129 エラーレ王国 06
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フェリックスの研究をフェリックスの頭の中に止めておかずに発表するための資料を作るために、私はライオスを呼んだ。
ライオスは魔法学園を作るためのアイデア出しの時点から自分の考えを文章化するのがうまかったし、他者に理解してもらうための図面を引くのもうまかったから、フェリックスの資料作成の手伝いにもってこいの人材だと思って呼んだわけだが、その結果、フェリックスと喧嘩になった。
まず、空飛ぶくんの説明を聞いたライオスはそれは空を飛んでいるのではなく滑空しているにすぎないため、名前が不適切であることを指摘した。
ここで一度喧嘩になった。
そして、魔石を使わない空飛ぶ道具という点に関しても指摘した。
私も考えていた部分ではあるが、やはり魔石を使わないで飛行することは難しい。
フェリックスの魔石を使わずに誰もが飛べる方法となると、滑空するくらいしかできず、一度かなり高いところに登らなければならないと考えると実用性は低い。
という点をライオスが指摘したところでもう一度喧嘩になった。
私はこの2度の喧嘩を止め、発表まで時間がないし、魔法も魔石も使わずに飛ぶ……実際には、滑空だとしても、それで十分、オーロ皇帝の興味は引けるだろうとライオスを説得して、資料作りに協力してもらったのだった。
なんとか人前で発表できるくらいに資料をまとめ、図面を整えることができた頃、オーロ皇帝視察の日がやってきた。
朝から本宮が賑わう音が聞こえてきて、私たちも少し緊張した。
本宮に住まうエラーレ王国の王にはオーロ皇帝がフェリックスの研究を聞く予定があることは伝えていない。
オーロ皇帝が気に掛ける存在などエラーレ王には目障りなだけで、消される可能性もあるため、前もって知らせるのではなく、宴会の際に話題に上らせることになっている。
そのため、フェリックスの衣装は上質なものを準備することができなかったが、フェリックス自身はそんなことは気にしていないようだった。
オーロ皇帝にいつ呼ばれてもいいように待っていたのだが、エラーレ王国到着初日には声がかからなかった。
本宮の使用人がフェリックスを呼びに来たのは、翌日の日が暮れ始めた頃だった。
「其方がフェリックスか?」
「お初にお目にかかります。帝国の太陽。第六王子のフェリックスです」
「風の噂で其方が面白いものに乗って空を飛ぶと聞いた。どのような原理なのか説明してくれるか?」
フェリックスはオーロ皇帝を前にしても怯むこともなく、楽しそうにグライダーの説明を行った。
ちなみに、名前に関してはライオスが全力で反対し、私に意見を求めてきたため、「グライダーと呼ぶのはどうかな?」と提案すると即採用された。
発表の間中、フェリックスの後ろで従者のように控えている私に対して、フェリックスの兄であるエラーレ国王やその王妃、会場内にいる貴族たちが不審者を見るような視線を向けてきた。
フェリックスの立場では従者をつけることはないため、それならば使用人だろうと皆一様に結論づけてはいるだろうが、使用人だとすると幼すぎると考えているのだろう。
「とても興味深い発表だった。実際に飛んでいるところを見せてみよ」
オーロ皇帝の無茶振りに会場内がざわついたが、当人のフェリックスは何くわぬ顔で「わかりました!」と元気に返事をした。
こうなることは予想していたため、私は魔塔主にお願いして、王城の一番高い塔へとグライダーを運んでもらっていたのだ。
オーロ皇帝は歳の割には鍛錬を欠かさない鍛えられた肉体をしているため、塔に上がっても息を切らす様子は見られなかったが、エラーレ王やその周りを囲む貴族たちの息切れは激しい。
それどころか、途中で塔の階段を諦めた貴族も何名かいるようだ。
塔で待っていた魔塔主にエラーレの貴族たちは先ほどまで私に向けていた視線を向けた。
フェリックスは改良型のグライダーをつけて、高い塔のてっぺんからすこしの恐れも抱くことなく飛び降りた。
それに悲鳴をあげたのはエラーレ王国の貴族たちだった。
