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残したい物語  作者: min
5/13

1-2.遭難者 (2)


再び、目の前で赤色の光が揺らめいていた。


パチパチと何かがはぜる音。


ゆっくり瞼を開くと、目の前でやっぱり炎が揺らめいていた。

でも松明の灯りより大きい。

頬に火の温かさを感じる。


2、3度瞬きをし、ああ、夢を見たんだ、と気が付いた。


しだいに頭がはっきりしてきて、自分が後ろ手に縛られていると気づいた。

同時に両足も縛られていた。

頭から、手持だった黒い外套で包まれ、そのまま地面に横向きに寝かされているようだ。

頬に地面の砂がついてチクチクする。


息を殺して、そのままの姿勢を保つ。

焚火の音のほかには何も聞こえない。

瞳だけ動かして、見える範囲で周囲を見渡すと

焚火の向こう側に、自分が乗っていたサンドホーンのサンと、サンより2回りくらい大きいサンドホーンが、一緒に座って目を閉じていfた。


ああ、そういえば、最後にサンとオアシスに辿りつけたんだっけ‥‥

頬に、砂の地面の冷たさを感じ、ぼんやり記憶を呼び起こす。


サンがくつろいで寝ているところを見ると、真夜中近いのだろう。

一緒にいる大きいサンドホーンも1匹ということは、私を縛り上げたものは…‥1人か2人


野党か人買いの仲間でないといいな、などと考えた。


今まで幾度となくこのような目にあってきた。

靴のかかとに小さい切っ先を仕込んである。まずはそれで自由なろう。


さらに周辺の様子に気を配ってみたが、とりあえず近くに人の気配は感じられなかった。


ならば近くに人がいないうちに縄を断ち切ってしまおう、となるべく音を立てないように、外套のなかでそろそろとひざを引き寄せた。


と、


「目が覚めたか」


突然、背中側・上方から声が降ってきた。


背後で、高いところから飛び降りてきたような音がして、その足音が近づいてくる。


気配を見逃した、きっと降りてきた者は木の上にいたのだろう。

寝ているふりをしてやり過ごそうかと、頭をよぎったが、木の上から、外套の中のわずかな身動きで、目覚めを悟った人物だ‥‥正直ごまかせないだろう。


2頭のサンドホーンが「グルル」と低い声をだし、ちょっとだけ目を覚まし、ちらっと私の背後に首を傾けたがすぐまた目を閉じておとなしくなった。


サンも警戒心を持っていない、ということは、この人物はそれほど敵意がない……?


砂を蹴る足音がすぐ後ろまで来たと思ったら、首根っこをつかまれて座らせられる。

危うく声をあげそうになったが、奥歯をかみしめ耐えた。


背中に樹の幹らしきものがあたる。寄りかかれるような形で座らせられたらしい。



近寄ってきた人物は、私の真ん前にゆっくり回り込む。

私の目の前でしゃがみこむと、私の顔を隠していたフードをそっとめくった。


と同時に私も相手の顔を見た。


まだ少年といった風の、若い男だ。

サンドベージュの肌に、宙色の瞳、切れ長の目にまつげが濃い影を落としている。

強い光をまとう意志の強そうな目で、まるで私を見通しているかのように、正面から見据えられた。

おそらく蛮族などという輩ではないと、直感で分かる高貴で知的な雰囲気があった。


耳たぶのあたりに、瞳と同じ色の耳飾りが揺れていた。

日に焼けてきれいな小麦色の腕や胸元には、装飾品が多数かかっている。


男は黒い大きなマントをまとい、頭に薄手の、暗褐色のストールをゆったりかけて、肩の方へ流していた。ストールの裾には美しい細かい刺繍がほどこされていた。

そこから除いている髪はみごとな金色で、肩のあたりで緩やかに結ばれている。額に手の込んだ刺繍の額当てをつけ、髪留めのひもにも小さな青い輝石がついている。


見た目の若さに反して、かなり身分の高い人物だ、と値踏みする。



「とりあえず水を飲め」と、口元に水の入った革袋をあてがわれた。

正直口の中が乾いて、張り付いていたのでありがたく、あっという間に飲み干した。


「ふっ」


飲み干して一息つくと、その男は自分からやや離れて、斜め右側、先ほど目にした焚火の近くに移動した。背中に長銃を担いでいるのが見て取れた。


周囲を見回すと、やはりここは水際――オアシスの中のようだ。


たどり着いたのは、夢ではなかったんだ‥‥

水を前にして倒れこんでしまった記憶がある。


男は、焚火の陰から小鍋を取り出し焚火で温めだした。

しばらくして、鉄製のカップにそそぐと私の前にもってきた。


「食えるか? 食えるようならゆっくり食べろ」


いったんカップを地面に置くと、手首を縛っている縄を解いて、匙をにぎらせてくれた。


男は、縄を自らの手の甲に巻き付けると、再び焚火の向こう側、私の正面になるように座った。長銃のストラップには手をかけたままだ。


渡されたカップには白濁したスープが入っていた。

カップの取っ手を持とうとしたが、指先が固まっていてうまくつかめなかった。

抱えるようにして引き寄せ、匙でかき混ぜると、米かイモの切ったものがたくさん入っていた。

匙ですくって、一口食べると、


…‥おいしぃ‥‥!


白濁したスープは、ほんのり甘い。煮込まれた具材は舌の上で柔らかくつぶれた。

砂漠の夜は冷える。長旅で疲れ冷え切った体は固まって、姿勢を変えるにもギシギシ音がするようだった。


そろそろと食べ進んでいると、


「ふっ‥」 男がかすかに笑った。


男を見つめると、男は、いったん緩んだ口元をすぐに引き締めて真顔になった。

ただ、さきほどよりまなざしが柔らかくなっていた。


「…‥お前、水の中で気を失ったんだ。覚えているか?」


小さくうなづき返した。


辿りついたときは、ほとんど死にそうだった。脱水症状と空腹で餓死寸前だった。

強い日差しで頭痛がひどく、覚えている景色も飛び飛びだ。


「その痩せ具合じゃ、この辺の部落でなく‥‥そうとう遠くから砂漠を渡って来たのか?」


「………」


目の前の男は、水や食べ物もくれたし、気遣いもある。

とりあえず友好的のようだが、まだ素性もしれないこの男にどこまで、どう話せるものなのか、自分でもわからず黙り込んでしまった。


「…‥まぁ追々聞かせてもらう。食ったら休め」


それだけを言うと、男は片膝を立て、長銃を抱き込むように持ち替えて目をつむった。

ミークの手はそのまま、縛られることは無かった。


「おれがいうのもなんだけど…‥手、縛らなくていいのか?」


とおずおずつぶやくと、男は片眼を開けて、


「気にせずゆっくり食え。今のところ俺は遭難者を保護しただけだ。それに、もしお前が不穏な動きをすれば、すぐわかる。」


と言って再び目をつむった。



さっきの木の上からの登場をを思い出し、「そのようですね」と納得する。


そして熱々のスープを時間をかけて腹に入れ、焚火の火に照らされて、体の隅々まで温かさが広がっていった。

食べ終わると再び砂地に体を横たえ、ミークもまたおとなしく目を閉じた。


取りあえず、次の道標(イメージ)、あのオアシスへは辿りついたんだ……。

まだ安心はできないものの、小さな達成感があった。


あとはなんとか、最後の目的地―暗褐色の城壁―へたどり着くだけ。

それだけなんだ。


どうぞ神様、力をお貸しください、ミークはそっと祈った。


砂漠の空は、 目もくらむような無数の星が輝いていた。



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