獲物
電車の中、俺は今日もターゲットを探す。
なるべくおとなしそうな女がいい。
たとえ気付かれても、声を上げないような女が……。
――いた。
上品そうなワンピースを着て気の弱そうな顔をした三つ編みの女の後ろに、俺は立った。
女は吊革に掴まっている。
俺は、左手で吊革がぶら下がっている金属の棒に掴まり、右手でスマホを持って、ネットニュースを読んでいる振りをし始めた。
そうして、女の尻に、俺の俺をそっと触れさせる。
ポイントは、いきなり強く押しつけないことだ。
女に気付かれないように、あるいはもし気付かれたとしても、勘違いかもしれないと思われるくらいの力加減が大事なのだ。
柔らかいがプリッとした弾力もある感触が心地好く、少し硬くなるのを感じる。
同時に、流し見していてちゃんと読んでいなかったネットニュースの記事の一つに、目が引きつけられた。
「ラブホテルで、局部を切り取られた男の死体が発見」
「男には性犯罪の前科が」
うわ、怖……。
俺は思わず身震いした。
その瞬間、線路がカーブした場所で電車が揺れ、俺は女の方へ少し倒れてしまった。
女の身体がピクッと反応する。
気付かれたか……!?
しかし、女は特に声を上げるでもない。
何かを耐えるようにやや俯いて、微かに震えているようにも見える。
俺は少し大胆になって、腰をゆっくりと上下に動かしてみた。
だがやはり女は黙っている。
ポシェットと言うには少し大きめのショルダーバッグの紐をぎゅっと握りしめ、何かに耐えているようだ。
――いいぞ。
興奮が高まり、勃ってきたのが分かる。
最近は生意気な女が増えた。
「何すんのよ!?」
などとキーキー騒いだり、こっちの顔写真を撮ろうとしてきたりするのだ。
その点、今日の女は優秀だ。
逃げるように少し腰を横にひねったりするところが、むしろ俺の嗜虐心を煽る。
――この瞬間が堪らない。
それから電車を降りるまで、俺は女の尻や太ももの感触を楽しんだ。
電車を降り、帰り道をしばらく歩いたところで、後ろから声をかけられた。
「あの……。あの、すみません」
振り返ると、知り合いではない女が立っていた。
少し考え、思い出す。
先程の、電車の女だ。
――俺の後をつけてきたのか? 金でも要求するつもりか?
俺はとても嫌な気持ちになった。
だが、
「すみません、あの、あなたにお願いがあるんです」
と言う女の様子を見れば、どうやらそうではないようだ。
少しだけ話を聞く気になった。
「何だ?」
「あの……、一度だけでいいんです。私と……寝てくれませんか?」
「は?」
――何だ? 欲求不満か?
俺が触っている間、女は嫌がっているように見えたが、実は密かに喜んでいたということか?
興醒めだ。
俺は深く溜め息をついた。
「あの、うち、色々厳しくて……。私、その……まだ処女なんです。でも友達はみんな彼氏がいるし、私だけ話に入れないことがあって。だから、その……そういうことも、一回は経験してみたいっていうか……」
「俺には関係ない」
「え?」
女は呆然とした。
断られるとは夢にも思っていなかったようだ。
舐めてもらっては困る。
俺は誰かの思い通りに動くような男ではない。
「あ……、そう……ですか……。……じゃあ、他の人を探してみます……」
女は肩を落として、俺に背を向けた。
――だが、あの尻は悪くなかったな……。
「待て」
俺は女を呼び止めた。
先日、妻は娘を連れて実家へ帰ってしまった。
家に帰って一人で過ごすのも飽きてきたところだ。
軽く遊んでやってもいいだろう。
「来いよ。少しだけなら付き合ってやる」
「あの、ゴムは付けてもらえますか?」
寝室の隅にバッグを置いた女が、こちらに背を向けてバッグを漁りながら言った。
「はあ? んなもん着けたら気持ち良さが減るだろ」
俺は手っ取り早く女のスカートをめくり、ストッキングと下着をまとめて引き下ろした。
後ろから女を抱きしめ、服の上から女の胸を揉む……ブラジャーの感触が邪魔だ。
「あ……、嫌……やめ……」
女が身をよじる。
もっと優しくしてもらえるとでも思っていたのか? 馬鹿が。
「こ、子供ができたらどうするの!? 責任取って結婚でもしてくれるわけ!?」
キャンキャン喚く女は好きじゃない。
「そんなヘマはしない。中に出さなきゃいいんだろ」
服に手を入れ、ブラのホックを外す。
「ちょ、ちょっと……! じゃあ、せめてあなたもズボンを脱いでください。私だけ脱がされるの、恥ずかしい」
「はあ?」
妙なところを気にするんだな、とは思ったが、元々脱ぐつもりではあったので、わざとゆっくり脱いでやった。
顔を上げると、女がこちらを向いていた。
顔が近い。
キスをしてやろうとした時、下半身に違和感があった。
慌てて見ると、女がゴム手袋をした左手で俺のを握っている。
――何だ? ゴムのことを何か勘違いでもしてるのか?
そう思った次の瞬間、女は左手にギュッと力を入れてきた。
「いっ……てえ! 何するんだ!」
俺は女の顔を睨んだ。
女は俺を見返し、フッと鼻で笑った。
直後、腹が爆発したかと思うような激痛が走った。
「……!?」
声も出せない激痛のなか、俺はじっとしていられなくて転げながらのたうち回る。
ジョボジョボと水の流れる音がして、赤い液体が辺りにどんどん広がっていった。
――一体何が起きたんだ?
暗くなっていく視界の中、女が無表情に俺を見下ろしていた。
その右手には、いかにも重そうな黒い大鋏があった。
そして左手に握られていたのは、俺の…………
ちょっと触るくらいなら許されるなどと思っている男の局部など、全て潰れてしまえば良い。(個人の感想です)