神様に見えました
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女子高生生活も三年目に入りました。私はイジメに遭っています。つらいです。苦しいです。でもそれが現実です。体育館裏に呼び出されて――呼び出されたというのなら行かないことも選択肢の一つなのに、私は行かずにはいられません。さらなる怒りを買って、いま以上のイジメに遭うのが嫌だからです。怖いからです。とりあえず、呼び出された場所に行けば、頬を張られたり、おなかを蹴られる程度で済みます。私はそれでだいじょうぶです。ほんとうにだいじょうぶなんです。
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私のことをイジメる主犯格の女子には好きな男子がいます。○○くんといいます。誰もが――男子も女子もが憧れる存在です。誰よりも身体が大きいです。頭がいいです。誰よりも勉強ができます。運動も得意らしいです。誰よりも高く飛べるのだと聞きます。竹を割ったようなさっぱりとした気質でもあるようです。外見と勉強と運動と性格。それらが優れていると、たぶん、学校という現場においては完璧です。誰からも慕われるし、誰からも敬われます。私をイジメる女子は、そんな彼のことが大好きみたいです。それはもう知っています。その関係については「誰も手を出すな」という暗黙の了解のような空気が流れているからです。結ばれれば良いのだと思います。だけど、イジメる女子は、私がそのカッコいい彼に「想いを寄せているのだろう」と言い張ります。そんなこと、あっていいはずがないのに。その男子のことを好きになるなんてとても恐れ多くてできるはずもないのに――私なんかは特に……。
私は今日もおなかを蹴られて、「痛い痛い」と鳴きます泣きます。それでもイジメる女子もその取り巻きもゆるしてくれません。私が「痛い痛い」と鳴くのを泣くのを見て喜んでいます。「誰か助けて」とはもう望みません。つまるところ、私が耐えればいいんです。耐え続けさえすれば平和なんです。
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放課後、私は教室で一人、小さくなっていました。これからまた、イジメが始まります。私は忌むべき体育館裏へと向かわなければなりません。
そんなふうに私が壁に背を預け、三角座りをして首を前にもたげていたときのことです。教室の前部の出入り口が勢い良く開き――勢い良く開けられたものだから私は「ひゃっ」と頭を抱えました。イジメるニンゲンが呼びに来たのだと思ったからです。私は頭を抱えたまま身体を震わせます。嫌です、嫌です、できることなら、もうぶたないで……っ。
頭を抱えて震えていると、頭をぽんと叩かれました。イジメの合図とは違います。ほんとうに優しい叩き方でした。むしろ温かみすら感じました。
恐る恐る顔を上げたところで、びっくりしてしまいました。イジメの主犯の女子の想い人が、○○くんが目をまあるくしていたからです。ほんとうに、私はびっくりしました。〇〇くんは大きな粒の汗をかいていました。この界隈をランニングして回っていたとのことです。上はぴちっとしたトレーニングウェア姿で、下は短パンの下にタイトなタイツを穿いています。いずれも色は真っ黒です。
「どないしたんや、おまえ。泣いてるやないか」
○○くんはほんとうに目を丸くしていました。私は咄嗟に両の目元を左右の手で拭いました。「かんにんな。なにがなんやらようわからへんけれど、ハンカチなんて上等なもん、持ってへんねんわ」と○○くんはいたずらっぽく笑ったのでした。
