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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

森の中の伯爵令嬢

作者: どんC

去年仕上げるはずが、忙しくて時間食ってしまった。とほほ。


2024年3月2日 日間異世界(恋愛)37位ありがとうございます。

 気が付けば森の中……

 私は木に背中を預け座り込んでいた。

 サワサワと風が木々を揺らす。


「うっ……」


 声を出そうとしたが、呻き声しか出なかった。

 みすぼらしい囚人服は血にまみれ。

 特にお腹の出血が酷い。

 魔獣の三本の爪に抉られたのだ。

 ドクドクと血が流れ、私の命が尽きようとしている。


 グルルル


 ゆっくりゆっくり魔獣は私の元にやって来る。

 白い毛の狼形の魔獣は見方によっては神々しくもある。

 目を細め嘲る魔獣。


 どうしてこうなったんだろう?


 私は公爵令嬢だった。

 今では平民どころか、囚人だ。

 私は嫉妬に狂い婚約者を毒殺した罪により、第七刑務所に護送されていた所を魔獣に襲われた。

 婚約者はこの国の皇太子だった。

 ひっくり返り壊れた馬車の裏に魔物を呼び込む香が仕込まれているのが見えた。


 嵌められた。


 何時から?


 最初から?


 私は唇を噛み締めた。


 町の近くに魔獣など出ない。


 誰かが魔獣をここまで運び込んだんだろう。


 ふと……異母妹と継母の顔が浮かぶ。


 何でも私の物を欲しがった異母妹。


 私を嫌う平民の継母。


 ああ……


 これもあなた達の仕業ね。


 私の婚約者に媚びを売っていた異母妹。

 しかし私の婚約者は彼女に靡かなかった。

 だから側室が産んだ第二王子と組んで皇太子を暗殺した。

 私に毒殺の罪を被せて。

 おそらく父も共犯だろう。

 私と母を毛嫌いしていた父。

 父と母は政略結婚だが、母は父を好いていた。

 報われなかった母の恋心。


 まって……


 母は病死したことになっていたけど……


 まさか!!


 あの()ならあり得る。

 それが証拠に母の葬儀の後、直ぐにあの女と異母妹が来た。

 最低でも一年間は喪に服さないといけないのに……

 ぶつぶつと考えこんでいるうちに魔獣は私の元にやって来た。


 ああ……


 まだよ!!


 まだ死ぬ訳にはいかない!!


 私はあいつらに……


 大きな口を開けた魔獣に私は食べられた。




 ***********


 パーンパーン


 空には色取り取りの花火が咲いた。


 今日は皇太子の結婚式だ。

 一年前嫉妬に狂った令嬢に皇太子の兄が殺された。

 刑務所に送られる途中、犯人の乗った護送車が魔獣に襲われて護送していた兵士共々令嬢は殺された。

 護送車を襲った魔獣は何処かに姿を消した。

 悲しい出来事だった。

 と王都の新聞は語り、吟遊詩人は悪を暴いた皇太子とその婚約者を誉め称える。

 その悪の令嬢の母方の家族は爵位を剥奪され縛り首になったことは歌われ無かった。


 花が舞い、楽しげな音楽が溢れる人混みの中を白いマントを着た女が歩く。


「広場で王族からお酒が振る舞われるんだって」


「そいつは早速いかなくっちゃな」


「ねえねえ。皇太子様と皇太子妃を見た?凄い豪華な衣装だったね」


「うん。薄いピンクのドレスに真珠の縁飾り。あの真珠だけでも城が買えるんじゃない?」


「ブライン産の真珠なんだって!!」


「おまけにティアラに付けられたピンク色の真珠大きかったね」


 ブライン産の真珠は王族や貴族が欲しがる物だ。

 しかもあれだけの物を揃えるとなると百年は掛かるだろうとお喋りをしている娘達の父親は語る。

 娘達の父親は商人でブライン産の真珠を手に入れるのに苦労した経験があった。

 この国の南にブライン伯爵の領地があった。

 前の皇太子を毒殺した令嬢の母方の家で。

 皇太子の事件で取り潰された。

 海の生き物の毒が使われていたのだ。

 その為共犯と見做された。

 ブライン一族は処刑され、領地は皇太子の物となった。

 上手くやったものだと商人は思った。

 ブラインの真珠欲しさに無実の令嬢に罪を被せ、領地を奪うなんて。

 しかも皇太子である実の兄を殺すなんてな。

 この国の王族はえぐいな。

 いや、王の側室がヤバイのか?

