転入生
都会の中にある、名門私立学校『聖翔学園高等部』。
幼稚園から大学まであるエスカレーター式のマンモス校で 人気がある。
8月の終わり、ちょうど夏休みが終わり二学期が始まろうとする時期に、1人の転入生が来た。
「こんな中途半端な時期に転入生なんて珍しいね。しかも、この学校の生徒殆どが幼稚園からの顔馴染みなのに」
「…」
教室の後ろの席に座っている1人の少女が隣の少女に話し掛けるが、考え事をしているのか返事がない。
「芹、どうしたの?」
「あ…ごめんね。何でだろうね」
芹と呼ばれた少女、香月芹は慌てて返事をした。
芹はおっとりした性格で、男女共に人気がある。
高校一年生で、誘われて入った弓道部のマネージャーをしている。
マネージャーと言っても、殆ど雑用ばかりなのだが…。
「もー、芹ってばまたボーッとしているんだから」
「ごめんね」
申し訳なさそうに眉を下げ謝ると頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
一緒に話をしている少女は、夏海玲佳。
初等部で同じクラスになってからの芹の親友だ。
明るく親しみやすく、思った事はすぐに言うサッパリとした性格の持ち主だ。
弓道部に所属しており、芹をマネージャーに誘ったのも玲佳である。
担任の先生が1人の生徒を連れ、教室に入ってきた。
「静かにしろー。今から転入生を紹介するぞ」
担任は黒板に転入生の名前を書き出した。
転入生は可愛い女の子で、男子も女子も騒ぎ出した。
髪は背中ぐらいの長さまであり、目も大きく顔も整っておりお淑やかそうな、誰が見ても『可愛い』と言える、そんな少女だった。
身長は高く、175cmは越えている。
一見、モデルみたいだ。
ー冬月…幼馴染の名前と一緒だ…ー
芹は思い出そうと首を傾げながら少女を見ていた。
「冬月、挨拶をしてくれるか」
少女は短く返事をすると、一歩踏み出して口を開いた。
「僕の名前は冬月柊です。よろしくお願いします」
柊は、片方の口角を上げながら歯を見せて笑った。
その言動にクラス全員驚いていた。
見た目はお淑やかそうな歯を見せて笑わなさそうな感じの少女が、一人称は『僕』で笑い方が男の子っぽい感じだったからだ。
「じゃあ、冬月の席は…香月の隣が空いているな。香月、手を挙げて」
「はい」
返事をしてから手を挙げた。
柊はその方向へ向かって歩いていく。
その様子をクラス全員見惚れるように見ていた。
そして席へと座り、芹にしか聞こえないぐらいの声で「久しぶりだね、芹」と言い、微笑んだ。
芹は驚きを隠せず、目を見開き柊を見た。
ー私…こんなモデルみたいな子と友達だったかな…?誰かと間違っているんじゃないかな。でもよく見ると目が幼馴染の男の子と似ている気がする。兄妹なのかな?ー
必死に柊の事を思い出そうとしていたが、中々思い出せない。
そんな芹の様子を見ていた柊は小さく笑い、四つに折られた紙を渡した。
開いてみるとそこには綺麗な字で『昼休み話したい事があるから、2人で話せる場所考えといてね』と書かれていた。
芹はそれを読み終えたあと柊を見ると、嬉しそうに微笑みながら見ていた。
ー話したい事ってなんだろう…。でも、私も聞きたいことがあるし屋上でいいかな?ー
もう一度手紙を読み直しながら考えていた。
ー幼馴染の兄妹だったとしても、他の人と勘違いだったとしても、こんなに可愛い女の子の友達が出来たら嬉しいなー
嬉しさと期待に胸を騒がせながら軽く微笑んだ。
この少女、冬月柊が本当は誰なのかも知らずに…。