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-LOCUS-  作者: もい
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第一章 【顕現】 四






「№6……そうですか。貴方も、覚醒者アウェイカーだった訳ですね。……宗司・・


後ろにいる男に向けて、名前を呼ぶ。不意に背中を突く感覚が消えた。

その代わりにおどけた返事が返ってくる。


「なぁんだ、バレてたのか。まぁ騙し通せるなんて思ってなかったけどな。……いつ気付いた?」


改めて後ろの宗司と向き合う。両手を見れば、先程突き付けられていたものーーー二振りのコンバットナイフが握られていた。

その色は、怜奈や圭と同じ色ーーー銀。

宗司はそれを手の内で回転させると、消した。自分のにしまったのだろう。


「そうですね……最初の声を聞いた時にほぼ宗司だと思っていましたよ。話している内に確信に変わりました。宗司の声はわりと特徴的ですからね。認識するのに時間はかかりませんでした」


「成程な。流石、圭。頭いいぜ……それより、怜奈さんの話、断ったんだろう? 何故だ?」


話を聞いていたのか、先程あった事を聞いて来る。長年付き合いのある宗司ならば、圭が断った理由も分かりそうなものなのだが。


「聞かなくても分かっているでしょう? 僕は優希たちを守らなければなりません。赤の他人を守っている暇など無いのですよ。……それより、神崎女史は覚醒者アウェイカーとしてM.A.T.に付くなら学校をやめる必要がある、と言っていたのですが、何故貴方はやめて無いのですか?」


宗司が覚醒者アウェイカーだと知らされて思い付いた疑問。もし本当に学校をやめなければならないと言うのならば宗司が在籍している理由が分からない。

宗司は面倒臭そうに頭を掻きながら口を開いた。


「……あー、まぁ、担当とかな、その辺の関係かな。圭は前々からM.A.T.からマークされててな。その監視と護衛その他が任務だったんだよ。年も一緒、幼馴染みだしって事で。まぁ、こうして圭も覚醒者アウェイカーになった事だし、俺が学校にいる意味はもう無いんだけどな」


「……と言うことは学校をやめるのですか? この時期に不自然でしょう」


「まぁ、お前がこっちに付くかどうかで俺の今後も決まるな?」


俺がどうなるかはお前に掛ってるーーーそう言われているようだ。

しかし、現状どうしたらいいのかさっぱり分からない。


「すぐに決めろ、とは言わねぇよ。辞令が出るにしても時間がかかる。とりあえず帰ろうぜ?」


振り向いた顔は、№6ではなく、幼馴染みの宗司だった。

たったそれだけなのに何故か圭は安堵していた。


「……そうですね、帰りましょうか」






○○○






「ただいま」


宗司の計らいで、家まで送ってきてもらい、無事に帰ることが出来た。

乗って来たのはいわゆるヤクザカー(黒塗りベンツ、フルスモーク防弾仕様)である。


「おかえりお兄ちゃん。遅かったね……って、それどうしたの!?」


優希は圭の顔や腕に巻かれた包帯を見て悲鳴を上げた。

酷い傷ではないとは言え、包帯の上からでは傷の程度は分からない。優希が過剰に心配するのも頷ける。実際包帯を巻くほどの怪我ではないのに、大袈裟に処置されてしまっていた。


「いえ、大した怪我ではありませんよ。校長室に向かう途中で、何故呼び出されたのか考えていたら、ついコロリと。見た目ほど酷い傷ではないんです」


「そ、それならいいんだけど……あー! そう言えば何で呼び出されたの? 聞いてなかったよね?」


オタマを持ったまま目を輝かせて近付いてくる優希。ここで拒否したら、あのオタマが武器に早変わり、なんて事になりかねない気がする。

しかし、事を正直に話すわけにはいかない。

結論としてはーーー嘘。


「少々面倒事でしてね。僕がやったわけでは勿論無いんですけれど、旧校舎で器物損壊があったようです。それで何故か僕の名前が上がりまして。それの否定とその時のアリバイ証明、あと犯人の絞りこみですかね」


