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終わるまでの世界で  作者: 夜霧ランプ
7/10

殺人鬼になる練習をしよう!~そして実践へ~

「いや、いやいやいやいや…。なんでまた?」と、ユキが顔の前で手を振る反応を見せると、ゲーム内のユリアも同じ動作をした。

 ユリアの顔を見て、キューブは目を丸くし、口元をニーッと笑ませて、「分かりやすすぎー」と言って、枕を抱え込み笑い転げる。

「あの…。あのですね、キューブ先輩? ゲームの画面の中でしか知らない人…って言うか、アバターを好きになる人っていると思います?」と、ユキは画面に向けてなるべく冷静に声をかける。

「アバター同士でレンアイしてる人達も、結構居るよ? だから、開発が『同居』とか『結婚』のシステムを作ったんじゃん。他のゲームでは、インカム使って声も聞けたりするし」

 キューブは何故か嬉しそうだ。

「実際、私達は声が聞こえるし、ユリア君は、私のカワイイ後輩の声を聞いてみて、どう思った?」

「お…」と言って、ユキは固まった。斜め上を観て、なんと返そうか考えてから、「思ったより、ショタっぽい声だと…」と答えた。

 それを聞いてキューブは甲高い大爆笑を起こし、「それは仕方ないよ。だって…」と言いかけ、何か別の事を言おうとしていたような間を開けてから、「私だって、こんなロリ声じゃん? 作ってんじゃないんだからね、この声」と言って、自分の口元を指さす。

 ベッドに寝ころんだパジャマ姿のアニメ顔女子が、綺麗な指先を口元に持って行っている。ユキとしては、物凄く気まずい。普段は無視しているセクシー系ゲーム広告とかを直視させられている気分だ。

 ユキは「あー。はい。そうですね」と答えて、ユリアの体を操作し、キューブの使ってるベッドから一つ間を開けたベッドに横になった。

「何? 距離とらなくて良いじゃん」と、キューブは、猫にかまってくる飼い主のようにユリアに絡んでくる。毛布の上から脇腹を揉まれて、「ギャー!」と悲鳴を上げた後、反射的な笑いが湧いてきた。

 ユキは何かおかしさを覚えた。実際に、脇腹がくすぐったいのだ。

 それに気づいた途端、「オヤスミ」と言うキューブの囁き声が聞こえて、パソコン画面がシャットダウンした。


 3日後、ようやくユキはゲームを起動する気になった。パソコンの時間を前回ゲームを終わらせた日の0時17分に合わせる。

 ロード画面が起動していると、またあのチャットのウィンドウが出てきた。「あなたを」「ずっと」と出てきて、まだどこかの誰かが誰かに告ってるよ、と思った。

 しかし、次に続いたのは「あんさ…」と言う文字だった。そこでロード画面もチャット画面も終了し、正常にゲームが起動した。


 廃棄アバターを処分する方法をおさらいしてから、実際にゲーム内に転がっている廃棄アバターを攻撃しに行くことに成った。

 今まで、他のユーザーも、アバターにカーソルを合わせれば見れた「ユリア」の名前とステータス情報が隠されるようになった。つまり、ユリアの状態は「サーチ」出来なくなった。

「これだけで安全って言うわけじゃないけど、仕事をしたらさっとその場を離れるって言うのは忘れないようにね。じゃぁ、実践行ってみよう」と、テンは言って、ユリアを実際の廃棄アバターが転がっている画面に残した。

 まだ周りに他の使用アバターはいない。ユキの視界としては「ぼやけているアバター」に向かって進んで行き、座っているはずの廃棄アバターの頭部に、サーベルを突き刺す。

 バチッと、敵を攻撃した時と同じ音がして、ユキの視界の中で廃棄アバターの頭部が壊れる。首元から足先へ、ほどけるようにザクザクと廃棄アバターが消えていく。

「何してんの!」と言う、テンの焦った声が聞こえる。そこで、ユキはハッとした。仕事をした後「アバターが壊れていくのを観察している」のも、不必要で危険な時間とカウントされるのだ。

 ユキはユリアを操作し、走らないように、何も知らないようなふりをして、フィールドを去った。


 廃棄アバター処理が板についてきた頃、「操作不良アバター」を回復させる方法を学ぶことに成った。キューブの居る場所とは違う「練習用の村」があると言う。

 その村までの道行も、俯瞰モードでプレイしているユーザーには入り込めないようになっている。

 その村では、「休憩中」や「睡眠中」等と書かれた吹き出しを付けたアバターが、やはりデザインをされていない白いアバターによって運び込まれてきており、複数の「獣人」の姿をしたアバターが休憩中アバターに何かをして、何かを施された休憩中アバターは速やかに村から運び出されていた。

「フォックス」と、テンが手近な獣人デザインのアバターに声をかけた。狐耳をはやした少年の姿をしている白衣のアバターが、片眼鏡越しに「やぁ。テン」と、返事を返してくる。

 どうやら、この獣人デザインアバターが、今回の「回復操作」を教えてくれる「常勤テストプレイヤー」らしい。

 簡単な自己紹介をして、「回復操作」の方法を教えてもらった。フォックスの説明は淡々としていた。

「回復操作は魔力が必要な仕事。モーションとしては攻撃の動作で十分。一撃与える度に魔力が減って行く。君の魔力数値は初心者にしては高めだから、3、4回ミスっても通常の仕事は出来るだろう」

「刺すのは頭?」と、ユキも確認する。

「そうだね」と、フォックスは答えた。「休憩中アバターは目を閉じてるけど、瞼を狙うと間違いない」

 痛そうだなぁと思いながら、ユキはピンボケしていないアバターをじっくり見て、目を狙ってサーベルを突き刺す。ピンボケアバターの頭を狙う練習をしていたので、ハッキリ見えているアバターの瞼を狙うのは比較的簡単だった。

 バチッと音がして、ピンぼけていないと思っていた休憩中アバターの形が、よりクリアになる。本来はこんなに解像度が良いのか。と、ユリアは美形な男性アバターの前に屈みこんで、グラフィックに見入る。

「ユリア。練習中」と、テンが不機嫌そうな声を出した。

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