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生徒会長はご褒美を所望す!

作者: 味噌漬け

「これお願いね!」


「はい!わかりました会長!」


「副会長、これチェックお願いします。」


「ああ。わかった。」


ここは私立万福学園…。その学園のとある室内にて複数の男女が書類に必死に向き合っていた。

しばらくすると1人の生徒が解放されたかのように息を吐き、それを追うかのように全員がペンや紙を置いた。


「よし!これで終わり!みんなお疲れ様!!」


一人の凛々しい見た目をした女性が手を叩く。

彼女の名前は吉沢恵希(よしざわけいき)

成績優秀、身体能力抜群、スマートな体型に美しい栗色のショートカットの髪に加え凛々しい顔つきをした誰もが憧れる生徒会長である。彼女の見た目とその男らしい言動と姿勢は性別問わず心を掴み、告白の耐えないスーパー生徒会長として知られている。


「「はい!お疲れ様でした!」」


そんな彼女の言葉に他の委員も立ち上がり、外へ出ていく。

そのカリスマ性はこの揃った委員達の声で分かるだろう。

残された会長と副会長の2人もバッグに荷物を詰めていた。


「よし、それじゃあ帰ろうk…」


「おいコラ待て。恵希。」


恵希がいそいそと急ぎながら帰ろうとすると、後ろからそんな彼女を副会長が呼び止める。

彼の名は佐藤陽向(さとうひなた)。生徒会長たる恵希の幼なじみにして同級生。影から支える副会長である。156cmと高校生にしては小さい身長と華奢な体型、クリっとした眼は美しさすら感じられる所謂男の娘である。

そんな可愛らしい見た目からは想像もつかない荒々しい口調で恵希を呼び止めると、彼女は先程の凛々しい顔つきとは真逆の蒼白な顔でギギギとぎこちない動きをしながら振り向く。


「な…なんだい?今日の仕事は終わったよ。それなら帰っても良いよね…?」


恵希がそう言うと陽向は笑顔で話す。


「おう。確かに今日の仕事は終わったな…。今日の仕事はなぁ。」


陽向の荒々しい口調に恵希は怯えながら口を開く。


「あ~そういえば今日はピアノの習い事だったんだ!それじy…グッ!?」


下手な言い訳をしながら逃げようとした恵希の襟を陽向が掴んで止める。


「おいおいおい。まだ先週の溜まった仕事が残ってんだろ?おう…?忘れたわけじゃねぇよなぁ…?お前昨日、明日やるって言ってたよなぁ…?」


笑顔で口調を荒らげる陽向から恵希は逃げようとするものの、ガッチリと掴んでおり逃げられそうにない。


「(ぐっ…。陽向め…。私より小さいのになんて力…。このまま逃げようとすれば服が破れちゃう。)」


生徒会長として生徒の憧れたる恵希が上半身裸で下校してたら、別の意味で伝説になるだろう。

流石の恵希もそれは無理だ。

恵希は逃れようと必死で誤魔化そうとする。


「あはは。明日やるから大丈夫大丈夫…。陽向も細かいんだから。だから小さいまんm…ヒィ!?」


最後の余計な一言で陽向の地雷を踏み込んでしまう。


「オイ…。お前、今何言った?小さいとか言ってたよなぁ?」


その顔は笑顔であるもののこめかみに青筋が立っている。その眼も丸いクリっとした眼から冷たく鋭いものになっていた。


「ヒ…ヒェェ…。」


怯える恵希を前に陽向は怒りの感情のまま、怒鳴り散らす!


