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7.お別れ

「一緒に帰ろうか?」

「はい!」


 ユーレアスは騎士たちの片づけを手伝ってくれた。

 普段より早く終わって、一緒に城へ戻る。

 夕日が西の空に沈みかけていて、街並みがオレンジ色に彩られている。


「この国は綺麗だね」

「はい! 真っ白な建物が多くて、街の人たちも毎日お掃除頑張ってますから」

「それだけじゃないよ」

「えっ?」


 ユーレアスが見つめる先には、通り過ぎる街の人たちがいた。

 性別、年齢、種族の違う人たちが並んで歩いている。

 楽しそうに話しながら、時に手をつないで笑い合っている。

 その光景を見つめながら、彼はうっとりとした表情を見せる。


「住む人たちもキラキラしてる。魂が輝いている。幸福な毎日を送っている証拠だ」


 ユーレアスは人の魂が見える。

 どんな風に見えるのか、私にはわからない。

 でも、きっと綺麗なんだと思う。


 城に到着して、夕食の時間までお話を聞くことになった。

 場所は書斎を選んで移動中。

 廊下を歩いていると、別の道を家臣たちと進むお父様がいた。


「お父様」

「忙しそうだね」

「……いつもです」

「そっか」


 ユーレアスは何か言いたげな顔をして、何も言わなかった。

 私には何となくだけど、彼が言いたかったことがわかる。

 だから、私からは何も言わない。

 書斎に入ってからは、途中だった話の続きを聞いた。

 本でしか知らない冒険譚を、本人の口から聞く。

 これほどの贅沢が世界にあるだろうか。

 私は夢中になって聞き入っていた。

 その途中で、不意に話が逸れる。


「そういえば、君のお母さんは?」


 びくりと不自然な反応をしてしまう。

 突然の質問に、数秒間の沈黙が生まれる。


「ユイノアちゃん?」

「あ、えっと……お母さんは、身体が弱くて」


 私は慌てて説明した。

 焦っていた所為もあって言葉足らずだったと思う。

 それでも彼は理解してくれて、うんうんと頷いていた。


「そうか。じゃあ面会は出来そうにないね」

「はい。私とお父様、それから専属メイド以外は」

「あいさつだけしたかったけど、それじゃ仕方がないね」


 ユーレアスは残念そうに微笑む。

 私も、彼をお母様に会わせたいと思っていた。

 彼ならもしかして……


「ユーレアス様なら、お母様の病を治せますか?」

「う~ん、難しいかな。僕に出来るのは、魂を操ることだけだからね。肉体を癒す力はない」

「そう……ですか」


 勝手に期待して、ガッカリしてしまう。

 付け加えるなら、治癒に秀でた光の精霊で治せない時点で、魔法による治癒も見込めないと言っていた。

 元々身体が弱かったお母様は、いろんな病にかかりやすい。

 国の外から優秀なお医者様を呼んだこともあったけど、結局何も変わらなかった。

 不治の病とだけ、多くのお医者様が言う。

 原因不明で治療法はない。

 弱っていく身体を、私の力で抑え込んでいる。


「ごめんね。聞かれたくないことだったみたいだ」

「大丈夫です」


 時間は過ぎて夕食。

 私とユーレアス、それからお父様も一緒。

 珍しく仕事がひと段落ついたらしい。


「聞いたよ。ユイノアと遊んでくれているそうだね? ありがとう」

「いやいや、僕が好き勝手にしゃべっているだけなのでね」

「はっはは、そのお陰でユイノアも楽しそうだ。ユーレアス殿はいつまで滞在してくれるのかな?」


 お父様の質問に耳を傾ける。

 私も気になっていたことだから、食事の手を止める。

 ユーレアスは顎に手を当てながら言う。


「う~ん。実は明日の昼頃には出ようと思っているんだ」

「えっ」

「随分と急だな」


 思わず声に出てしまった。

 私は咄嗟に口を手でふさぐ。

 ユーレアスは私のほうを見ながら言う。


「ごめんね? 本当はもっとゆっくりしたいんだけど、事情が変わったんだ」

「事情?」

「うん。西の情勢が思った以上に良くない」

「西……魔王軍の侵攻か」


 ユーレアスはこくりと頷き続ける。


「口先だけですぐ治まると思ってたんだけどね。どうやら多少は力を持った主が誕生したらしい。かなり押され気味だ」

「それはまぁ私も聞いているが、君がわざわざ出向く必要が?」


 お父様はユーレアスを知らない。

 知っている私が、代わりに理由を口にしようと動く。

 それに気づいたユーレアスが、そっと目配せをしてきた。

 内緒だよ、と言われた気がする。


「僕は旅人であると同時に冒険者でもあるからね。召集を受けていたんだよ」

「そうなのか。残念だが仕方がないな」


 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。

 明日が来ればお別れ。

 だから、明日が来ないでほしいとさえ思ってしまう。

 時間が止まれば、ずっといてくれるのに。

 

 それでも時間は当たり前に経って、翌日の正午。

 日差しが強く城を照らす中、ユーレアスは荷物を持っている。

 私とお父様は、旅立つ彼を見送る側。

 別れたくないという本心が表情に出てしまう。


「そんな顏しないで。また遊びに来るから」

「本当?」

「おうとも! ファンの期待には応える主義だからね。って前にも言ったかな」


 ユーレアスが笑う。

 その笑顔は優しくて、愛おしい。


「絶対また来てくださいね!」

「うん」

「約束ですよ?」

「そうだね、約束するよ」


 そう言って、ユーレアスは私の頭を撫でてくれた。

 別れたくない気持ちは変わらない。

 だけど、また会えると約束してくれたから、それを信じることにした。

 こうして、彼は去っていく。

 私たちに背を向け、再会を約束して。


 そして――


 この三日後、お母様が亡くなった。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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