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荷物を取りに戻ってきたという○○くんは、壁に背を預けて座っている私の隣にどっかりと腰を下ろし、「で、どないしたんや、さやかちゃんは」と声をかけてくれました。"さやかちゃん"と呼ばれたことに、それはもう、私はびっくりしました。学校一の有名人が私のことを知ってくれていたわけです。驚かないはずがありません。「スクールカーストがなんやとか、さやかちゃんはそないなことばっか考えてんねやろ?」と言われてしまっては、まさに心を読まれたような思いに駆られました。恐ろしいとすら思ったくらいです。○○くんは全知全能なのでしょうか? そんなふうにまで思わされてしまったくらいです。
○○くんはきっと、神様なんです。
誰よりも勉強ができて、誰よりも運動ができて。言ってみれば、ほんとうにバケモノです。怪物です。力も強いらしいです。何人を相手に喧嘩をしても負けないようです。むしろ喧嘩をしたあとには喧嘩を吹っかけたほうが付き従うようです。喧嘩はいけないことです。怖いことです。ですけど、そこに正しさがあるのなら、そこにはまた違った色合いと意味合いが生まれるのかもしれません。それを成せるのが○○くんなんです。きっとそうなんです。
「つらいことでもあるんか?」
「えっ」
「俺はやな、どんなことにでも聡いつもりではありたいんやけど、なんでやろうな、感情やらが邪魔してしもて、悪い奴にも理由があるんやろうなって思てしもて、そのせいで見逃してまうがけっこうあるんやよ」
「ウ、ウチはウチは……えっと、あのっ」
「なんや?」
「誰よりもすごそう、ううん、すごいのに、なんで部活せーへんのん……?」
「興味がないからや」
だけど、着衣の上からでもわかるくらい、○○くんは筋肉はすごいです。私がこれまで見てきた誰よりも誰よりも筋骨隆々です。
「さやかちゃんが相手やさかい、話してやろうかね」
「ウ、ウチやから?」
「俺、それなりにまともな大学出て、警察官になるんや」
“なりたい“のではなく、“なるんだ”と言った点に意志の強さを感じました。
「警察官に?」
「そうや。せやったら部活なんかしてる場合ちゃうぞって、個人的には、な」
「いまはなにをすべきなん?」
「筋トレや。阿保みたいにやるんやよ。俺は誰よりも力強くありたいんや」
気づいたときには、私は「す、すごいね」と呟いていました。
「ああん? なにがすごいんや?」
「だ、だって、ウチには夢なんて、ないんやもん」
「いまはないだけやろうが。いまからでもええさかい、持てや。叶う叶わへん以前に、持たへんことにはなーんも始まらへんぞ」
「……あの」
「なんや?」
「なんで、どうして……」
「せやからから、なんやねんな」
私は両膝を抱え、泣きっ面で泣き声で、「夢を持つのって、怖くないのん?」と訊ねました。
「なんで怖いねんな? 叶わへんかったときのこと、考えてるんか?」
「うん……」
「死ぬほど追いかけて叶わへんかったら諦めかてつく。俺はそないなふうに思う。爆ぜて回れや。せやないと損ばっか食うぞ」
「爆ぜて回れ?」
「俺が信じる言葉や」
「誰か、偉人の言葉なん?」
「知るか。せやけど俺には響いてる」
「ほんと、強いですね、〇〇くんは……」
「強くありたいって言うたやろうが。ちゅうか、なんでいきなり標準語でしかも敬語やねん」
「○○くん」
「なんや?」
「じつはウチも、強くありたいねん……」
「せやったら、泣くな。ま、ついてこいや」
「えっ?」
「しんどいときこそ運動や」
「ひょっとして、ジム?」
「そうや」
「せ、せやけどウチ、お金なんて――」
「お試し期間っちゅう便利なシステムがある」
いち早く立ち上がった○○くんは私に手を出し、「行こうや、さやか」と言ってくれました。
ほんとうに、神様に見えました。
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ジムに連れて行ってもらった三日間で、私はすっかり元気になりました。○○くんとはLINEをすることになりました。照れくさくてこちらから連絡することができなくても、ふとした瞬間、私が欲しいなぁと思ったときに――ほんとうにそんなタイミングで、○○くんは連絡をくれます。他愛のない内容なのですけれど、なんだかんだ言って悩んで悩んだ末に私もしょうもない返信をするだけなのですけれど、やりとりができるだけでとても嬉しく思います。