しかし、一度は塔から姿が見えなくなったフェリックスの体が風に乗って、上へと昇ってくると貴族たちは愕然として無言になった。
エラーレ王も驚愕に固まっている。
グライダーの翼で風を掴んだフェリックスは気持ちよさそうに王都の空を飛んでいった。
「……して、あれはどれくらいで戻ってくるのだ?」
「早くても1時間以上はかかるかと思います」
グライダーで急降下はできないため、ゆっくりと高度を下げるしかない。
徒歩30分ほどの地点に降りられたとして、体の小さな子供がグライダーを持って歩くので、30分では戻って来れない。
私がオーロ皇帝に返事を返した途端、エラーレ王が私を睨みつけた。
「其方、使用人の分際でオーロ皇帝に直答するとは何事だ!」
私のことを使用人だと思っているのだから、そのお叱りはごもっともだ。
しかし、そもそも私は使用人ではないのだ。
「よいよい。これは私のお気に入りだからな」
「……フェリックスの使用人が、オーロ皇帝のお気に入りですか?」
「エトワール王国の王子に対して使用人とは礼儀がなっておらぬのはどちらの方か?」
すっこし苛立ちの混じったオーロ皇帝の声に、「王族!?」と、周囲の貴族たちがざわめき、エラーレ王の顔色が悪くなる。
「まさか、他国の王子とは知らず、すまなかった」
「いえ。我が国は帝国傘下に入ったばかりの小国ですのでお気になさらず」
「ただ」と、私は微笑んでおいた。
「魔塔主には礼儀をわきまえた方がいいかもしれません」
こういう時に魔塔主の権力を笠に着るのはどうかとも思うが、しかし、エラーレ王国が滅ぼされないためには魔塔主の存在はあらかじめ知らせておいた方がいいだろう。
「魔塔主!?」
エラーレ王もエラーレの貴族たちもざわついた。
魔塔主の存在はその場を緊張させるに十分だった。
それから彼らは魔塔主にすり寄るような猫撫で声で近ついて来たが、「臭いです。近寄らないでください」と魔塔主に微笑まれてぴたりと動きを止めた。
「どうして彼らに私が魔塔主だと知らせたのですか?」
オーロ皇帝に自分と一緒に来るようにと言われて、私たちはオーロ皇帝のために用意された豪華な客間に来ていた。
ネグロがお茶を淹れてくれる。
「エラーレ王国が焼け野原にならないように教えてあげたんです」
「リヒト王子はオルニスが攻撃されても何もするなとおっしゃるのですか?」
「そんなことは言っていませんが……そもそも、オルニスはエラーレ王国に攻撃されたら少しでも被害を被るのでしょうか?」
しばし黙って考えていた魔塔主は言った。
「鬱陶しいという精神的苦痛でしょうか?」
確かにそれは重要な問題だろう。
私たちが悠長にオーロ皇帝の部屋でお茶を楽しんでいる間にフェリックスが戻って来たという知らせを受けた。
オーロ皇帝はエラーレ王と貴族たちの前でフェリックスの研究を気に入ったため、フェリックスを帝都に連れて行くと宣言した。
この決定にエラーレ王は特に不満を述べることはなかった。
普通ならば皇帝に気に入られた弟が自分の座を狙うかもしれないとか、貴族たちが弟を担ぎ上げて自分の座が危うくなるかもしれないとか色々と考えるものだが、エラーレ王がそのような心配をしている様子はなさそうだった。
そうして、フェリックスはオーロ皇帝に庇護されて帝都で研究をすることになった……
ということに表向きはなっているが、実際のところはオーロ皇帝はフェリックスの研究場所の手配を私に任せたので、フェリックスとハンナさん、さらに離宮で働いていた気の良い料理長やメイドまで連れて私はエトワール王国に一旦戻ることになった。
彼らを連れて歩いての旅は辛かったので、彼らにも魔塔主の正体をバラして、転移魔法を使ってもらって元ティニ公爵の屋敷に転移した。
ライオスが一人で使っている屋敷で、余っている部屋はたくさんあるし、歳の近い人間がそばにいるのはお互いにいい刺激になるだろうと思ったからだ。
たとえ、それが喧嘩であっても。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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