123 エラーレ王国 05
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「リト、そろそろ戻りましょう」
ヘンリックの言葉に私は頷き、腰をかけていた広場のベンチから立ち上がった。
フェリックスは再び私の手をぎゅっと握った。
「またヘンリックがうるさくなるだろうからしつこくは誘わないけど、本当にいつでも俺の離宮に来てくれていいからな?」
フェリックスはそう言うと、すっかりフェリックスと喧嘩友達になってしまったヘンリックが口を挟む前に、「またな!」と手を振って走っていった。
その様子に私が「元気ですね」と笑えば、シュライグが頷いた。
「リトと比べると、フェリックス様は落ち着きがないですね」
中身52歳の私と比べては大抵の子供が落ち着きのない子供と評されてしまうだろう。
それはかわいそうだ。
翌日、フェリックスは一人の初老の女性を広場に連れてきた。
彼女がハンナだと紹介され、私は少し驚いた。
ハンナはフェリックスの乳母だと聞いていたから、もっと若い女性だと思っていたのだ。
それが、フェリックスが生まれた時にはすでにそれなりの年齢だったであろう女性を乳母にしたということは、フェリックスは父親である前王にもそれほど大事にされてはいなかったのかも知れない。
6人目の息子は、長男の予備でもない存在のため、前王はフェリックスのことをそれほど気に留めてはいなかったのだろうか?
「フェリックス様からリト様たちのお話を聞いて参りました。リト様、フェリックス様を魔鳥を探す旅にお連れください」
ハンナがそう頭を下げて私たちは驚き、困惑した。
この街を出たことのない王子を、親しくもない他国の貴族に預けるというのはどういうことだろうか?
「フェリックス様は飛行技術の研究のために魔鳥の観察に行ったことにしますので、そのままリト様のお国に連れて行っていただきたいのです」
私はハンナが何を言いたいのかを理解した。
「しかし、フェリックス様を逃しただけでは、フェリックス様の地位を守ることはできませんよ? 帝国法では虐待を禁止する法律があります。フェリックス様の現状を帝国に訴えてみてはいかがですか?」
正当な方法で権利を取り戻せば、フェリックスはもっといい環境で暮らし、必要な教育を受けることができるのではないかと思いそのように提案してみたが、ハンナは首を横に振った。
「今はフェリックス様にはなんの力もないと思われているからこそ放っておかれているのです。しかし、帝国法に訴えるようなことをすれば、命を狙われてしまいます」
「……確かに、この国にいながらエラーレ王を訴えるのは難しいかもしれませんね」
それならばハンナの言う通りに一度エトワール王国に匿ってから帝国法に訴えるべきか……
「オーロ皇帝に保護してもらったらどうですか?」
魔塔主が実に気軽にそんなことを言った。
魔塔主の言葉に私は思わず眉間に皺を寄せた。
「帝国傘下の王子の保護とは言えど、皇帝自らそのようなことは行えないと思います」
「しかし、リトは自国の子供たちの保護を行なっているではないですか?」
「私だって表立っては行なっていませんよ?」
情報ギルドの力があるからできることだ。
「リトの正体を知っている者はそれなりにいますし、上級貴族はリトの動向を探らせているでしょうから、おおかたばれていると思うのですが?」
「ばれていても、隠しておくことが大切なこともあるのです」
私と魔塔主がそんな言い合いをしていると、ハンナが深々と私に頭を下げた。
「他国の貴族の方だとは存じておりましたが、まさか王子様だったとは……大変失礼いたしました」
どうやら今の魔塔主との会話で、ハンナは私の本当の身分を察してしまったようだ。
そして、そんなハンナの言葉でフェリックスが私を凝視する。
「いえ。私が隠していたのですからお気になさらないでください」
「人目につくこのような場所でする話ではないでしょう」
シュライグが街を行き交う人々の目から私を隠すように側に立った。
ヘンリックやグレデン卿もそれとなく私の姿を隠すような位置に移動した。
私たちはフェリックスが親しくしているという食事処の個室を借りた。
魔塔主がすぐに話声が外に漏れることを防ぐ魔導具を空間魔法から取り出して起動した。
「先ほどは大変失礼いたしました」
ハンナは改めて頭を下げ、フェリックスは心配そうにハンナを見つめている。
「リトに王子を匿って欲しいなどと、随分と厚かましい願いです」
こういう面倒な話には我関せずを突き通すと思っていた魔塔主が随分と不満そうだ。
ヘンリックやシュライグの様子からすると、彼らも魔塔主に賛同しているらしい。
「それはフェリックス様に必要なことだとわかっています。私は大丈夫ですので」
私は自分が先に椅子に座ることによって、ハンナにも着席を求めた。
「リトが優しいから頼りたくなる気持ちもわかりますが、そもそもリトは9歳ですよ? まだ9歳の子供に他国の王子を匿って欲しいというのはいかがなものでしょうか?」
「クロイツ兄さん、フェリックス様とハンナさんとは私が話をしますから少し黙っていてください」
私の言葉を聞いたハンナが「クロイツ……」と魔塔主の名前を繰り返した。
そして、少し青ざめて言う。
「確か、昔、農業国を焼け野原にした魔法使いの名前がそのような名前だった気が……」
「別人です!」
私は慌てて否定した。
本人だが、ここで本人だとわかればより話しがし辛くなるだろう。
私は自身と、私の側近たちの本当の身分を明かした。
魔塔主のことは正直に紹介すると、農業国焼け野原事件が再浮上するので、私の教師だと紹介した。
「エトワール王国は最近、帝国の傘下に入ったお国なのですね。離宮にはあまりそうした情報が入ってこないものですから、存じ上げなくて……すみません」
そんな風に謝ったハンナに、私は気にする必要はないと伝えた。
「フェリックス様への虐待に対して帝国に訴えることが有用でないのであれば、オルニス国への侵攻計画を問題にすればいいのではないでしょうか?」
帝国は帝国傘下にある国同士での戦争は認めていない。
要は今の王室の頭を押さえ、フェリックスにとって過ごしやすい環境を整えられればいいのだ。
念の為、一時的であれ母国から離れることに抵抗はないのかフェリックスに聞けば、フェリックスは飛行技術の研究を進めることができればそれでいいとのことだった。
「ハンナさん、エラーレ王国がオルニス国へ侵攻しようとしているという証拠を集める術はありますか?」
「そうですね……本宮に行くたびにメイドや使用人たちからはそのような噂は聞きますが、実際に確固たる証拠となると……」
「街の者たちに聞いてみよう」とフェリックスが言った。
「王は国民の士気を高めるために定期的にオルニス国侵攻を匂わせるビラを配っているから、そうしたビラが役に立たないか?」
「いいですね。そのビラを集めましょう。ハンナさんはお手数ですが、もっと噂を集めてもらえますか?」
魔塔主に視線を向ければ、魔塔主は不満そうな表情をしながらも録音の魔導具を渡してくれた。
私はそれをハンナさんに渡す。
録音の魔導具は、私がカルロへ魔法の基礎に関する授業を行った際に魔塔主が使おうとして、取り上げるのに苦労した魔導具だ。
嫌な思い出である。
「ハンナさんが危険な目にあっては元も子もないので、十分に気をつけてください」
そうして、私たちはオルニス国侵攻の証拠集めに動き出した。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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