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学校ではうさぎが飼われています。エサやりをはじめとする当番が定期的に私にも回ってきて、そこにこのたび一羽が加わりました。身体が弱いらしく、エサもろくに食べてくれません。せっかく来てくれたというのにこれではいつ死んでしまうかもしれないと思い、私はたいへん気を揉みます。私は夜、うさぎ小屋を訪れては、そのうさぎのことを膝に抱きました。涙が出ました。冬の折のことです。こんな可愛くか弱い命がどうして寒さに震え、命の危機に晒されなければならないのでしょうか。私は持参の毛布に包まり、夜、きつくなるまで――きつくなっても、うさぎ小屋の中で座っていました。私が死んでしまうより、ずっとましです。うさぎに少しでも長いあいだ生きてもらえたほうが、ずっといいです。私はうつらうつらの状態から目覚めて、うさぎが生きていると、心の底からほっとします。
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ある朝、私が登校すると、五羽のうさぎは、全部、力なく横たわっていました。私は慌てて鍵を開け、中に踏み込みました。寒さで死んでしまった? そんなことはないはずです。昨日は春を思わせるような温かな一日でした。だけど、死んでしまった。だったら、どうして……。なぜ昨日は夜番をしなかったのだろうと悔やみました。だけど、その悔やみは、うさぎの遺体を見て、驚きに変わりました。白いうさぎのそれぞれの喉元に赤い点があったのです。まるで、太い針かなにかで突いたような痕が……。
私はその旨を、担任の先生に訴えました。だけど、どうしてでしょう、不思議です。担任の先生には取り合ってすらもらえませんでした。だから、他の先生にも訴えました。だけど、どうしてでしょう、不思議です……いえ、教頭先生にまで訴えようとしたところで気づきました。誰もうさぎには興味がないのだということに。信じられませんでした。先生のみなさんはいいひとばかりだと思っていたからです。
私が殺してしまったんだ……。
私はそう思い、泣きじゃくります。
学校から抜け出して、近所の公園のブランコの上で泣きじゃくりました。
うさぎは立派な生き物です。
命の尊さはニンゲンのそれと変わらないはずです。
なのにどうして、みんな無視するのでしょうか。
無視できるのでしょうか……。
○○くんから連絡が来ました。
『さやかは相変わらず、優しいな』
そのあとに一言、彼はなにも悪くないのに、『ごめんな、さやか』とありました。
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夕暮れの放課後。私は教室の後部の壁に背を預け、私の隣には○○くんの姿があります。
「うさぎ、残念やったな」
○○くんの言い方には、なんの他意も感じられません。だからこそ、ほんとうに悲しんでくれているのだと感じることができました。
「ウチ、うさぎ、かわいそうなことしてしもた……」
「うん」
「ほんとうに、かわいそうやってん……」
「うん、せやな」
「私のせいやっ」私は両膝のあいだに顔をうずめた。「ずっと一緒にいてあげれば、こんなことにはならへんかったのに……っ」
「阿保抜かせ。ずっと寝ずの番なんざ続けてたら、さやかのほうがバテてしもてたわ」
「せやけど、そんなの、結果を見たら……」
「そうや。結果論や。おまえはなあんも、悪くない」
「嘘なんて聞きたくないっ」
「俺が嘘言うってんか?」
「言わ……へんと思う……」
○○くんは豪快に笑いました。
そして、「今日は持ってるんやわ」と言い、空色のハンカチを貸してくれたのでした。
