109 変化(カルロ視点)
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叔父のドレック・ルーヴは僕が小さい頃にはよく屋敷に来ていた。
両親はパーティーに行ったり、領地に行ったりして不在が多いのに、ドレック・ルーヴは両親のいない屋敷に一体何の用があったのか子供ながらに不思議だった。
いつもシュライグが玄関先で追い返していたから、ほとんど会ったことはなかった。
だけど、たまに僕が玄関を通りかかった時や庭にいる時に出会した。
ドレック・ルーヴの目はにたりと細められ、気持ちの悪い笑みだった。
当時はその眼差しの意味に気づくことはできなかったけど、今なら察することができる。
ドレック・ルーヴは児童性愛者だったのだろう。
屋敷に来ていた目的は僕で、それをシュライグが防いでくれていたのだ。
だけど、どういうわけか、ドレック・ルーヴはある時から屋敷に来なくなった。
両親が盗賊に襲われて本当に愛する人と人生を共にしたいとか言い出したあたりからだ。
もちろん、会いたくない人物と会わなくても済んだのだからそれで構わなかったのだけど、さらに奇妙なことに、その後、父親が屋敷に呼んだドレック・ルーヴの眼差しが、あの気持ち悪いものではなくなっていた。
それどころか、僕には全く視線を寄越さず、 僕にも両親にも全く興味のなさそうな顔をしていた。
その後、ドレック・ルーヴはカードゲームやボードゲームを開発するようになり、それは他国へと輸出するほどの事業に発展しているという。
そんなドレック・ルーヴがリヒト様のお披露目パーティーでリヒト様に声をかけてきた。
その目には興味や喜び、期待が見えた。
そして、意味深な表情でカードゲームをリヒト様へと渡す。
リヒト様はそれを一瞥し、いつも通りの愛想のいい笑顔を見せただけで、特別興味を持った様子もなかったけど、情報ギルドにドレック・ルーヴの動向は探らせているようだった。
動向を探らせているだけでリヒト様はドレック・ルーヴに会おうとはしなかったから安心していたけど、ドレック・ルーヴの方は城に出入りする商会に口利きを頼んだり、情報ギルドが関係している商会に接触したりとリヒト様に会うために積極的に動いていた。
そして、とうとう、リヒト様が情報ギルドを通して直接お会いになるという。
僕もヴィント侯爵も当然、リヒト様と一緒に行くつもりだったのに、リヒト様は護衛には魔塔主がいれば充分だと言った。
説得は難しく、僕とヴィント侯爵は魔塔主と共に出かけるリヒト様を見送ることしかできなかったけど、諦めの悪い僕はリヒト様の影の中に潜んだ。
だけど、リヒト様が魔力で蓋をしてしまったようで、僕はリヒト様の影の中に入ることはできなかった。
影の中から外の様子を見ることもできなければ、話を盗み聞くことさえもできなくて、僕はがっかりした。
それでも、僕はリヒト様のお側に控えているつもりで影の中に潜んでいたのだけど、魔塔主の魔力がリヒト様を包み込んだのがわかって、急いでリヒト様のお部屋に戻った。
すぐにリヒト様はお部屋に戻ると思ったのに、少し待ってもリヒト様は戻って来られなかった。
「カルロ、リヒト様は?」
「魔塔主の魔力を感じたので、こちらにお戻りになるのだと思ったのですが……」
「他にも寄るところがあったのでしょうか?」
ヴィント侯爵の言葉に僕は再び影の中に入ろうとしたけれど、今度は自分の影の中に入ることさえもできなかった。
「カルロ、どうしたのですか?」
「魔塔主が邪魔をしているみたいです」
リヒト様は自分の影に魔力を流して蓋をすることはできるけど、僕の影にまで干渉することはできないし、きっとできてもしないと思う。
僕の影にまで干渉することができるのは魔塔主だ。
僕は腹立たしい事実に苛立ちを抱えたまま、リヒト様のお帰りを待つことしかできなかった。
お戻りになったリヒト様は商談の話をしてきたとだけ言ったけど、そのようなお話だけなら僕とヴィント侯爵も連れて行っくれたはずだ。
でも、僕たちには教えるつもりがないから連れて行ってくれなかったわけで……
僕はドレック・ルーヴを脅して直接話を聞くことも考えたけど、それはヴィント侯爵に止められた。
だけど、その後、ヴィント侯爵はドレック・ルーヴを屋敷に呼んでリヒト様とどんな話をしたのか直接聞いたみたいだった。
どうやら、僕を止めたのは脅すのはダメということだったみたい。
でも、ドレック・ルーヴからはリヒト様から聞いた話以上のことは聞けなかった。
屋敷にいたシュヴァイグによると、ヴィント侯爵はドレック・ルーヴに心付けというやつを渡そうとしたらしいけど、ドレック・ルーヴはリヒト様に誠実でありたいからと断ったみたいだ。
その言葉はまるでリヒト様の乳母であるヴィント侯爵がリヒト様に対して不誠実であると言っているようで、その後、ヴィント侯爵はしばらく部屋に閉じこもっていたらしい……
ドレック・ルーヴを脅したりしなくてよかった。
でも、リヒト様が僕やヴィント侯爵に秘密にしたいこととはなんだろう?
リヒト様が僕やヴィント侯爵、グレデン卿よりも、魔塔主を信用しているような行動を取るのは初めてのことだった……
ヴィント侯爵とグレデン卿にはどことなく魔塔主なら仕方ないというような雰囲気があったけど、僕は僕以外の誰かがリヒト様に自分以上に信頼されているのがとても悔しかった。
その後、再びリヒト様は帝国傘下の国を巡る周遊の旅に出た。
夏には青くて広い海を見に行ったり、果実園にあの甘い果実を食べに行った。
リヒト様は食べ方も非常に上品なので口元を果実の汁で汚すことはないけど、僕はリヒト様が僕に触れてくれるから時々わざと口元を汚した。
僕の口元の果実を指先で拭ってくれたリヒト様の眼差しが優しくて、僕は思わずキスをしたくなったけど、キスはしていけないとヴィント侯爵に言われていたから、その代わりにリヒト様の指先を舐めた。
そうしたら、リヒト様のお顔が真っ赤になって、それはそれは綺麗で可愛くて、胸がぎゅ〜〜〜って締め付けられるような気持ちになった。
秋には古代都市で遺跡を見たり、塩湖で満天の星を見た。
満天の星が足元の水にも映し出されて、すごく綺麗だったけど、それ以上にその光景に感動するリヒト様の横顔がやっぱり綺麗で可愛くて、ここでも僕はリヒト様の横顔にキスしたくなったけど、魔塔主がいい雰囲気をちょくちょく邪魔してくるからできなかった。
二人きりだったら我慢できずにリヒト様を困らせてしまっていたかもしれないから、あれでよかったのかもしれないけど、でも、やっぱり不満だ。
今度は魔塔主抜きで二人だけで行きたい。
続きはアルファポリスにて先行公開となります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/135910722
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