「誰が小さいだぁ!?オラァ!!さっきから下手な言い訳しやがってよぉ!!テメーがピアノ、十年くらい前に辞めてんの知ってんだよ!明日明日って言ってきて何日経ってんだと思ってんだクラァ!!言ったよな?小学生の時から宿題やら何やら溜め込むなって言ってるよな!?僕はお前の母親か何かかコノヤロー!!」


「ヒィィィィ!!ごめんなさいごめんなさい!!」


何時もの男らしい見た目からは想像もつかないほどの綺麗な土下座をかます。

その姿はまるで親が小学生に土下座しているような妙な光景だった。

幼なじみが土下座している姿に流石に溜飲が下がったのか、陽向は大きくため息を吐き、腕を組む。


「はぁ…。もう良いよ。後は僕がやっとくから…。今日はせっかくお前にご褒美用意してたのってのに…。これじゃ没収だな。」


「え!?」


陽向の言葉に最初は嬉しそうに顔を上げるも、ご褒美没収宣言に顔を青くする。

その後、彼女は慌てたように手を振りながら口を開いた。


「わかりましたわかりました!!やる…やりますから!ご褒美没収だけは辞めてぇ!!」


「分かったなら早く席につけ!!手伝ったるからさっさと終わらせるぞ!!」


陽向の言葉を聞き、恵希は大慌てで席につき大量の書類と向き合った。





書類と格闘してからしばらく…。何とか仕事を終えた恵希は頭から煙を出しながら、机に突っ伏していた。


「ほらよ。やれば出来んじゃねぇか。」


お疲れの恵希に陽向は紅茶を差し出す。

恵希は紅茶には目もくれず、死んだような声で口を開いた。


「ご褒美…ぷりーず…」


その目はもはや焦点が合っておらず、声にも覇気がない。

陽向はそんな恵希を慈しむような顔で見る。


「ああ。わかったよ。少し待ってな。」


陽向はそう言って生徒会室から出る。

少しすると陽太は長方形状の箱らしき物を持って戻ってきた。

生徒会室に入った彼は慣れた手つきで応接用の皿やフォークを取り出し、長方形状の物を綺麗にパレットナイフで切り分ける。

それはべっこう飴のように綺麗な焼き色をしており、シュワシュワと細かい気泡によって出来た生地はキメ細やかで美しい。

陽向はその皿を恵希の目の前に置いた。


「ほらよ。今日のご褒美…『ヨーグルトスフレケーキ』だ。」


皿が目に入ると恵希は目を輝かせ頭を上げる。

そして、本能のままにフォークでケーキを切り分け口の中に運んだ。


「……美味ひぃぃぃぃ!!」


まさに『甘露!!』と言うかのように叫ぶ。

恵希は紅茶を一旦、一すすりして再び食べた。


「(あぁ…。このシュワっと蒸発するかのようにほどける生地…。甘さ控えめで食べやすく、香るヨーグルトがクセになる…味わい…。最高ぉ。陽向が作るお菓子はホントに絶品だなぁ。)」


恵希は凛々しい顔つきから緩んだ恍惚とした表情で味わう。

このケーキはお菓子研究部の一員でもある陽向が作っており、ご褒美として恵希に振舞っている。

作ったお菓子は法律を犯さなければ自由なので、生徒会長にあげても問題ないのだ。

美味しそうにケーキを頬張る見ていた陽向は満足そうに頷いて解説する。


「ヨーグルトスフレケーキ…。少しやわめなメレンゲに卵黄や小麦粉、ヨーグルトを加えた生地を混ぜて湯煎焼きしたお菓子だ…。プレーンよりは甘すぎず、チーズよりもくどすぎないサッパリとした味わいが特徴だな…って聴いてないか。」


陽向の解説を尻目に恵希は嬉しそうな表情でケーキを味わう。

陽向はその光景を優しい目で見ていた。


「(全く…。お前が仕事をすれば、これくらい何時でも作るってんだ…。ホントに手がかかる幼なじみだぜ…。)」


最後の辛辣な言葉と裏腹に姉のようで妹にも感じられる幼なじみを見ながら、陽向は紅茶を一口飲んだ。

こんにちは味噌漬けです。唐突にお菓子テーマの小説が書きたくて、早速書いてみました。一応、短編ですがコメントなど次第で連載するかもです。続きが読みたい方はコメントや評価をくださると嬉しいです。

今回は読んでくださってありがとうございました。

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