【第1話】楽しい(?)夜デート
「なんでエド先輩となんですか…」
アリサ一等兵はまだぶつぶつ言っている。夜間警邏の班決めがいまだに不服のようだ。
「そもそも18の乙女に徹夜させようってのが気に入りません」
「いやいや、さすがに軍属でその文句は無理があるだろ」
「わかってます。冗談ですよ」
冗談かい!ぶつぶついう割に冗談を言えるくらいには信頼があるらしい。
「えっ18歳で一等兵?」
「そうです。」
「入隊は?」
「16です。」
2年で1階級昇進。はっええ…。
そもそも入隊が早えよ。口減らしに軍に売られたクチだろうか。
まあ、戦争孤児で物心ついたことから軍の施設にいた俺が言えたことではないな。
「私優秀なんです。28歳でようやく伍長の先輩と違って」アリサ一等兵がふふんと胸を張る。Cだな。いや暗くてあんま見えねえけど。
ちなみに俺の方は若くてかわいいニューホープとの夜デートに胸が踊るかというと、そうでもない。
いや、これが首都ハインケルのおしゃれな通りなら大歓迎だが、今は戦地。
我々ルーブル帝国陸軍第4師団は隣国ノイマン共和国へ進軍中である。
それも、今夜の駐屯地でワンチャン接敵する箇所まで進んできた。
つまり、ぺちゃくちゃおしゃべりなんて論外で、敵さんに会う前にあったかいテントへ帰りたいのだ。
「先輩、私が階級追い越しても、任務外なら敬語は許してあげますよ」
なんかまだ言ってんだけど。
「めちゃうれしい申し出だけどそろそろ黙ってろ。さっさと帰ってタバコが吸いてえ」
「先輩、いつもタバコくさい」
気を付けてるんだけどな。
それ以上は会話もなく、もくもくと警邏ルートを回る。
現在我が軍は森の中を進軍中で、森の開けた地に駐屯している。夜の森での警邏では遠くへ行くことはできない。体力の消耗は激しいが、距離としては長くない。
夜間の哨戒など異常なしが何よりの成果なのだ。仮に敵軍が近くにいても、夜間に進軍などしないのだから。
哨戒、斥候の類は、帰ってこないことで異常を知らせることも多い。くそ!絶対生きてハインケルに帰ってやるからな!!
「エド先輩、あれ」だというのに、優秀な後輩が小さく声をあげた。「なんか変じゃないですか?」
アリサの指さす前方は一見なにもない。ただの森だ。しかし近づいてみると、明らかにおかしい。
岩や倒木により一定のラインより向こうに進めず、左前方に進路を誘導されるように感じる。
「たしかに妙だな。数名なら超えて行けなくもないが、軍であれば左に進まざるをえない」
「これがこの先も続いてるとすると、怪しくないですか」
この岩や木々が設置されたものだとすれば、これはカモフラージュされた敵陣になる。
「現在地はどのあたりだ」
「駐屯地から南へ1キロです」
ここはすでに敵地だが、未開拓の森であるはずだ。その森に敵陣地の設営が済んでいるとしたら。
「ヤバい。帝国軍の進路が読まれているかの「ドドドドオオォォォォオオン」
俺のセリフは北からの爆音にかき消された。
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