117 エラーレ王国 01
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そして翌日、私たちはせっかくだから天空都市から見えた隣国へと行ってみることにした。
遠い昔、あの丘を作った人々の国だ。
木を切り開き、土を盛って大地を変形させた人々のイメージは屈強な男たちのイメージだったのだが、その国の街を歩く人々はどこかインテリ感を漂わせていた。
「土を盛って丘を作ったと聞いていたので、もっと屈強な方々がいるようなイメージでした」
私が素直にそう言うと魔塔主が笑った。
最近、魔塔主の笑顔がとても増えたような気がする。
「あの丘は数百年をかけて大きくなったと言ったでしょう?」
「そうでしたね」
「この国は今は飛行技術を研究していますよ」
「飛行技術……面白そうですね」
やはりこの国は天空都市の美しさに魅入られてあのような丘を作ったのではないだろうか?
自分たちも上空へ行きたいと思っての研究ではないだろうか?
そんなことを考えながら街中を歩いていると、人々の噂話が聞こえてきた。
「昨夜、100年ぶりに天空都市が現れたのだろう?」
私の歩く速度がゆっくりになったため、ヘンリック、シュライグ、グレデン卿がそれに合わせてくれる。
「もうすぐ攻め入るという時に魔力の豊富さを見せつけてくるなんて」
「もしかして、エルフの奴らはこの国にスパイでも入り込ませているんじゃないか?」
「でなければ、あんなタイミングよくまだ都市を飛ばせるだけの力があることを示したりはしないだろう?」
「100年もの間大人しかったからもう魔力が弱まっていると計算しての侵攻予定だっただろう?」
「今頃王城は大騒ぎになっているだろうな」
「我々平民まで巻き込んでの計画だったのに、お貴族様たちは面目丸潰れじゃないのか?」
「そう考えると少しいい気味だな」
そうした噂話はヒソヒソと語られているものではない。
この国の国民たちにとってはオルニス侵攻はよく知られた国の計画だったのだろう。
「どうやら、オルニスは意図せずに救われたようですね」
小声で語りかけてきた魔塔主の目には少し獰猛な色が宿っているような気がするが、きっとそれは気のせいではないだろう。
私だって、もし、自国に戦争を仕掛けようとしている国の話を聞いたら、一旦はそこを更地にしてもいいのではないかと考えるはずだ。
ただ、帝国の法律がそれを許さないから実行には移さないだろうけれど。
「ルシエンテ帝国傘下の国同士での戦争は御法度なのではないですか?」
確かに条約にそのように書いてあったと思うのだが、この国の上層部はそれを知らないのだろうか?
「表立っての戦争はできませんが、同じ国の中でも領地間で揉めることはあるでしょう? おそらく、オルニス国に非があるように見せるか、ちょっとした諍いだと思わせるような計画があったのではないですか?」
つまり、あくまでも戦争ではないと言い張るつもりだったということだろうか?
飛行技術の研究をしているという割にはこの国の人間はそれほど頭は良くないのかもしれない。
「飛行技術の研究結果が見られるところはありますか?」
「研究はしていますがまだ飛べてはいないみたいですよ?」
「技術研究が進んでいれば応用した何かがあるはずではないですか?」
「なるほど……技術研究の応用なのかはわかりませんが、農業用魔導具の開発が進んでいると聞いたことがあります」
「テル王国よりもですか?」
農業用の魔導具開発に力を入れているのは、農業大国のテル王国だと思っていた。
「テル王国に技術を盗まれたことにより、農業用魔導具に使える技術だと気づいたようですね」
空への憧れの執念で研究は進めているけれど頭が硬くて自分たちでそれの使い道を思いつけないということなのだろうか?
その時、急に頭上に影が差した。
風で雲が流れてきたのだろうかと上空を見上げると、前世のハンググライダーのようなものが空を飛んでいた。
「リヒト様!」
険しい表情をしたヘンリックとグレデン卿がすぐに私を守る体勢に入ってくれる。
ヘンリックには私のことを『リト』と呼ぶように伝えておいたのだが、咄嗟のことに本名を呼んでしまったようだ。
幸い、周囲の人々は上空を見ていて、こちらに意識を向けている者たちはいない。
先ほどまでオルニス国の噂をしていた国民は上空を見上げて、「飛んでいる!」と大喜びだ。
「フェリックス様だ!」
「おお! 今日も見事に飛んでおられる!」
「ご自身は魔法が使えるというのに、我々平民のために魔力のない者でも空を飛べる方法を開発しようしてくださるとは」
「本当にお優しい方だ!」
どうやらあのハンググライダーのような者に乗っている人は有名人のようだ。
しかし、まさか……
「あの、あれが、この国の飛行技術ではないですよね?」
念の為に魔塔主に確認した。
万が一、あのレベルで飛行技術を研究している国とかうたっているのだとしたらすぐに別の国に行こうと思う。
「いえ、流石にあれは違います」
魔塔主の返答に心から安心したその時、周囲がざわついた。
「落ちるぞ!」
「また失敗か!?」
「あああ〜!!」
ざわめく周囲の人々の視線を追って再び空へと視線を向けると、ハンググライダーに似たものは上空の風に煽られたのか、ゆらゆらと不安定に揺れ始めた。
ゆっくりと下に降りていくならばいいが、下手な落ち方をするとフェリックス様という人は怪我をするかもしれない。
下からその人物を見た限り、体は小さく、子供のようだったし、少し心配になった私はヘンリックとグレデン卿に声をかけて走り出した。
走ったところで追いつくとは思えないが、路地に入って転移魔法を使ったところで彼が落ちるところに人々がいたら悪目立ちは避けられない。
私にできるのは身体強化の魔法で不自然じゃない程度に足を早くする程度だった。
そのため、当然、私たちが彼に追いつくよりも彼が地面に落下する方が早かった。
一応、落下の衝撃を和らげるために風魔法を彼が落ちそうなあたりに目算でかけておいたが、それがうまくいったかどうかは彼を直接目にするまではわからない。
いや、そもそも彼は魔法が使えると先ほど噂話をしていた者たちが話していたので、自力で落下の衝撃は避けることができたのかもしれない。
しばらく走って彼の元に到着すると彼は無傷だった。
彼は魔塔主を見るとその目をぱっと輝かせた。
「風魔法で俺を助けてくれたのはあなたですか!?」
「いえ。この子です」
魔塔主が私の背中に手を添えた。
「え」と、彼は驚いた表情でこちらを見た。
「こんなに小さな子が?」
それほど年齢は変わらないと思うのだが?
「ありがとう。いつもは水魔法で衝撃を抑えるからびしょ濡れになるんだけど、君のおかげでそうならずに済んだよ」
やはり対処法はあったようだ。
それなら余計なお世話だったかもしれない。
「俺はフェリックスって言うんだけど、君の名前教えてくれない?」
「リトです」
「リトは魔法が得意なのか?」
「いえ、それほどではないですが……」
そう答えるとフェリックスに頭を撫でられた。
「その年で謙遜できるとかすごいね! 可愛い!」
屈託のない笑顔だ。
どうやらフェリックスは人見知りとか警戒心とか知らないタイプのようだ。
そんなフェリックスの手首を魔塔主が掴んで私の頭から離させた。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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