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136 リヒトの婚約者 02

お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけますと幸いです。


いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。

皆様の応援で元気をもらっています。


「だ、だめです。そんなの、カルロが可哀想です」

「ヴィント侯爵からはこの申し出はカルロが望んだことだと聞いているが?」


 私はゾッとした。

 またカルロは私のためだと思って自分を犠牲にしようとしているのだろうか?


 私の顔色が変わったことに気づいたのだろう。

 父上は困ったような表情を見せる。


「リヒトが望むならば、ナタリア様との…」

「それはありません!」


 私は慌てて否定した。

 私はナタリアと婚約したくて、カルロとの婚約の案を拒否したわけではない。


 ナタリアにはカルロを幸せにしてもらわなければいけないのだ。

 ゲームのように、またしてもリヒトにナタリアを取られるわけにはいかない。


 私の顔をじっと見つめていた父上は私を安心させるようにその表情を緩めた。


「まだ時間はあるから、一時的にでも誰か婚約者を定めることを考えてみてほしい」

「……わかりました」


 私は父上の執務室の中で仕事をしていた第一補佐官に声をかけた。

 彼の近くにカルロはいない。


「あの、カルロと話をしたいのですが、カルロは今どこに?」

「第四補佐官と一緒に文官に書類を届けに行きました。もう少しすれば戻ってくると思います」

「戻ってきたら、カルロをお借りしてもいいですか?」


「もちろんです」と第一補佐官は快く了承してくれた。




 第四補佐官と父上の執務室に戻ってきたカルロを連れて、私は勉強部屋へと戻った。


「カルロ、どうして私の婚約者になんて名乗り出たんだ! またそうやって自己犠牲なんてして、私が喜ぶわけないだろう!?」

「自己犠牲じゃありません!」


 カルロの強い声に私は驚いた。


「自己犠牲なんかじゃないです……」


 カルロが私に抱きついてきて、カルロの身長が私と並んでいることを実感する。

 11歳の誕生日パーティーの衣装を準備している時には気づいていたが、改めてこうして抱きつかれると本当にほぼ同じ身長なのだとわかる。


「リヒト様の婚約者になるのは僕が本当に望んでいることです。僕は本当に……リヒト様が思っている以上に、僕はリヒト様のことが好きなんです」

「カルロが従者として私を慕ってくれているのは知っている。けれど、一度婚約者になってしまえば、いくら一時的とは言えどナタリア様の心象はよくない」


 カルロが一度体を離して、不満そうに私を見た。


「リヒト様はいつまで僕がナタリア様を好きだと勘違いしているのですか?」

「勘違いなんかじゃ……」

「勘違いですよ! 僕は一度もナタリア様を好きだったことなんてありません!」


 な……なんだって!?

 あんなに仲良さそうに見つめ合ったりしていたのに、好きじゃないだと!?

 だとしたら、カルロはナタリアにかなり思わせぶりな態度をとっていたことになる。


「ずっとリヒト様のことが好きなんです! 従者と主人という立場でももちろんお慕いしておりますが、それ以上にリヒト様にキスしてほしいくらいに好きなんです!!」


 キスしてほしい……

 つまり、プロポーズしてほしいということだろうか?

 カルロがナタリアのことを好きじゃないという衝撃に加えて、さらなる衝撃に私は動揺する。


「い……いやいやいやいやそれはダメだよ!!」

「リヒト様が僕を好きじゃないからですか? 僕には望みがないんですか?」


 それは聞かないでほしい!!

 嘘はつきたくない。

 でも、嘘をつかないと、カルロを幸せにできないかもしれない。


「……そうだ。私は、カルロにはキスできない……」

「嘘ですね」


 速攻で見破られた。

 カルロは強い口調でキッパリと言った。


「リヒト様、今躊躇してました」

「それは、カルロを傷つけることになるから! 私はカルロを傷つけたくない」


「そうですよね」と、カルロの瞳が細められる。


「リヒト様は僕に優しい」


 カルロの顔が再び、ぐいっと私に寄せられた。

 私は一歩下がった。


「リヒト様に初めてお会いした時は誰にでも優しいのかと思っていました。確かに、子供たちには優しいですが、リヒト様は特に僕に優しいんです」


 カルロがにこりと微笑む。

 会ったばかりの頃のはにかむような笑顔ではない。


「一度はリヒト様を怒らせてしまって、そのまま嫌われてしまうかもしれないと怖かったですが、それでもやっぱりリヒト様は僕に一番優しかった」


 オルニス国でカルロに対して怒ってしまってからしばらくはカルロは自信なさそうに、また怒られることを恐れているように慎重に私に接していたけれど、あれから2年ほどが経ち、カルロも大人になって恐怖を抱いている様子もない。


「リヒト様は僕のこと好きです」


 むしろ、以前よりも確信を持っているように言った。


「だから、僕は神様に恋をするなんて、無謀なことをしてしまったのですから」

「乳母とグレデン卿!」


 私は居た堪れなくなって、部屋にずっといた二人を呼んだ。


「申し訳ないが、カルロと二人きりにしてください」


 私とカルロの会話をそれまでずっと聞いていたはずの二人は顔色ひとつ変えていない。

 あんな恥ずかしいカルロの話を聞いていて、なぜ顔色をひとつ変えることなくいられたのか不思議だ。


「扉の前におりますので、カルロに襲われそうになったら呼んでください」


 乳母がそう言って扉を閉めた。

 ちなみに、メイドたちのことはすでに乳母が下がらせている。

 乳母はこのような展開になることを予想していたのだろうか……


「僕の失態を隠すためにお二人を外に出したのですか?」


 カルロがまた一歩、私との距離を詰め、私はまた下がる。

 きっと、今の私の顔は真っ赤だろう。


「いや、違う」と、私は首を横に振った。

 そして、覚悟を決める。


「カルロに、私の秘密を打ち明ける」


 そうでもしないと、カルロの暴走はきっと止まらないだろう。

 カルロの暴走が止まってくれないと、私の鼓動も落ち着かなくて困るのだ。


 私は自分を落ち着かせるためにソファーに座り、カルロに向かいのソファーに座るように示したが、カルロは定位置である私の隣に座った。

 カルロとの距離がいつも通り近くて、これではすぐに心臓の音が落ち着くのは無理だと、私はため息をついた。

 仕方なく、私は自分のうるさい心臓の音を聞きながら話をすることにした。


「驚くと思うが、落ち着いて聞いてほしい」


「はい」と、微笑むカルロの顔が近い。


「私には前世の記憶があり、前世で死んだ時の年齢が52歳なんだ」


「はい」と、カルロは驚いた様子ひとつ見せずに返事をした。


「……だから、つまり、私の中身は52歳なんだ」

「それで大人びていたのですね。格好いいです」


 気持ち悪いと距離をおかれるはずが、先ほどよりもカルロの顔が近い。


「違う!! 気持ち悪いだろう? 52歳のおじさんが子供のふりをして無邪気に笑ったり、カルロを抱きしめたりしてしまっていたんだよ!?」

「前世が52歳でも実年齢は11歳ですよね?」


 ……カルロの冷静さが裏目に出ている。

 52歳のおっさんが子供たちに混じっている気持ち悪さがわかっていない。


「それに、リヒト様が52歳でも僕は絶対にリヒト様のことを好きになります」


 そう言って、カルロは私の唇に自分の唇を触れさせた。


「っ!?」


 私は驚いて、反射的に自分の唇を手で覆った。






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