133 会議室での一波乱 02
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
いいねやブックマーク、評価や感想等もありがとうございます。
皆様の応援で元気をもらっています。
「ご心配には及びません」
私は本当に何でもないかのように明るく言った。
「オーロ皇帝が資金提供してくださいますので、皆様方にご負担いただく必要がないのです」
私の代理として第二補佐官が出向いて直接説明と人手の要請をした貴族以外は「オーロ皇帝ですか!?」と驚きの声を上げた。
「オーロ皇帝は本当にリヒト様を気に入っておられるのですね……」
前王派の貴族の頬が引き攣っている。
「ありがたいことです。誰かにいじめられたらいつでも言うようにとおっしゃっていただいております」
先ほどまで勢いの良かった彼らは息を呑み、目立たぬように影を潜めた。
10歳の王子に常識というやつを教えてやろうと高圧的だった貴族たちの自信は消滅していた。
私の話しひとつで、帝国の皇帝から死刑を言い渡される可能性があるのだ。
「本日の会議の様子もオーロ皇帝に報告する必要がありそうですね。出資者であるオーロ皇帝には私が未熟だったばかりに貴族たちにあらぬ誤解を生んだと報告しておきます」
「い、いいえ!」と前王派の貴族たちが慌てて首を横に振った。
「リヒト王子に落ち度などございませんので、オーロ皇帝への報告は不要でしょう!」
「そうです! むしろ、我々が貴族としてリヒト王子のお考えをもっと読み解く必要があったのです!」
何も言わない私の考えを読むなど土台無理なことを言い出すほどの慌てぶり。
オーロ皇帝の名前の威力はすごい。
「いえ。私の配慮が足りなかったのです」
私はまるで慈悲深い王子のように微笑んだ。
「それで、今回の件で不満を持っていた者はどれほどいたのでしょうか? 私も現状をしっかりと把握しておかねばオーロ皇帝の報告に困りますから、この場で名乗り出てもらえませんか?」
その場はシンッと静まり返っていた。
しかし、先ほど発言していた貴族たちの視線がチラリと一人の伯爵へと向けられる。
先ほどから私の様子を伺うばかりで発言はしていない伯爵だ。
そんな伯爵は彼らの視線を受けて、少し肩をすくめて立ち上がった。
「リヒト王子、今回の件は彼らの誤解によりリヒト王子にお越しいただくというお手数をかけてしまったのです。そのような瑣末なことをオーロ皇帝にお伝えしては却ってオーロ皇帝のご迷惑でしょう」
「皆さんも知っての通り、オーロ皇帝は気難しく厳しい方です。私はそのオーロ皇帝から魔法学園建設においてはどのような瑣末なことも報告せよと言われているのです」
「では、リヒト王子はエトワール王国の王子として国民である我々に御慈悲をお与えください。オーロ皇帝に報告されることによって、先ほど発言した貴族たちはどのような目に遭うのか……」
この伯爵は中立派として知られているが、実際のところは前王が王の時には子供たちを送り利益を得て、現王が即位してからはその行為をやめたように見せかけ、現王派であるように見せながらも裏では前王に子供を送り続けたコウモリである。
現王である父の勢力がまだ弱い頃から資金面などで助けてくれていたようだし、自身が手に入れた利権は領民のために使っているようだから、領主としては優秀なのかもしれないが、私はこの男も嫌いだ。
「では、其方が彼らの代表のようであるし、其方の名前だけを報告することとしよう」
途端、伯爵の顔が青ざめた。
「私は彼らが困っている様子だったために助け舟を出しただけであり、彼らの代表ではございません!」
「大丈夫」と私は微笑んだ。
「其方は器用に立ち回り、弁も立ちそうだ。オーロ皇帝から問われたところで特に問題はないだろう」
「いえ、そのようなことは……」
「父上、次のスケジュールがございますので、これにて失礼致します」
「ああ」と父王は機嫌良さそうに微笑んで私を見送った。
もちろん、本当にオーロ皇帝に彼らの話をするつもりなどない。
少し卑怯ではあるが、ああしてオーロ皇帝の名前を出しておけば前王派の貴族たちは大人しくなるだろう。
「あの伯爵をあまり刺激してはいけないよ?」
私が会議室から出て二時間ほど後に会議は終わったようで、私は父王に執務室に呼ばれた。
「特にこれ以上関わるつもりはございませんが、一応理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
父王は味方が少ない頃から王という職務を頑張ってこなしていると思う。
そうしたところは中身52歳としては感心しているし、彼の子供としては尊敬してもいる。
しかし、コウモリ伯爵を擁護する気持ちは理解できない。
「伯爵は領地経営のためにコウモリでいるのだ。伯爵はそうして得た利権や利益を領民のために使っているし、領民も伯爵を慕っている。あまり伯爵を追い込むと、領民の不満を生むことになるだろう」
「子供を犠牲にして得た利権や利益です」
「帝国法が適用される前のエトワール王国では違法ではなく、利権や利益を得るための方法でさえあったのだ。生きていくために道徳はそれほど重要視されない」
父王の言うこともわかる。
しかし、理解はできても、決して許容はしたくない。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722