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50.永遠の愛を誓う

 七大絶景で最も難関とされる場所。

 それが空に浮かぶ大地ベネディクトゥスだ。

 言葉通り、土地そのものが空中を浮遊していて、高度を変えながら絶えず移動し続けている。

 何千年も昔に造られたそれは、現在の技術では再現不可能とされた技術の集合体。

 エレンの冒険記に記される前から逸話が残されており、見ることが出来たなら、その者に幸福が宿ると言われている。

 

 そして、浮かぶ大地の中心には、世界最古の教会がある。

 何千年経過しようと壊れることなく、色褪せることもない。

 一つの伝説として残されたのは――


 教会で誓い合った愛は永遠を約束される。


 というロマンチックなものだった。

 冒険記でもエレンが語っている。

 彼女には婚約者がいたそうだけど、病で先立たれてしまったそうだ。

 もしも願いが叶うなら、婚約者と一緒に教会を訪れたかったと、後悔の一文も書かれていた。

 そういう点でいえば、私たちは幸運だろう。

 だって……


「ユーレアス!」

「うん。ようやく見つけたね」


 私たちは二人で、その教会に立ち入ろうとしているのだから。


 あの戦いから半年。

 私たちは旅を続けて、あの教会を探していた。

 ようやく通じ合った想いを噛みしめ、永遠にするために。


「伝説に縋るのも、何だか格好悪い気がするけどね」

「そんなことないよ。せっかくだし、とっびっきり最高な場所がいいよ」

「はははっ、ノアも乙女だねぇ」

「当たり前。そうじゃなかったら、ユーレアスを好きになってないよ」


 そんな話をしながら、私たちはドラゴンに乗り空へ。

 空飛ぶ大地には特殊な仕掛けが施されていて、普通は肉眼でとらえられない。

 ユーレアスの霊視を頼りに探して、半年かけてようやく見つけられた。

 中へ降り立つと、目の前には噂の教会がある。

 天を舞う大地に構える教会は、とても綺麗で神秘的だった。

 地上で見かける教会とは、造りも雰囲気も全く異なる。

 それこそまるで、神様が住んでいるお城のようだと思った。


「ノア、これを」


 ユーレアスが手渡してきたのは純白のドレス。

 この日のために用意した特注品。

 私はそれを受け取って微笑む。


「待っててね」

「長引いちゃだめだよ? 僕が不安になるから」


 ユーレアスもそんな風に弱音を口にするようになった。

 私のこと信頼してくれている証拠だと思うと、すごく嬉しい。

 私が着替えている間に、彼も黒い服に着替える。

 同じく白が良いと思ったけど、やっぱり彼には黒が似合う。


 互いの準備が出来て、教会の祭壇へ向かう。

 そこではすでに、私たちを見守る人ではない彼らの姿があった。


「まったく、なんでワタシがこんな役を」

「良いじゃないか偶には」


 フクロウに憑依した冥王様が、祭壇の中央で待っていた。

 一番前の座席には、ウルとフィーがちょこんと座っている。


「まぁいいわ。さっそく始めましょう」

「うん」

「お願いします」


 今から始まるのは、私たちの結婚式。

 女王様が咳ばらいをする。


「おほん! 新郎ユーレアス、あなたはノアを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」

「はい、誓います」


 ユーレアスが微笑む。


「新婦ノア、あなたはユーレアスを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも……って長いわねこれ! もういいわ、全部誓うわね?」


 途中から面倒になったのか、女王様は途中をすっとばして尋ねてきた。

 これにはユーレアスも呆れ顔で笑う。


「やれやれ」

「はははっ、女王様らしいね」

「で、誓うのね?」

「もちろん! 誓います」

「はい聞いたわ! そんじゃさっさと誓いのキスしちゃって」


 なんというムードのなさ。

 こんな場所まで来たのに、本来の結婚式とは程遠い。

 でも、私たちらしいかもしれない。


「ねぇユーレアス、まだドレスの感想を聞いていないよ?」

「そうだったかい?」

「うん……どうかな?」

「綺麗だよ。世界で……いいや、過去も未来も含めて一番」


 とても嬉しい感想だ。

 大げさすぎると笑われてしまうかな?

 

「それに良かった」

「何が?」

「僕と繋がっても、君の魂は美しいままだったようだからね」


 ユーレアスの眼には、私の無色透明な魂が映っているのだろう。

 ほっとしている様子が見てとれる。


「安心したよ。僕の所為で、世界の宝が失われるところだった」

「大げさだな~ 私は別に、汚されても良かったのに」


 自分で口にして恥ずかしい。

 恥ずかしいけど事実だから、もっと恥ずかしい。

 そんな私を見つめながら、ユーレアスは優しく微笑んでくれた。

 私が大好きな笑顔だ。


「ノア、僕は君が大好きだ」

「私も、ユーレアスが大好きだよ」


 誓いの言葉を胸に、私たちは唇を重ね合う。

 永遠に続く未来でも、二人で歩いている幸福を想像して。


「さーて、これからどこに行こうか?」

「残ってる絶景は三つだね。また地図と睨めっこだ」

「うん。一先ずは全部見て回って、君の本を完成させようか」

「頑張って書くよ」


 私とユーレアスの物語。

 ずっと続く物語を、ハッピーエンドで締めくくる。

 それは本の中でしか出来ないことだ。

 だって、私たちの物語は、この先も永遠に続いてくのだから。


 国を失い、家族を失い、最愛の人を失い。

 色々なものをなくして、はぐれ者同士で始めた旅路。

 まだずっと、先へ続いていくだろう。

 

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