127 ナタリアの誕生日 04
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「リヒト、明日はナタリアのことを頼んだぞ」
オーロ皇帝の言葉にナタリアはその瞳を瞬いた。
どうやら、私がエスコートすることは聞いていなかったようだ、
「お祖父様、なんのことですか?」
「明日のナタリアのパートナーをリヒトに頼んだのだ」
ナタリアは驚いたようにその目を見開き、それからカルロを見た。
その目は何か言いたげだったが、もしや、パートナーに立候補しなかったカルロを責めているのだろうか?
しかし、カルロの立場上、王子である私を差し置いて立候補はできない。
「ナタリア様、私がパートナーではご不満かもしれませんが……」
ナタリアのお祖父様が望んだことなので許して欲しいと願いながら声をかけると、ナタリアは慌てたように首を横に振ってその頬をほのかに染めた。
おそらく、私に内心を悟られたことを恥ずかしく思っているのだろう。
「エスコートするのは初めてで上手くできるかわかりませんが、よろしくお願いします」
ナタリアがカルロを見つめてにこりと微笑んだ。
オーロ皇帝が言い出したことにカルロが口を出せるわけはないと納得してくれたのだろう。
やはりナタリアが好きなのはカルロだ。
オーロ皇帝よ! この二人の仲睦まじい姿を見よ! と思ってオーロ皇帝に視線を向けると、なぜだか憐れむような眼差しを向けられた。
オーロ皇帝の眼差しは、「其方は何もわかっておらぬ」と語られているようだった。
解せぬ。
私は少し眉を吊り上げて、「わかっていないのはオーロ皇帝の方です!」と心の中で念じてみたが、オーロ皇帝はゆっくりと首を横に振った。
「明日は忙しくて食事も軽食くらいしか食べれぬであろうから、今のうちにしっかりと食べよ」
オーロ皇帝は何を言っても無駄とでも言うように食事を進めた。
翌朝は早朝に起こされ、部屋に運んで来られた軽い朝食を食べて湯浴みをさせられた。
魔導具で髪を乾かされ、衣装を着させられて髪を整えられ、装飾品でさらに衣装を飾られた。
カルロとヘンリックの部屋は私の部屋の中にある従者の部屋なので、私の後に湯浴みをして、髪を乾かしてとメイドたちが私と同じ手順でカルロとヘンリックを飾っていく。
髪もセットされてメイドたちに飾られ終わった私は自分の荷物の中から懐中時計を取り出すと、カルロが「それ……」と声を震わせた。
懐中時計のチェーンには指輪が一つきらめている。
「大切なものだから、毎日肌身離さず持ち歩いているよ」
「僕、リヒト様を怒らせちゃったので、もう持ってくれていないかもしれないって……」
「カルロは、持ってくれていないのかい?」
「そんなことありません! 僕も毎日待っています!」
カルロは従者の部屋に駆け込むと懐中時計を持って出てきて、自分の内ポケットに入れた。
そして、えへへっと照れたように笑った。
その笑顔に私は思わず胸元を抑えた。
久々のカルロの可憐な笑顔が心臓に響く。
可愛い!! 可愛すぎる!! 可愛すぎて辛い!!!
