 52歳のおっさんに何して……」


 カルロの危機感が無さすぎてやばい。

 おっさんにキスするとかなにを考えているのだろう……


「私は52歳なんだから、もっと警戒心持って!! 中身52歳の子供なんて気持ち悪いだろ!?」


 カルロは私の手を握って、再び私の顔に自身の顔を近づけてくるから私は体をのけぞらせてできるだけ離れる。


「気持ち悪くなんてないです」


 カルロはキッパリ言った。


「リヒト様がまだ11歳だと思っていたから、初心なリヒト様のお心を傷つけて嫌われたらいけないと思って我慢していたのですが、リヒト様が大人なのでしたら、きっと前世でたくさん経験してきたことですよね?」


 あれ?

 カルロが何か怒っているような気がする。


「これまでどのような方とお付き合いされてきたのですか? ご結婚もされていたのですか? 前世で一番好きだった人のことを教えてください。僕、その人みたいになれるように努力しますから」


 カルロは片手を私の腿において、もう片手で私の顎を捉えて、再び顔を私の顔に近づける。

 その目はやけに艶っぽくて、私はソファーの上を逃げる。

 しかし、カルロに簡単に間合いを詰められて、ソファーに押し倒されてしまった。


「リヒト様、教えてください。どんな人がタイプですか?」


 推しの整いすぎた顔が近すぎる。

 あまりのことにパニックになりかけた私は思わず転移した。




「……リヒト様、顔が真っ赤ですが、何かあったのですか?」


 転移先は魔塔の最上階だった。

 完全に無意識の判断だったが、確かに、ここが一番安全な気がする。

 私は顔を覆い、呻いた。


「魔塔主……一体、私はどうしたらいいのでしょう……」


 私の影には全力で魔力を注ぎ、カルロが追ってくることは拒否である。

 魔塔主は赤い私の顔をじっと見つめてから言った。


「従者君に告白でもされましたか?」

「……魔塔主は私を監視でもしているのですか?」


 魔塔主ならばどのようなことでも可能にできそうだと思うのは、これも一種の偏見だろうか?


「リヒト様がお許しくださるならしましょうか? 研究対象の監視許可が下りるのならば遠慮なく……」

「絶対にやめてください!」


 この言い方、やはりやろうと思えばできるのだろう。

 絶対に許可など出せない。

「それは残念です」と魔塔主は微笑んだ。


「それで、皇帝の孫娘とくっつける予定だった従者君に自分自身が告白されてしまって困っているのですね?」

「私はカルロを幸せにするために、ナタリアとの絆を深める場所として魔法学園を作ったのです」


 ゲームと同じ舞台を作り、ゲームのストーリーをなぞり、二人がゲームのカルロルートのように仲を深められるように。


 私は魔塔主の執務室のソファーに座り、膝を抱えて体を丸めた。


「知ってはいましたが、とても不純な動機で大きなものを作りましたね。どの国にも属さない、誰の命にも従わない魔塔を利用して」

「……すみません」

「知っていて協力したのは私ですから文句を言いたいわけではありません」

「カルロの言うとおり、カルロがナタリアを好きではなく、今後も好きになる可能性がなく、さらに神獣もいないのに……魔法学園を作ったことが無意味になってしまいます。ここで私がカルロの気持ちを受け入れてしまっては、一体、何のために魔法学園を作ったのか……」


 私の言葉に魔塔主はふふふっと、珍しく声を出して笑った。


「本当にリヒト様はカルロのことしか考えていないのですね」

「……悪いですか?」


 私は膝を抱えたまま魔塔主を横目で見た。


「王子としてはどうかと思いますが、リヒト様という一個人としては別にいいのではないですか?」


「それでは」と魔塔主が少し意地悪く笑った。


「久しぶりに私がリヒト様に教師として教えてさしあげましょう」

「何ですか?」

「学園とは、学び舎です。学問を学び、他の学生と交流し、心身を成長させる場所です」


 魔塔主の目が、自分勝手な私を見透かしている。

 別にそれでいいと言ったように、責めている眼差しではない。

 しかし、思わぬカルロの告白に動揺していた私の心を落ち着かせる。


「あなたの前世のゲームの世界の舞台というだけの場所ではありませんよ」


 そうだ。ライオスが何年も考えて作ったあの場所は、魔法を学ぶのに最適な場所になっている。

 別に恋愛するためだけの場所じゃない。


 魔法の基礎をすでに習得し、試験に合格しなければ入れないから平民が入学するにはハードルが高いけれど、王侯貴族のみしか入学できないという風には定めていない。


 これまで魔塔の魔法使いに家庭教師を頼むことができなかった中級、下級貴族、そして平民も入学さえできれば最高位の魔法使いたちから魔法を学ぶことができる場所なのだ。

 学費は爵位によって異なり、平民は無料と定めている。


 そして、この世界で初めての国境を跨いでの王族が通う学園になるだろう。

 各国に自国の王侯貴族が通う学校はあるものの、他国から多くの王子王女が集まる可能性がある学園はこの魔法学園が初めてなのだ。


「楽しんでください」


 魔塔主が微笑んだ。

 その見守るような眼差しが、本物の”良い先生”みたいで、そんな顔ができたのかと驚いた。


「もっとも、リヒト様にはもう魔塔の魔法使いが教えられることはないと思いますが。だから、ずっとお探しの理事長には、リヒト様がなってはいかがでしょうか?」


 私は魔塔主の言葉に呆れた。

 もう魔塔主の眼差しに”良い先生”という印象は全くない。


「魔法学園が創設されて入学する時には私はまだ12歳なのですが……」

「関係ありませんよ。魔法使いの世界は年齢ではなく実力が重要視されますから」


 私は少しの間考えたが、首を横に振った。

 魔法使いの世界では関係なくても、王侯貴族の間では関係あるだろう。


「魔法学園がルシエンテ帝国の支援により創設されたものである以上、私があまり目立つようなことはするべきではないでしょう。魔塔主が理事長になってくれるのが本当は一番収まりがいいんですけどね」

「そのようなこと一度も言わなかったではありませんか」

「断られるとわかっているのにわざわざ言いませんよ」

「断らないかもしれないじゃないですか?」


 魔塔主は私の中身が52歳だとわかってから、こうした言葉遊びが前よりもひどくなった気がする……

 いや、前とさして変わらないだろうか?

 私がじとりと魔塔主を見て何も言わずにいると魔塔主はおかしそうに笑った。


「やってもいいですよ。理事長」

「……え?」

「その代わり、条件があります」

「お給料は魔塔主が満足いく額は出せないかもしれませんよ」


 魔塔主の研究費用は膨大だ。

 それを賄うだけのお給料など出せないだろう。


「そうではなく、名前を貸すだけで実務は別の者に行って欲しいのです」

「それは全く構いません。元々、その予定でしたから」

「さすがリヒト様、私のことがよくわかっていますね」


 その後、何もしなくてもいいなら自分がしたかったとオーロ皇帝には文句を言われたが、魔法学園の理事長には一番ふさわしい人がなってくれたと思う。


 ちなみに、学園長にはルシエンテ帝国の皇太子が就任することが決まっている。

 オーロ皇帝から何か役割を任せてやってほしいと言われ、学園長なんてどうですか? と、これまた埋まらなさそうだった役職を言ってみたところ、皇太子がすごくやる気を出してくれたそうだ。






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