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イジメる女子に体育館裏に呼び出されました。幾分、久しぶりのことです。顔を殴られ、おなかを蹴られた私は膝をつき、三人の女子を見上げています。
「うさぎ、変な刺し傷あったやろ? あれ、あたしらがやってんわ」
「えっ」私は目を見開きました。「嘘やろ、ミカちゃん、嘘やんね?」
イジメる女子――ミカちゃんは私の左の頬を右足の甲で蹴飛ばしました。私は地に両手をつき、土を舐めることになりました。
「待って、待って。ミカちゃん、嘘やんね、嘘やんね?」
「なんや、さやか、おまえ。嘘やないと困る理由でもあるんか?」
「だって、うさぎよりニンゲンのほうがずっと強いやんか。強いのに、なんで弱いのんを殺すん? なんでそないなことしたん?」
「おまえ、いよいよ○○に手ぇ出してるやろ?」
「えっ」
「あたしは知ってるんやってば、さやか。○○と仲良くすなや。あれはあたしのなんやからさ」
「ウ、ウチ、誰から取るとか、そんなつもりないよ。ほんの少しかてないよ」
「なんや? ○○のほうから寄ってきてるってんか? せやったらなおさらゆるせへんねんけど? ああん!」
今度は真正面から顔を蹴られたので鼻血が出ました。
「なんにしたって、うさぎは関係ないやんか。ウチらニンゲンのことと、うさぎは別やんか」
「うっさいわ。死ね死ね死ね死ね死にさらせ!」ミカちゃんは私のことをさらに連続で蹴ります。「おまえみたいなんが一番タチ悪いんや。ちょいかわいいからって」
「ウチはかわいないよぅ。ミカちゃんのほうがずっとかわいいやんかぁ……」
「うっさいうっさい。死にさらせ。おまえみたいなんは死にさらせっ!!」
ミカちゃんの背後に、ぬっと大きな影が現れたのです。取り巻きの二人は「ひっ」と小さな悲鳴を上げて退き、気づいたミカちゃんも身を引いたのでした。
そこにいたのは、○○くんでした。
すぐにミカちゃんがあれこれ言い訳をしました。ミカちゃんのことを押しのけて、私のすぐ目の前で、○○くんが膝を下りました。ほんとうに申し訳なさそうな顔をして、悲しそうな顔をして、私に「わりぃ」と謝罪し、それから手を貸してくれました。私のことを土の地面から引っこ抜くようにして立たせてくれました。
「○○、せやからね、これは――」
「もうしゃべんなや。俺はかなりおまえんことが嫌いになったさかい」
「そ、そない言わんかてええやんか。あたしがあんたのことどれだけ好きか、知ってるやろ?」
「せやったらや、ミカ、俺はなんでおまえんこと抱かへんねや思う?」
「それは、あんたが潔癖すぎるやからやろ? もっぱらの噂やん」
「阿保抜かせ。おまえが知らんとこで、俺は女なんて抱きまくっとるわ」
「う、嘘や、そんなん!」
「これ以上、俺に軽蔑されたないんやったらとっとと消えろや。俺はいま、メチャクチャ腹立ってんぞ」
「そんなちゃっちぃ奴のどこが――」
「ミカぁ、ほんま、これ以上、俺を怒らせんなやぁ」
その怒気に満ちた声はほんとうに怖かったのです。
だからきっと、ミカちゃんも取り巻きも慌てて逃げだしたのです。
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私は二人になりたいと言いました。○○くんはお願いを叶えてくれました。ラブホテルです。私はなんの抵抗もなく入館し入室しました。○○くんならそんなことはしないだろうと思った反面、彼にならなにをされてもかまわないとも考えました。
ベッドの上でベッドボードを背に、私たちは並んで座っています。
「一発、ぶん殴ってやるべきやったかなぁ」
「ミカちゃんのこと?」
「そうや」
「○○くんは誰に頼まれてもそんなこと、せぇへんやろ?」
「せぇへんな。男は女より強いんやさかいな」
「女は男より弱いとも言うよね」
「そうやな」
二人して、小さく笑いました。
「ウチの初恋の相手って、誰やと思う?」
「なんやぁ、いきなり」
「ねぇ、誰やと思う?」
「わかるかいや」
「あなたですよぉ、○○くん。最近、そうなってんよ」
