128 ナタリアの誕生日 05
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「あの花があなたの国にあるというの!?」
公爵夫人はまるで私を逃さないとでも言うように、両手で私の手を強く握った。
「それなら、今後はあなたの国から……いえ、あなたからあの花を買えばいいということかしら!?」
「今のところ、あの花を売る予定は一切ありませんので……」
「それならば、わたくしにプレゼントしてくださらないかしら? もちろん、相応の対価はお渡しするわ。欲しいものがあったら権力でも人脈でも宝石でもなんでも言ってちょうだい!」
まさか公爵夫人がヴェアトブラウの熱烈な愛好家だったとは思わなかった。
確かに公爵夫人との伝手ができれば色々な場面で有益なのだろうが、ヴェアトブラウのことは私が勝手に決めるべきではない。
あの領地はヴィント公爵のものだし、後々、カルロが与えられる土地なのだ。
エトワール王国の領地という大きな枠で捉えたとしても父王が決めることであり、
私に権利はない。
「アレクサンドラ、リヒトを困らせるのをやめよ」
オーロ皇帝が壇上から公爵夫人に声をかけた。
「あら嫌ですわ。わたくしは困らせてなどおりません」
オーロ皇帝とアレクサンドラ様の言い合いが始まり、長引きそうだったので、私はカルロとヘンリックを連れてそっとその場を離脱した。
会場内をすこし歩くと、飲み物を持っている給仕を見つけたカルロがジュースをもらってきた。
「リヒト様どうぞ」
カルロが渡してくれたジュースを受け取り、私はゆっくりと会場内を歩き、どのような人物がいるのかを見渡す。
着飾った大人たちの間、スイーツが並ぶテーブルの近くにナタリアくらいの背丈の女の子たちの姿が見えた。
その中でも、両親と共にオーロ皇帝とナタリアに挨拶に行った際にナタリアと視線を合わせて微笑んだり、手を振ったりしていた女の子たちを見つけた。
おそらくナタリアの友達だろうと考えて私は彼女たちに近づいた。
「すみません。私もお話に混ざってもいいですか?」
少女たちは私の姿に驚いたようにその目を瞬き、それから少し頬を染めてこくこくと頷いた。
「先ほど、ナタリア様と挨拶を交わされている様子を見ていたのですが、皆さんはナタリア様のお友達ですか?」
「はい。そうです」
「お茶会やパーティーなどで知り合われたのですか?」
「いえ。わたくしたちからナタリア様にお声をかけるなど畏れ多くて……」
「わたくしたちはオーロ皇帝に選ばれてナタリア様の話し相手をさせていただいております」
ルシエンテ帝国のご令嬢たちは教育が行き届いていて奥ゆかしいようだ。
そんな風に思いながら私が自己紹介をしようとした時、「あら」と少しわざとらしく高めの声が響いた。
「ナタリア様の侍女候補としてわたくしたちもお話しに入れてくださいまし」
声の方へ視線をやればナタリアに挨拶に行った時に、ナタリアが視線を合わせなかった少女たちがいた。
少し離れたところから見ていた時には彼女たちも一つのグループを作っていたからナタリアとは関わりのない少女たちなのかと思っていた。
ナタリアの話し相手にしてはお互いに随分とよそよそしい態度だったが?
「他国からのお客様の前で嘘をおっしゃるのはおやめください」
「あなたたちはナタリア様のお話し相手の選抜の場には呼ばれたけれど選ばれなかったではないですか?」
「オーロ皇帝に選んでいただいたことには変わりありませんもの。ナタリア様のわがままに付き合えなかったから選ばれなかっただけですわ」
2グループが睨み合ってしまった。
私としてはナタリアの友達の中から感じのいいご令嬢に目星をつけておいて、できれば早いうちにヘンリックとライオス、フェリックスの婚約者になって欲しいのだが……
くいっと袖を引かれてそちらを見れば、カルロが外行きの笑顔を作っていた。
「リヒト様、ご令嬢たちのお話しに混ざるのはあまりよろしくないと思います」
私の行動に対して否定的なことを言うなどカルロにしては珍しいことだが、この混沌とした状況から私を救ってくれようとしているのだろう。
「そうだね」と微笑んで、私は微妙な空気になってしまったその場から立ち去った。
彼女たちの人となりを知り、ヘンリックとライオス、フェリックスの婚約者として目星をつけておくという目的は達成できなかったが仕方ない。
「あの中に、リヒト様が気になるご令嬢がいたのでしょうか?」
彼女たちからある程度離れるとヘンリックが小声で聞いてきた。
「いえ、違います」
私が首を横に振ると、「そうなのですね」とヘンリックは頷き、すこし吊り上がっていたカルロの眉尻がいつもの位置に戻った。
「ライオスとフェリックス様の婚約者になってくれる素敵なご令嬢がいるといいなと思って声をかけてみたんだ」
ヘンリックに対して、勝手にヘンリックの婚約者を探していたとは言えなかった。
「リヒト様はそのようなところにまで気を遣われているのですね」
感心したようなヘンリックの声に罪悪感を抱く。
攻略対象たちの恋心を勝手に誘導しようとしている私は、運命の神様から見たら極悪人かもしれない。
その後、私たちはすこし料理を口にして小腹を満たしてから再びオーロ皇帝とナタリアに近い位置の壁際に立ち、パーティーの終わりを待った。
主役のナタリアはずっと壇上にいて友達と話すこともできずにかわいそうだと思ったが、後日、改めてお茶会を開き、仲の良い令嬢たちだけを招待するそうだ。
「本当は仲良しのお友達だけを招くお茶会にもきてほしかったのですが」
「愛らしいご令嬢たちとのお茶会でしたら、ぜひ参加させていただきたいです」
ナタリアの言葉にご令嬢たちのことを知るチャンスと思った私はそのように返したのだが、ナタリアには笑顔でスルーされた。
どうやら、社交辞令で言った言葉を私が真に受けてしまったようだ。
恥ずかしい。
私は自身の役目を終えてエトワール王国に帰った。
ヘンリックを公爵家に帰すには遅い時間だったため、城に泊まらせることにした。
すると、ヘンリックはそのことをとても喜んでいた。
今回はナタリアがずっと壇上にいたためにカルロと二人で話しをする時間を持つことはできなかったけれど、次の機会にはそうした時間も取ることができるだろう。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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