118 エラーレ王国 02
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「リトに汚れた手で触らないでください」
確かにフェリックスは地面に落ちて全身汚れているが、そんな言い方をしなくてもいいと思う。
しかし、フェリックスは素直な性格のようで、「ごめん」と素直に手を引いた。
「リトはどの辺に住んでるの? 助けてもらったお礼に今度ご飯奢るよ。迎えに行くから家を教えて」
「私は兄さんたちと旅をしているので、これから宿をとるところです」
今回の設定はこうだ。
グレデン卿、長男。見た目的に。
シュライグ、次男。見た目的に。
魔塔主、三男。解せないが、見た目的に仕方なく。
ヘンリック、四男。実際、私よりも一つ年上。
リト、末っ子。年齢通りに。
あまり似ていない兄弟だが、父親が碌でもない男で愛人が数名いるという設定ならまぁいけるだろう。
私の言葉にフェリックスは不思議そうに私たちを見た。
「旅人の割には軽装だね」
確かにそうかもしれないと私は少し回答に困ったが、すぐに魔塔主がフォローしてくれる。
「荷物は全て空間魔法が施された鞄に入れているので」
魔塔主はシュライグの鞄を指差した。
魔塔主を三男にしたのはやはり間違いだったかもしれない。
態度が大きすぎる。
「空間魔法の鞄!」
フェリックスが興味津々という顔になる。
表情が豊かな子だ。
「空間魔法の鞄に入れてると重さも関係ないんだよね? やっぱり欲しいなぁ〜」
「王子なら空間魔法の鞄などなくても下の者に持たせればいいでしょう?」
魔塔主がなんとも乱暴なことを言う。
「俺が王子だってバレてたんだ?」
「みんな噂していましたから」
そう私は苦笑する。
「俺はいつかあれで旅に出るから、その時には供の者なんて連れていくつもりはないし、荷物が重いと飛べないから空間魔法がついた鞄が欲しいんだ」
彼が『あれ』と示したハンググライダーのようなものを見る。
私は思わず怪訝な表情を浮かべてしまったようで、「無理だと思ってる?」とフェリックスに顔を覗き込まれた。
フェリックスは人懐っこくて距離が近い。
「無理というか……あれで飛ぶためには充分な高さのところまで登らなければいけませんし、風力と風向きを計算する必要もありますよね? だから、あれで旅をするのは難しいと思います」
一度目の飛行で運よく遠くまで飛べたところで降りた場所の周辺に高いところがなければ、結局はかなりの距離を歩くことになるだろう。
それでは効率のいい旅ができるとは思えない。
いや、そもそも効率とかは別に求めておらず、前世のバックパッカーでの旅とか、自転車でどこどこ一周とか、そんな感覚なのだろうか?
そんなことを考えているとフェリックスにガシッと手を握られた。
「リトは天才なのか!?」
なんでそうなったのかと不思議に思っていると、私の後ろで魔塔主が「君は見る目があるようですね」なんて意味のわからないことを言っている。
そして、ヘンリックやグレデン卿、シュライグまで賛同するように頷いている。
私の家族を演じるからといって、私の両親のように親バカのような感じを演じなくてもいいのだが?
「王子、私はただの子供ですよ。天才とかじゃないです」
「これを一目見ただけでどのように飛行しているのかがわかったのだろう? それが天才じゃなくてなんだって言うんだ!?」
ああ、そういうことか……
「羽ばたかない飛び方がペタウルスに似ていたからそう思っただけです」
ペタウルスとは前世のモモンガのような姿をした小型の魔獣だ。
可愛いし、特に害もないので見かけても基本的には誰も殺さない。
私の言い訳に何故かフェリックスの瞳はさらに輝いた。
「君は魔獣を見たことがあるのか!?」
「え……はい……」
そんなに珍しいことだろうか?
この国のすぐ隣には広大な森があるのだから魔獣だって見る機会はいくらでもあるだろう。
私は思わず森のある城壁の方へと視線を向けた。
そういえば、この国の城壁はやけに高い。
「恥ずかしいけど、俺はまだ一度も城壁の外に出たことがないんだ」
「失礼ですが、年齢は……」
「11歳だよ」
やけに年上みたいに振る舞ってくると思ったら、本当に年上だったのか。
そうなると……
私は思わず彼を頭の先からつま先までじっくりと見てしまった。
フェリックスがにっこりと作り笑いをした。
「リト、俺の身長に何か文句でも?」
やはり、年齢の割には身長が低いらしい。
私は同い年の者たちより身長が高めなので、フェリックスは私よりもちょっと身長が高い程度でヘンリックと同じくらいの身長だ。
大人になると年齢と身長は比例しないけれど、このくらいの年頃は割と年齢と体の大きさは比例しているものだと思ったが……
身長のことを言われるのが好きではないらしいフェリックスは不満げな表情で私を見てくる。
「飛行に適した体格ですね」
フェリックスの機嫌を少しでも直せないかと、私は言葉を絞り出した。
風に乗って飛びたいなら体重は軽い方がいいだろう。
フェリックスはその表情を輝かせて、再び私の手をぎゅっと握ってきた。
距離は近いし、本当にスキンシップが多い。
そして、よく言えば素直で、悪く言えば単純……
王子としては不安になる性格だ。
「リト! 俺は君と友達になりたい!!」
この王族らしくない『俺』という一人称も、もしかすると身長に対するコンプレックスからくる強がりなのだろうか?
「フェリックス様、私は旅人です。王族の方とお友達になどとんでもございません」
「旅人とはいえど、どこかの国の貴族なのだろう?」
あれ、案外鋭いぞ。
「……なぜ、そのようにお考えになったのですか?」
「立ち居振る舞いと喋り方は貴族……王族と言われても驚かない。でも、王族の子息に二人だけしか護衛がいないなんてあり得ないだろうし、下級貴族といったところだろう?」
護衛は二人、あと二人は護衛ではないと判断しているようだ。
本当に、意外にもフェリックスは鋭い観察眼を持っているようだ。
そして、私はフェリックスの勘違いに乗ることにした。
「小国の下級貴族が王族とお友達などととんでもございません」
「やはり、貴族なのだな!? では、俺の離宮に泊まるといい!!」
どうやら、とんでもなく面倒な状況になってしまったようだ。
「しかし、フェリックス様のお察しの通り、私はお忍びで旅をしている身で、国のことを明かすつもりもありません。そのような怪しい者は城には入れないと思いますので」
「俺は第六王子で全く注目されていないから誰も気にしないと思うぞ」
そんなわけはないだろう。
「王子に仕える者たちは気にするはずです」
「彼らは平民の出だから大丈夫だ!」
「……貴族の侍女や従者はいないのですか?」
「いないよ」
つまり、この王子様はあまり大事にされていないということだろうか?
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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