表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わるまでの世界で  作者: 夜霧ランプ
1/10

始まりは愚痴からでした

 画面の前で、かけうどんを啜りながら、ヘッドフォンを頭に戻し、異常事態が起こっていることに気づく。同じギルドに所属していて、ユキの操作するアバター「ユリア」と最近知り合ったアバターが、個別チャットで何やらごちゃごちゃ話しかけて来ているのだ。

 画面をスクロールして話の発端から遡ってみると、まずはいつも通りギルドのクエストを一緒にやらないかと持ち掛けられた。それには、「おけ」と2文字だけで返事をしていた。

 クエストの話を持ち掛けてきた男性アバター「テン」は、何か鬱積していたものがあるようで、そのギルドの中に蔓延っている恋愛模様を聞かせてくれた。

 テンとユリアの所属しているギルド運営者であるカナタと言う名前の女性アバターを使う人は、自分のギルドに所属しているアズマと言う名前の男性アバターがお好みで、熱心にレアアイテムを貢いだり、一緒にクエストに行ったりしている。

 このゲームのシステムで、「交流値」と言うものがあり、「交流値」の高いキャラクターと一緒にクエストに行くと、魔法を発動した時の連携が上手く行ったり、回復や補助系の魔法の効果が上がったり、攻撃に移る時のモーションラグが最小限になったりする。

 モーションラグはリアリティを出すために敢えて付与されているものだが、交流値の高い者と一緒に戦闘を行なっている時は、魔法を使った後に即座に武器に持ち替えて、敵や捕獲対象に隙無く攻撃を加えられるようになる。この反撃の隙の無い攻撃は、ユーザー間で「怒涛」と呼ばれている攻撃方法で、ボスキャラと闘う時にこの「怒涛」を起こせると、とても有利に戦える。

 初対面の者との交流値はみんな「0」のカウントだが、同じギルドに所属している者同士では「50ポイント」の加算があり、チャットでしゃべる度に「1ポイント」、クエストを一緒にこなす度に「10ポイント」が加算される。

 ギルドを抜けた時と、一緒にやってたクエストを失敗した時は、加算された分の交流値は同じポイント分だけ減算される。

 そのシステムは、あくまでクエストをクリアするための「助け合い」のためにあるはずだったが、追加機能で「交流値」の高い者と「同居」か「結婚」をして、さらに交流値を上げると言う事ができるようになった。もちろん、「結婚」があると言う事は、「離婚」もある。離婚をした場合は同じギルドに所属していても「交流値」が0カウントになって、もし離婚した同士のキャラクターが復縁するには、0からの長い交流を積み重ねなければならない。

 この「同居」のシステムと「結婚」のシステムは、最初は規則がガバガバで、交流値が一定以上の者とは、何人でも「同居」も「結婚」も出来た。その内、ゲームとは言え倫理的にまずいと思われたのか、開発者側から「複数人での同居」はそれまで通りに継続して、「結婚」のシステムは「未同居」で「未婚」のキャラクター同士しかできない事に成った。

 それからと言うもの、ゲーム内で熾烈な「結婚相手探しクエスト」を始める者達が現れた。そんな公式クエストはゲーム上には存在しないのだが、ユーザー達によりチャット内で「婚活クエスト」と言う設定が作られた。

 ゲーム開始時に、出来るだけ好ましいアバターを作って、戦闘スキルやレベルを上げて、「意中の特定のキャラクターと同居か結婚するために」、自分のアバターを磨くと言う、現実世界さながらの「婚活」が行なわれるようになったのだ。

 ギルドの連絡掲示板にも、「何月何日、何処で○○主催の婚活パーティー開催」とか、書かれていたりもする。

 そして、ほんの3日前くらいに、カナタとアズマが、「同居」の出来るくらいの交流値を得た。そこから、カナタはアズマに「今のパートナーと分かれて自分と『結婚』してほしい」と申し込むようになったらしい。

 そんな事情を知っているせいか、テンはそのゲーム内のシステムに嫌気がさしており、レベルが高いが故に複数の伴侶と「同居」しているユーザーを避けている。それに、交流値を上げようと頑張ってるだけに見えても、そのユーザーのアバターが「結婚」をしていると、何となく浮気を働かれているような気がして、とても居心地が悪い。

 と言う内容の話が、一週間前にこのゲームを始めたばかりのユキにも分かりやすいように書かれていた。

 ユキがチャットを返さないので、後の方の言葉は「ど思う?」とか、「どした?」とか、「ま、ゆっくりよんで」とかになってた。

「ごめん。飯食ってた」と書いてから、「ゲームと関係ない人間関係作ってどすんの?」と、ユキはチャットで聞いたが、「そう言う人間関係ができちゃうソーシャルゲームになったんだよ」と、かなりキーボードを打つのが早い感じでテンは答えてきた。「ユリアも『婚活』目的だと思われないように気を付けてね。結構綺麗なアバター作ってるから」

「あー。分かった」と、ユキは返した。

 確かに、アバターメイクの時、どぎつすぎない程度の美人になるように設定したが、ゲーム内で婚活が行なわれている事は知らなかった。

「じゃ、クエストリンク、カム」と、続きの返事を送り、その日はテンと一緒に「桃色鹿肉集め」のクエストをこなした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