 そう言えば魔獣の注文を受けた事があったな。


 一年前だったか……


 元公爵令嬢と兵士を襲ったあの白い魔獣。

 やはりそうなんだろう。

 この国での商売も潮時だな。

 今夜隣の国に行く船に家族と乗ろうと商人は考える。


 ふと白いマントが目に入る。


 あの毛皮……


 あの魔獣の毛を思い出す。


 まさか……


「お父さん?」


 娘の呼び掛けに答えず、フラフラと商人は白いマントを追う。

 気が付けば、人気の無い袋小路に立っていた。

 遠くに人々の喧騒と軽快な音楽が流れる。

 白いマントを羽織っている人物が、後ろ向きに立っていた。

 長い髪の女だ。

 プラチナブロンドの色は貴族の色だ。

 平民は茶髪が多い。

 おそらく娘は貴族か?

 いや貴族の娘が供も連れずに歩いているだろうか?

 それともはぐれたのか?


「何か用かしら?」


 女の艶やかな声がする。

 商人は口ごもるが娘に尋ねた。


「あ……いや……あなた様の毛皮のマントが……」


「このマントがどうしたの?」


「いや……昔仕入れた物に似ていたので……」


 あの白い魔獣は囚人を殺した後、行方を眩ました。

 あのデカさで人目に付かぬはずはないが。

 とんと噂を聞かない。

 冒険者ギルドにも商人ギルドでも白い魔獣が討伐された噂は聞かない。

 城の暗部が密かに片付けたのか?

 ふと女の足を見る。

 素足だ。


 えっ?


