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終わるまでの世界で  作者: 夜霧ランプ
4/10

そっちからこっちの世界を救え?

 目の前に、一人称視点の画面が広がる。あれ? ゲームの仕様変わった? と思いながら、画面に見えている前髪の色に注目する。薄墨色の入った銀髪。ユリアの髪色だ。

 心配そうな、不安そうな顔をしたテンが、やたらと画面の近距離に居て、ユリアの肩をつかんでいるのが分かった。

「テン?」と、画面の前で呟くと、「よかった。気が付いた」と言う、さっきホラーな画面の前で聞こえた声がした。

 ヘッドフォンをしているので、ゲームの中からテンの声が聞こえるのは不思議では無かったが、ユキはパソコン用のマイクを使っていない。だけど、さっきの呟きは聞こえたっぽいぞ? と思いながら、「私がなんて言ってるか分かる?」と、声に出して言ってみた。

「分かる」と、テンの返事がヘッドフォンから聞こえる。「俺の声は分かる? 朝顔、ひまわり、紫陽花。種が食べれるのは?」

「ひまわり」と、何処に声を投げた物かきょろきょろしながら答えると、見えている方向も動く。「何処見てんの。喋る時はこっち向いて」とテンに言われる。

「ああ、うん」と返事をしてから、「さっき確か…。助けてって言ってたような」と言うと、「あ。聞こえてた?」と、テンは言って恥ずかしそうに髪を掻く。

 そこから、いつもの調子のテンのロングトークが始まった。

 テンは開発者からの指示を受けて行動している、ある種の「常勤テストプレイヤー」だったと告げられ、それで内部事情に詳しかったのかと、ユキは思い当たった。

 そこから、テンはおかしなことを言い始めた。

 こっちの世界での異常を治せる素質を備えたプレイヤーをそっちの世界で見つけたら、「常勤」達はスカウトを行なう。

 その時、そっちの世界とこっちの世界を融合させられるキーワードが必要なのだが、その時一番ユリアに伝えたかった言葉が、「たすけて」だったのだそうだ。

 テンとしては、心の中で唱えたつもりだったけど、それがユリアの中の人の家のパソコンに、直接「音声」として再生されてしまったのだろうと。

 何処かの漫画で読んだような話が展開されていたので、ユキは「なんて言うか…。ゲーム内のそう言うイベントだと思えば良いの?」と聞いてみた。

「それで良い。全部受け入れろなんて言わない」と、テンは言う。「だけど、助けてほしい理由を話しても良い?」

「どぞ」と、ユキはいつものチャットの要領で返した。


 一つは、テン個人の事だった。先日、一緒に紫真珠のクエストをクリアした治療師の女の子、アバター登録名はイオリと言うそうだが、その人物から「やけに気に入られてしまって」、何度もクエストの協力を頼まれるようになった。

 だが、イオリはギルドの中で「可愛い新人アイドル」的な位置にいて、誰にでもべたべたしたがるし、喋り方も何となく「作ったような女の子っぽさ」があって、テンにとっては気持ち悪く感じる。

 しかし、そんなイオリに「べたべたしてもらいたい男性達」も居て、何度もイオリからクエストに誘われているテンは、イオリファンから毛嫌いされるようになってしまった。

「これは、ギルドを抜ける機会かなって思ったんだけど…。ユリアとの『交流値』が下がっちゃうのが気がかりでさ」と、テンは一度話を締めくくった。

「テン。私と仲良くしても、何も得るものはないぞ?」と、ユキは画面の中のテンに声をかける。「もしかしたら、私の中の人はおっさんかも知れないし、毎日夜食に貧しいうどんを食ってるかもしれないし、女子アピールもしないし、そりゃぁ、私よりテンのほうがレベル上だから、クエストの協力をしてもらえるのは嬉しいけど、だからと言ってお前個人に私の興味が湧くとか言うことは無いと思うし」

 それを聞いて、テンは目元を笑ませた。アハハと言う、少年の笑い声が聞こえる。イベント画面だと、笑顔を作る事も出来るのか、とユキは思った。

「そう言われればそうだ。今の所、俺はユリアを『こっちの世界』を助けてくれるテストプレイヤーとして見てる。それに俺には、ユリアの中にいる君のことだって、見えてるんだよ? さっき言っただろ? そっちの世界とこっちの世界を融合させたって」

 じわじわと事態の分かってきたユキは、パソコンテーブルの傍らに置いていたうどんの器と、肌の色さえ誤魔化していない、どのつくすっぴんを「男の子」に見られてると言う恥ずかしさから、真っ青になってリアクションも取れなかった。

「と…り、あえず、お前個人の助けてほしい感じは分かった」と、ユキは平静を取り繕った。「ギルドに残るにしても、イオリにべたべたされたくないし、ギルドを去るにしても、私との交流値を下げたくない。それなら、お前が新しく入るギルドに、私も参加すれば良いのかな?」

「やっぱりユリアは話が分かるな」と言って、テンはユリアの手を引いた。一人称視点の画面に、細いながらに鍛えられた、防具に包まれた女の子の手が映る。その手の先はテンの、顔つきとは違って骨ばった男っぽい手に繋がれている。

「まだ、一人じゃ行動出来ないだろ? 体の操り方を教える。ついでに、ギルドを抜ける手づづきもしよう」

 二人は仲良くお手手をつないで、ギルドの退会手続きをした。

 そこで、イベント画面は終了…しなかった。

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