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48/50

48.二人一緒なら

 髪の色、肌の色、声の色。

 どの色も異なる存在に変わっても、一つだけ変わらないものがある。

 彼女の魂の色は、この世で唯一無色透明。

 例え何者になろうとも、僕はそれを忘れない。

 だから、初めて彼女を見た時、根拠のない確信があった。

 その確信にようやく今、根拠が得られたようだ。


「助けに来たよ、ユーレアス」

「ああ……やっぱり君は、君だったんだね。アイ――」

「違うよ」


 名を呼ぼうとした口が閉ざされる。

 彼女は穏やかに、確かな声で語りかけてくる。


「そうだけど、違うんだよ。私は私なの……だからユーレアス、私の名前を呼んでよ」


 そう言って見つめる瞳は、僕の心を見透かしている。

 何を縋っていたのだろう。

 魂が見えてしまうせいで、本当に大切なことを見損なっていたようだ。

 

「ノア」

「うん、私はノアだよ」


 魂が同じでも、今の彼女はノアだ。

 そのことを思い出させて……いいや、再認識させられた。

 そうだよ。

 助けに来てくれたのは、アイラじゃない。


「ありがとう」

「はっは! 感動の再会ってか!」


 シリスが魔法陣で砲撃を開始する。

 ノアが聖剣の力を行使し、光の結界で僕たちを守る。


「チッ、硬ぇ結界だなぁ」

「邪魔しないで」


 そう言って、ノアは僕と目を合わせる。

 彼女が何を言いたいのかは、何となくだけど想像がつく。


「ごめん、ノア」

「それは何に対する謝罪? 私を置いていったこと? それとも隠し事をしていたこと」

「全部かな」

「悪いと思ってるんだ」

「うん。珍しくね」


 僕は小さく笑う。

 そんな僕を見て、ノアは呆れた顔をしている。


「それにしても、どうやってここに? その聖剣も」

「ワタシが呼んだのよ」

「イル?」


 ノアの後ろから、フクロウに憑依したイルが姿を現した。

 なるほど、と理解する。

 彼女にはノアの保護を頼んでいたんだけど、それが裏目に出てしまったのか。

 それに聖剣のことも、彼女なら魂の記憶と力を呼び起こすことも出来る。

 リスクはあったはずだけど、どうやら乗り越えたようだね。


「ワタシは悪いと思っていないわよ。貴方の勝率を上げるために、彼女の力は必要不可欠でしょ?」

「だとしても、僕の想いを完全に無視しているよね」

「それはユーレアスも同じ」


 僕とイルの会話に、ノアが入ってくる。


「私の気持ちも、ずっと知らないフリをしていたよね」

「それは……ごめん。怖かったんだよ」

「だと思った。今の私ならわかるよ」

「ノア……」

「でも許さないから。これが全部終わったら、罰として私の言うことを聞いてもらうよ」

「はははっ、仰せのままに。それくらいの覚悟はしている」


 笑ってしまうよ。

 終わった後のことなんて、考える余裕もなくなっていたのに。

 彼女が来てから、普段通りに戻される。

 明日があるのが当たり前で、楽しい日常の一コマに。


「さーて、じゃあさっそく頑張りますか」

「そうだね。まずはあの怖い人を倒さないと」


 シリスの攻撃は結界に阻まれている。

 ただ、徐々に結界が削れ、攻撃が届きそうな勢いだ。


「あれは強いよ」

「大丈夫。だって私とユーレアスだから」

「はははっ、そうだね」


 懐かしい感覚が蘇る。

 恐怖と不安の中にありながら、常に希望が傍らにあるような安心感。

 

「行くよ! ユーレアス!」

「おうとも!」


 結界が破れる。

 その瞬間に合わせて、僕らは左右に飛び出した。


「はっは! ようやく来るかよ!」


 余裕のシリスに向けて、僕は大鎌を、ノアは聖剣を振り抜く。

 おそらく彼女は、過去の記憶と経験を魂から得ている。

 聖剣の力があれば、彼女でもシリスを倒すことは出来るだろう。


「やるなぁおじょーさん! まさかあんたが来るとは予想外だったぜ?」

「っ……」

「その魂やっぱり綺麗だなぁ~ めちゃめちゃにしてやりたいぜぇ」

「僕がさせないよ」


 二人の攻防に割って入る。


「先にお前だったなぁ!」


 シリスは強い。

 もはや揺るがない事実だ。

 今の彼には、僕一人では及ばないだろう。


「俺を魔王と一緒にすんじゃねぇよ! こちとらお前たちより死線は潜ってるんだぜ!」

「知っているさ」


 わかっている。

 かつての魔王より、シリスのほうが手強い。

 だけど、僕らも違う。


「フィー!」


 ノアが天を指さす。

 光の剣が生成され、雨のように降り注ぐ。


「チッ、うっとうしい雨だなぁ」

「ユーレアス!」

「任された!」


 そう。

 彼女はノアだ。

 辺境の王国に生まれ、光の精霊と契約した聖女。

 故に、光は彼女に味方する。


「聖剣よ、闇を祓い清めたまえ!」

「こんのっ!」

「残念だけど、これで終わりだよ」


 デスサイズ――


 文字通り魂のこもった斬撃は、淀んだ魂を斬り裂いた。


「くそがっ……」

「シリス、君は確かに強かった。僕より強いし、この世で一番かもしれない……でも」

「私たちのほうが強かったみたいだね」


 一人で足りないのなら二人。

 五年という僅かな旅路で、僕はそれを学んでいた。

 勝敗を分けたものがあるとすれば、力でも信念でもない。

 ただ彼がひとりで、僕らが二人だったということだ。


「はっは……これで――終われる」


 長く漂った魂は、暗い夜空と混ざって消えていった。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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