「ふーん……お兄ちゃんがなにかやったわけじゃないんだ?」


「僕がそんな大それた事を出来るとでも?」


心外そうに言ってみた。

嘘もここまで来ると真実にすり変わる。いや、むしろすり変える。

後で学校に手を回して事実を造る。優希ならば調べる事はしないと思うが、一応。

友人関係でなにか起こるかもしれない。故に、手を打っておくに越したことはない。


「まぁ、お兄ちゃんだからなにもしてないって言うのが妥当な気がするよ……あ、もうちょっとでご飯になるからね」


「とっくに食べてしまっていたと思っていたのですが……まだでしたか」


「お兄ちゃんが一緒に帰れないって事は遅くなるって事でしょ? だから少しご飯遅めにしたんだ」


優希の優しさが心に染みる。いい妹を持ったものだ。

もうどこに出しても恥ずかしくない、いや、自慢の妹だと胸を張って言える。

どこかに出す気は更々無いのだが。


「ありがとうございます。僕は部屋にいますから、出来たら呼んでください」


「わかったー」


優希は返事を返しながら台所へと消えて行く。

圭は鞄を肩に掛け直して、二階にある自分の部屋へと向かう。

二階には四部屋あり、階段を上がって左の一番奥が圭の部屋になる。


「ふぅ……」


鞄を適当に投げ捨て、自身はベッドにダイブ。

適度に柔らかいベッドにズブズブとめり込む。このまま沈んでしまいそうだ。


覚醒者アウェイカー、ですか」


自分の手に宿った力。

自分が覚醒者アウェイカーになるまでは分からなかった事が、覚醒者アウェイカーになったことで頭に流れ込んできた。

手にした力は、黒影を殺す為だけのものではない。

人は勿論、超能力や魔法を破壊する事だって可能だし、聖遺物を破壊する事だってできる。

やろうと思えば神殺しだって出来る。


つまり、万物を破壊できる異能。

それが全てで10人。

減ることこそあれど、増えることはない。減ったとしても後で循環する。

絶対数は変わることがない。


「この責から逃れるためには死ぬしかない。死にたくなければ黒影を殺せ、……そういう事なんですよ、ね。守るためとは言え、嫌な力です」


ふと、鞄の中から振動音が聞こえてきた。どうやら携帯に着信したようだ。

圭のは鞄を探って音の発信源を探す。

ディスプレイに表示された名前は、日頃見慣れた名前ーーー片瀬宗司。


「宗司からメール……珍しいですね。大方さっきの事でしょうけど……」


暗証番号を入力、メールボックスを開く。


『大きな力には責任が伴う。もう分かっていると思うが、お前が取らなきゃ行けない道は二者択一。

それも最悪の。

俺も悩んだよ。でもな、俺の力は目の前だけじゃなくて、もっと沢山の人を救えるって事を教えられた。

悩め。そして決めろ。

お前が取る道はどっちなのか。

お前が手に入れた力を何のために使うのか』


「……わかってますよ、そんなこと。どうしたらいいのか、どうしなきゃいけないのか。それさえも……全部、本当は分かっているんです」


頭の中では理解していても本能が否定している。

死にたくない。優希たちを守らなければならない。しかし、自分が組織に加わらなければ、他の人間が死ぬ。

力を手にしたのならば万人を守る覚悟を。

覚悟が無いのならば力を捨てるために死を。

残酷な二者択一。


そして矛盾。


力を手にしたのは優希たちを守るため。

しかしその力は万人を守らなければならない。

捨てるのならば守るという責も捨てられる。

しかしそれでは優希たちを守れない。


ぐるぐると頭の中で回る自問自答。


「父さん……僕はどうしたらいいのでしょうか」


亡き父に語り掛けるが、答えなど帰ってくるはずもなく。ただ声が霧散して消え去るだけ。


「僕の力は守るためのもの……そうですよね、父さん」


両手の斜線がうずく。


不意に、存在を感じた。


「まさかーーー黒影?」


感覚を信じるなら、位置は相当近い。

ここは住宅街だ。この時間帯なら外に人がいてもおかしくないしーーー黒影が現れてもおかしくない。


ーーー行かなければ。


ベッドから跳ね起きて階段を掛け降りる。


「優希! 宗司の所に行ってきますので先に食べててください!」


「ちょっ、お兄ちゃん!?」


優希の慌てる声も背中で流して、外に出る。


「あっちですね」


感覚の告げる方に走る。そして、悲鳴。


必死で悲鳴のする方に走る。

普段運動もしないのに全力で走った圭の喉と肺はすでに限界。

それでもなんとか、大事に至る前に現場にたどり着いた。

駆け付けた先に居たのは、学生と思われる女の子と、蛇の様な形態の黒影。


「そこまでです! こっちに来なさい!」


怒声を放つが蛇は女の子から離れようとしない。

動揺する素振りさえも見ることができない。


「くそっ!」


あの力を、もう一度ーーー


胸の前で両手を重ね合わせる。両手の斜線が光った。


辺りを包むほどの光。それは徐々に収まっていきーーー両手に収束する。

完全に光が収まった時、両手にはあの、銀の銃が握られていた。


「離れなさい。さもなくばこの銃が貴方を貫きます」


両手に握った銃を蛇に向けながら歩み寄る。しかし、蛇はまだ離れようとしない。


(不味いですね……この状況で撃てば女の子に当たってしまう……)


蛇はそれが分かっていて離れようとしないのか。だとすれば、相当危険な状況だ。

予想以上にこの黒影の頭はいいらしい。

本物の動物と勘違いしていた。こいつらは化け物ーーー人を襲うモンスターなのだ。


(一体どうすれば……)


その時、背後から聞こえてきた声で思考は途切れた。


「俺に任せな。お前じゃ不向きだろ」


「宗司……!」


背後に立っていたのは宗司だった。さっきまで顔を合わせていた幼馴染み《・・・・》の顔ではない。

あの顔は、あのーーー№6、片瀬宗司の顔だ。

宗司は、手のひらでコンバットナイフを回転させながら蛇に近付いていく。その背中は、絶対的な自信に溢れていた。


なんの根拠も無いが、宗司ならこの状況を打開できるーーーそう思った。


そしてそれは、確信に変わる。











「……さぁて、この蛇は楽しませてくれるのかな?」






宗司が見せた獰猛な笑みによって。





お待たせしました。

インフルも治り、これから頑張ります。



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