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終わるまでの世界で  作者: 夜霧ランプ
8/10

動物達はお医者さん

 回復操作の練習村には、フォックスの他に、ベアとタイガーとラビッツとキャットと言う4人の「常勤テストプレイヤー」が居た。全員、名前の通りの獣人デザインのアバターで、白衣を着た少年少女の姿をしている。

 声も、それぞれ特徴はあるが、キャット以外はショタ声かロリ声だった。キューブが「作っていない」と言っていただけあって、喋り方は非常にナチュラルだ。

 キャットだけは外見の幼児っぽさとは違う、大人びた女性の声をしていた。

「私は、言ってみれば、『第一期スカウト生』かな」と、キャットは説明してくれた。ずっと前に、スカウトテストプレイヤーの中でも働きを認められ、扱いが「常勤」にレベルアップしたのだそうだ。

「給与とか出たりする?」と、ユキは聞いてみた。

「それはないけど、自分の好きなゲームのために全力を尽くせる立場には成る」と、キャットは言う。「ユリアちゃんも、もし、このゲームをずっと続けたいって思ったら、『常勤』に成れるまで頑張ってみてね」

「はい…」とだけ、ユキは答えておいて、考えた。24時間、ひたすらゲームの中にて、一人称視点でゲームの中を覗いて、「ユリア」と言う美女としてゲームの世界を維持するために働く仕事…。

 ゲーマーとしては嬉しくないわけではないが、ユキにも日常や私生活がある。24時間ゲームの中に居るのは無理かなー、給料も出ないじゃなー、と思っていた。

 ふと、24時間ゲームの中に居るってどうやるんだろうっと思った。だけど、パソコンの時間設定をいじればゲームの時間軸を操作できるんだったと思い出し、だけど、ユリアの時間軸に関係なく成長している一般ユーザーも居て、おまけにいつアクセスしても、「常勤」達は普通に活動しているっぽい。

 特に、いつアクセスしても、テンはすぐに「ユリア」が活動し始めたのを見つけて、声をかけてくる。

 なんか変な事が起こってるっぽいぞ? と言う予感が湧いてきた。


 その日の練習を終えて、練習村の宿屋でセーブし、就寝のグラフィック―一応、ベッドに寝ころぶと言う動作をしなければならないが―を観てから、ユキはパソコン用眼鏡を外した。瞼を閉じると、真っ白な画面の光が目に焼けている。目薬を差そうと思って、冷蔵庫に向かった。

 冷やして置いた目薬を取り出し、点眼する。熱を持った目に冷えた目薬が沁みて、眼筋がほぐされるような気がする。

「私にも回復操作が必要だな」と独り言ちながら、夜食のうどんの用意をする。その日は出汁ではなく、卵と生醤油で食べてみた。

「それ、美味しいそうだね。どんな味なの?」と、誰かに聞かれたような気がした。

 辺りを見回しても、誰も居ない。

 変なの、と思いながらうどんを啜った。


 休憩中の「感染アバター」を見つけたり、「廃棄アバター」を見つけたりしては、その目玉か頭に向けて武器を振るう日々が続いた。慣れてくると、一撃を与えた後にすぐにその場を去って、次の「感染アバター」を探しに行くと言うのが流れ作業で出来るようになった。

 テンは何処に「感染アバター」があるかを把握してくれて、最初は「人気のない場所に居るアバター」とか、「今の時間帯は誰も居ない場所に居るアバター」とかの居場所を調べて教えてくれた。

 一ヶ月もする頃、テストプレイヤーとしての仕事は増えた。

 通常のテストプレイをしながら、「感染アバター」や「廃棄アバター」を見つけて、密かに処理をして、また通常のテストプレイを行なう。テストプレイ中に余計な動作ができないときは、何処に「感染アバター」や「廃棄アバター」があるかを覚えておいて、各練習村に知らせる。

 そうすると、裏作業でそのアバターは回収され、練習村に送り届けられる。バグを起こすウィルスの感染を広げないためと、一般ユーザーに裏作業を知られないためにも、その作業は素早く行われた。


「テンが『感染アバター』を処分したり回復したりする時って、どうやんの?」と、ユキは聞いてみた事があった。

「え?」と言って、テンは辺りを見回し、まだチャットの一部が文字化けする程度の感染しかしていないアバターを見つけ、「こう」と言って、ナイフで切り付け、すぐ戻ってきた。

 瞬きをしていたら見逃すくらい早いモーションだった。たぶん、一般の俯瞰視点ユーザーからは、なんか影みたいなのが通ったようにみえるか、もしくは見えていない。

「すげー。『常勤』の仕事ってそんな感じなんだ」と言うと、「うん…。まぁ、そうだろうね」と返ってきた。

 何か言いにくそうにしているので、「何? また、誰かの恋愛模様でも知っちゃったの?」と聞いてみた。

「いや…あのさぁ…」と、テンはちょっと俯いたまま、何かを言おうとしている。「ユリアの…」の所までたどたどしく言ってから、「ユリアの中の人が何時も食べてる料理って、どんな味がするの?」と、急に滑らかに言い出した。

「あ…。ああ、はい。うどんの事ね」と言って、ユキはうどんと言うものを細かく説明することになった。

 説明しながら、うどんすら知らないと言う事は、日本語を流暢に使うけど、テンは外国の人なのかな? と、うっすら思った。

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