 女が振り返る。

 その美しい顔は死んだはずの令嬢のものだった。

 しかし見る間に口が耳まで裂けた。

 商人は彼女に食べられた。




 *~~~*~~~*




 夜空に満月が浮かんでいる。

 見事な月だ。

 しかし、少々赤い様な気がする。

 兄を毒殺した日の夜もあんな月だったな。

 兄もその婚約者も優秀だった。

 側室の子供が付け入る隙は無かった。

 野心はあったが王位は遠かった。


 だが……


 あの女が現れた。

 可愛らしい女だったが、心は醜かった。


 皇太子は笑った。


 なんて俺に相応しい花嫁だ。

 兄を妬み、王位を欲し、兄の婚約者に横恋慕した弟。

 姉を無実の罪で陥れた異母妹。

 本当にお似合いの二人だ。

 指を咥え二人を見る俺にあの女が囁いた。


「王位は欲しくありませんか? 姉が欲しくありませんか?」


 あの女はニタリと笑った。


「協力しましょう。貴方は王位と姉を手に入れる。私はあの女と皇太子に復讐する。良い取引だと思いませんか?」


 エリーナは俺に毒薬を手渡した。


「ブライン産の毒です。これを……」


 エリーナは最後まで言わなかった。

 しかし彼女が意図する事は分かった。

 俺は兄の侍女に命じて兄のお茶に毒を盛らせた。

 兄の侍女は金で懐柔済みだ。

 即死の毒で兄は死に、マーガレットは自分の婚約者と妹が恋仲に成ったと勘違いし、皇太子を毒殺したとされた。

 ただ一つの誤算は彼女が本当に魔獣に喰われた事だ。

 本当ならマーガレットは手配した冒険者が魔獣を倒し、離宮に隠すはずだったが。

 護送の兵士と冒険者と共に魔獣に殺された。

 魔獣には従属の紋が刻まれていたが、魔獣はそれを跳ね返し逃走した。

 何処に行ったのか、討伐された噂は聞かない。

 寝室の鏡の前で妻となった女が鼻歌交じりで髪をといている。

 ブライン産の真珠3連が胸を飾っている。

 この女は姉の母親の形見を欲しがっていた。

 真珠欲しさに姉を陥れたと言って良い。


 ボトリ


 ゴロリゴロリ


 何かが足元に転がり込んできた。


 音は二つした。

 見ると生首だ。


 皇太子妃となった女の両親だ。

 エリーナが悲鳴を上げる。


 しかし……


 誰も来ない。

 おかしい。

 普通ならドアの前にはいつも近衛騎士がいるはずだ。

 皇太子妃の悲鳴を聞いて誰も駆けつけないはずはない。

 俺はドアの人影を見る。

 白い毛皮の外套を纏った女が立っていた。

 ヒタヒタと足音がした。

 女は裸足だった。

 暗い場所から明るい室内に入り女の顔が見えた。


「お姉様……」


 エリーナが悲鳴を上げる。


「あんたは魔物に喰われて死んだはずよ!!」


 白い毛皮を着た女は優美に嗤う。


「ええ私は魔物に食べられたわ」


「どうやって生き延びたか知らないけど!! お父様とお母様を殺したのはあんたね!!」


 エリーナは興奮すると口が悪くなる。


「当然でしょう。私のお母様を殺した。そして私を殺したのだから。悪人は罰せられるべきよね」


 姉だった者がクスクス笑う。


 あれ?


 姉はあんな嗤い方をする人だったかしら?


「ああ……安心して城の皆は眠っているだけだから。巻き添えにされるのは可哀想よね。復讐に狂っていてもそれぐらいの分別はあるわ」


「この死に損ないが!!」


 怒りに駈られたエリーナは壁に掛けられていた剣を取ると姉だった者に切りかかった。

 ひ弱に見えても彼女の剣の腕は中々の物だったが……

 マーガレットはヒョイと避けるとエリーナの足を引っ掛けた。

 エリーナは無様に転ぶ。

 マーガレットはエリーナの背に素足を乗せると思いっきり踏む。


 バキバキバキ!!


 厭な音を立てて背骨が折れた。


「ぎゃあぁぁぁ」


 エリーナは血反吐を吐きながらのたうち回る。


「苦しいでしょう。骨が肺に刺さっているから。朝まで苦しみ抜いてね♡」


 目の前で地獄が起きているが皇太子は動けなかった。


「動けないでしょう。声も出ないでしょう」


 女は嗤う。

 甘い声。

 まるで愛を囁いているようだ。


「不思議よね。魔獣に食べられた女が目の前に立っているなんて」


 彼女は皇太子の前に優雅にやって来る。

 前の彼女は儚げな令嬢だったが、今は妖しげな色香を漂わせている。

 彼女は皇太子の前で指を鳴らす。

 皇太子の顔が動く。


「これで喋れるでしょう」


 妖艶に嗤い女は皇太子の顔に手をやる。


「スキル……」


 上手く喋れないが、やっと声を絞り出す。


「あら? 私のスキルを知っていたの? 役に立たないスキルだから(この男)に持ってない事にされたスキルだけど。とっても役に立ったわね」


 女はニンマリ嗤う。


「そう。私のスキルは【魔獣同化】魔獣に食べられる事によって魔獣と同化して魔獣の力を使う事ができる。貴方達には感謝しているのよ。この魔物は【睡魔】のスキルを持っていた。でも城ごと人を眠らせるには魔力が足りなかった。だから魔石を集めるのに一年かかってしまったわ。本当に良いタイミングになったわね」