「あ、あの……リヒト様?」
耳元でカルロの愛らしい声がして気づくと、私はいつの間にかカルロをギュッと抱きしめていた。
「すまない……カルロが可愛くて、つい……」
「いえ、僕、リヒト様に抱きしめられるの嬉しいです」
はにかむような笑顔にまたしても私の心臓はギュッと鷲掴みにされて、私は思わず再びカルロを抱きしめてしまった。
「リヒト様とカルロは本当に仲が良いですね」
ヘンリックの言葉に私は慌ててカルロを離す。
気づけば、まだ部屋にはノアールもメイドたちも残っていて、私たちを微笑ましく見ていた。
「私も早くリヒト様に心を許していただけるように頑張ります」
ヘンリックは何やら決意を固めたようだった。
私は別にヘンリックに心を許していないわけではないのだが……
ナタリアの誕生日パーティーの会場となる大広間の扉の前に立つと、中にはすでに大勢の人が集まっているようで、扉の外にまでガヤガヤと賑わっている音が聞こえてきた。
オーロ皇帝はすでに別の入り口から会場内に入っているらしい。
カルロとヘンリックは先ほど会場入りしている。
本日の主役であるナタリアとナタリアをエスコートする私は最後の入場となる。
私の腕に手を添えているナタリアは緊張しているようだ。
私がその手に手を重ねて、落ち着かせるように微笑むと、ナタリアは少し息を吐いて、口元を微笑みに変えた。
扉がゆっくりと開き、会場内の明かりに少し目が眩むような感覚がした。
ナタリアの入場を知らせる声と共に私たちは歩き出した。
先ほどまでは扉の外に賑わいが伝わるほどに人々は絶え間なく話をしていたのだろうが、主役の入場に静まり返り、会場中の目がナタリアに注がれている。
その目は温かく見守るようなものではなく、厳しく品定めするような眼差しだった。
しかし、そんな中、「可愛らしい」や「美しい」という言葉も聞こえるようになり、私は少しホッとして口元が緩んだ。
「まぁ、微笑まれましたわ」
そんな言葉に、ナタリアも少し気持ちがラクになったのかなと思ったのだが、次に聞こえた言葉に驚いた。
「笑顔はさらに可愛らしいわね。あのご子息はどちらのお家の方なのかしら?」
まさかの私!? 何言ってるのご婦人方!? 今日の主役はナタリアだよ!?
中身50代のおっさんより、お姫仕様のナタリアの方が可愛いに決まってるだろ!?
「あら、また緊張したお顔に戻られましたわ」
「でも、緊張したお顔も年相応で可愛らしいですわね」
婦人たちの品がありながらも華やかな笑い声が響く。
そちらに視線を向ければまた何を言われるかわからないから見れないけれど、私は非常に微妙な気持ちになりながらオーロ皇帝の目前まで歩いて行った。
「ナタリアよ。誕生日おめでとう」
「ありがとう存じます。お祖父様」
ナタリアはオーロ皇帝の前まで来てやっとほっと息がつけたようだった。
ナタリアは私の腕からオーロ皇帝の腕へと止まり木を変える小鳥のように移動して、オーロ皇帝のエスコートで階段を上がって皇帝の椅子が用意された壇上へと上がる。
オーロ皇帝の前までナタリアをエスコートした私は、エスコート役をオーロ皇帝に引き継いですぐ近くまで来てくれていたカルロとヘンリックと合流した。
オーロ皇帝は壇上に上がると、ナタリアの誕生日パーティーの開始を告げた。
パーティーが始まり、貴族たちは位の高い者たちから順にオーロ皇帝に挨拶をし、ナタリアに祝辞を述べてプレゼントを贈った。
「失礼。あなた、帝国貴族じゃないわよね? お名前を教えてくださる?」
誰かが聞きに来るだろうとは思っていたが、まさかルシエンテ帝国を代表する公爵家のご夫人が来るとは思わなかった。
聞くところによるとこのご夫人はオーロ皇帝の従姉妹らしい。
冷静に考えれば、どこの国の王子かわからない以上、下手に中級貴族や下級貴族のご婦人が私に話しかけるわけにもいかなかったのかもしれない。
私は外行きの顔でにこりと微笑んだ。
「お初にお目にかかります。リヒト・アインス・エトワールです」
エトワールの者だと名乗ったら忌まわしき慣習を知る人々ならば、私自身に嫌悪感を抱くかもしれないと思ったが、周囲の反応は特に変わらなかった。
「エトワール? そのような国あったかしら?」
どうやら、エトワールは小国すぎて認識されていないようだ。
忌まわしき慣習が知られていないことは良かったのだが、帝国貴族の誰も知らないというような様子に少し虚しくもある。
「ごめんなさいね。わたくしの勉強不足だったようね」
「いえ。私の国は非常に小さな国ですので、仕方ありません。数年前に元ティニ公国を通して売り出されていた青い花の産地です」
あの花は少しの間ではあったが帝国貴族に流行っていたようだし、あの花のことを知る貴族はいるだろうと思って気軽に言ったのだが、私の言葉を聞いた途端、公爵夫人がカッとその目を見開いた。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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