○○くんは天井を見て、目を薄くしました。
「場所が場所や。頭おかしくなるくらい抱いたろか?」
「やめてぇ」私は身をよじって笑いました。「ぜぇったい、忘れられへんくなるもん」
「俺に好きな女なんておらへん。せやけど、一瞬だけなら、そういうこともある」
「っていう理由で女のヒトを抱くんやね。いやぁっ、サイテーっ」
また二人して笑いました。
「さやか、夢はできたか?」
「できた。お嫁さん。あかん?」
「いんや。掛け値なしの、ええ夢や」
褒めてもらってしまいました。
「○○くんのこれからのこと、ウチは応援するよ」
「阿保。応援されんでもなんとでもするわ。俺を誰や思てんねん」
「あはははは。そうやね」
「なんや。元気に笑えるんやないか」
私は優しい気持ちになり、少しだけ、○○くんの腕を借ります。
彼の左腕に両腕を絡ませ、身を寄せます。
ほんとうに太い腕で、まるで丸太です。
「○○くんは弱いヒトを救いたいから、おまわりさんになるんやよね?」
「幸か不幸か、俺はでかくごつく生まれたさかい、弱い奴は助けたらんとな。それが、俺が死ぬまでのあいだのミッションや」
なんてカッコいいことを言うヒト――男性でしょうか。
カッコよすぎて、目の前がくらくらします。
私は笑顔を作りました。
「一生、ヒトを救わなあかんから、○○くんは結婚せぇへんて言うんやね?」
「ああ。そないなことしてる暇なんてありゃせんわ」
エッチなことがしたいなって、ちょっと思いました。だけど、しないんだって我慢しました。この先、ずっと後悔することになる我慢だったかもしれません。
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卒業式。
3月9日。
晴れ渡る日。
風が暖かい日。
校門のすぐ脇に立って待っていると、○○くんが走ってきてくれました。大きな身体です。大きな歩幅です。でも誰より動きは軽快です。そばに来るなり「遅なった。かんにんな」とまず謝るあたりに優しさを感じます。とっても彼らしいです。
「ボタンやったらある程度、配れたんやけどな」
○○くんはいきなりそんなふうに言い、なんのことだろうと思っていると、彼は緑色のネクタイを取り払い、それを私の首に巻いてくれました。「えーっ、えぇーっ」と私は驚いてしまいます。周囲の目線を感じます。だって誰よりもカッコいい男のコがそんなことをしてくれたのだから、あたりまえです。
私は目を白黒させ、「えっ、なんでなん、○○くん?」と訊ねました。すると、「せやから、ガッコはあいにくとブレザーやさかいな。ボタンはやれへん。その代わりにネクタイくらいくれてやったってええやろ」と返ってきました。まったく涙が出るくらい嬉しい理由です。私は驚きと戸惑う気持ちを抑え、精一杯の笑顔をこしらえました、○○くん、ありがとう、ほんとうにありがとう、実際、「おおきにね」と言葉にして伝えました。○○くんは「まるで花が笑ったみたいや」と微笑し、頭をぐしぐしと撫でてくれました。私の笑顔はなんの花? 訊かないことを美学としました。
「なあなあ、○○くん」
「ああ、なんや?」
「ウチ、○○くんのこと、絶対に忘れへんさかいね?」
〇〇くんは「さやかは大げさやなぁ」と大らかに笑い、また頭をぐしぐしと撫でてくれました。
「困ったことがあったらいつでもなんでも言うてこい。迷惑がられるくらい力になったるさかい」
私は「おおきに」を続け、今度は思い切って、荷物を地面に置き、ぴょんと跳ねて彼の首に両腕を巻きつけました。周囲が「わっ」と沸きました。その様子を微笑ましく見たヒトもいるかもしれません。憎らしく見ているヒトもいるかもしれません。
○○くんは、ぎゅっと抱き締めてくれました。
耳元で囁いてくれました。
「幸せんなれや、さやか。誰よりも幸せになったれや」
「おおきにね、ほんま、おおきにね。〇〇くん、大好きやよ」
私は涙しながら、神様の――彼の首に回した手に、強く強く力を込めました。