 足元でのたうち回るが何とかマーガレットの足を掴もうとしたエリーナの手を踏み潰しながら彼女は嗤う。


「さて……終わりにしましょうか」


 彼女は嗤い皇太子の首を喰いちぎるとペッと吐き捨てた。

 皇太子の首はゴロゴロと転がりエリーナの側で止まる。

 エリーナは姉だった者を睨み付けたが。

 やがて血反吐を吐きながら闇に落ちて逝った。


 白い魔獣は一声哭くと闇の中に消えていく。


 後に生首三つと惨殺された死体が残った。

 月はただただ優しく惨劇の跡を照らしている。







 隣の国の皇太子と皇太子妃が魔獣に殺されたと噂が流れたが。

 森に住む娘には関係無い事だった。

 娘の元に若い傭兵が訪ねてきた。

 傭兵は今は亡きブライン伯爵に仕えていた騎士だったが。

 伯爵一家が処刑された時、国を出て傭兵になったと言う。

 実は傭兵はブライン伯爵の三男で処刑されたのは乳兄弟だった。

 ただ一人彼は生き延びた。

 そして傭兵団を作り虎視眈々と復讐を狙っていたのだが。

 森に住む娘の噂を聞いてやって来たのだ。


 まさか……まさか……まさか……


 娘は姉と慕う者だった。


 やがてある国が傭兵団に滅ぼされた。

 傭兵団の団長が王になった。

 彼の横には白い聖獣が控えていたと言う。







            ~ fin ~




 ****************


 ~ 登場人物紹介 ~


 ★ マーガレット・レ・サンジュ(享年18才)

 主人公。公爵令嬢。腹違いの妹に嵌められ罪人とされ護送の途中で白い魔獣に食べられた。スキル【魔獣合体】により魔獣と合体する。復讐を終えた後に聖獣となる。



 ★ガルア皇太子(享年24才)

 主人公の婚約者。主人公一筋で妹に靡かなかったから、妹の怒りを買い暗殺された。


 ★ダマスクローズ第二王子(享年20才)

 皇太子の弟。王位を欲し、優秀な兄を妬み兄の婚約者に横恋慕するクズ。最後魔獣となった主人公に首を落とされる。


 ★エリーナ・レ・サンジュ(享年18才)

 主人公の妹。儚げで可愛い外見にみんな騙されるが、皇太子は引っ掛からなかったので憎む様になる。美しく優秀で努力家の姉が嫌いだった。姉の物は何でもクレクレ女。


 ★ジョージ・レ・ザンジュ(享年52才)

 主人公の父親。政略結婚の妻と娘を嫌う。

 愛人だった女が妻に毒を盛っても黙認し。皇太子暗殺も黙認した。皇太子も妻の実家も嫌っていた。最後、主人公に首を落とされる。


 ★ローズ・レ・サンジュ(享年38才)

 主人公の継母。平民。悪知恵は回る。主人公の母親に毒を盛っていた。


 ★サリア・レ・サンジュ(享年25才)

 主人公の母親。夫を愛していたが夫に嫌われていた。

 夫の愛人に毒殺される。



 ★マイクロ・ブライン(30才)

 傭兵団の団長。処刑されたブライン伯爵の三男。

 乳兄弟が彼の身代わりになって国から逃れた。

 生き残りの騎士や兵士をまとめ各国で傭兵として活躍。

 森に住む従姉と出会い、側室のせいでぐちゃぐちゃになった祖国を滅ぼし建国する。



























最後までお読みいただきありがとうございます。

感想・評価・誤字訂正よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 恋愛が無いような気が……。 [一言] マーガレットは死んだというよりも生まれ変わったような気がしますね。 幸せになって欲しいですね。
[気になる点] 恋愛ではなくハイファンタジーに該当すると思います。 また、オチからしてバッドエンドではないですね。悲恋要素はなく復讐、ざまぁが正しいでしょう。
[気になる点] どこをどう見ても恋愛のれの字もないんですけど。 ヒューマンドラマかホラー、百歩譲ってもハイファンタジーでは? あと主人公のスキルは魔獣同化なのか魔獣合体なのか。 それから主人公の家…
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