47.僕の生きる意味
強化されたデッドリードラゴンは、かつての魔王の使い魔と並ぶ。
念のため、ウルは退避させてある。
「これは一つでは足りないな」
グレートドラゴンの魂を使い魔に。
一つでは足りないから、三つを同時に顕現させる。
「はっは! 三つも持ってたのかよぉ!」
「これでも長生きだからね」
「そうかよぉ、ガッカリさせんなよなぁ!」
デッドリードラゴンが炎を放つ。
以前の威力とはけた違い。
魔王の力で強化されたブレスは、空気すら燃やし尽くす。
対する僕は、三体の使い魔で応戦。
同時にブレスを吐き、デッドリードラゴンのブレスを相殺する。
と言ってもギリギリだな。
気を抜けば押し切られてしまう。
「やれやれだ」
僕はドラゴンの背から跳びあがり、シリスへ攻撃を仕掛ける。
大鎌を構える僕を見て、ニヤリと強気な笑みを浮かべ、大剣で受ける。
肉体に魂を纏わせ浮遊し、空中で斬り結ぶ。
「はっは! やっぱ最高だよなぁこの力はよ!」
「それは同感だけど、一緒にしないでほしいなっ!」
斬り、弾き、押し付け合う。
攻撃の振れ幅が変化しているのが、刹那の戦いで理解できる。
シリスの後方には複数の魔法陣。
魔王の力を取り込んだことで、魔法も自在に操れるらしい。
「受けてみやがれ!」
僕は魂を複数呼び出し、冥界の炎を纏わせて撃ち出す。
魔法陣から放たれた攻撃と、冥界の炎がぶつかり合い、熱く火花を散らす。
「やるなぁお前、魂をいくつストックしてんだぁ?」
「たくさんさ。君より多いよ」
「ちがいねぇーな。俺にとって魂は食い物でしかねぇからよぉ!」
強い。
想像よりもはるかに強くなっている。
そして懐かしい。
自身の命に切っ先が触れている感覚だ。
過去にも未来にも、僕の命に届きうる存在は魔王だけだった。
その魔王を受け継いでしまった男が、こうして僕の前にいるのは運命だろう。
世界にとって最大の脅威となった彼を、僕らは倒さなければならない。
「アイラ、僕に力をかしておくれ」
取り込んでいた魂を大鎌に集める。
魂には力が宿る。
その力を借りて放つ一撃は、人の生涯ではたどり着けない領域に達する。
「いいねぇ~ こいよ!」
受けて立つと言わんばかりに、シリスが大剣に魔力を込めていく。
漆黒のエネルギーを纏い巨大化する大剣。
僕の大鎌も、青い炎を纏って大きくなる。
「――デスサイズ!」
「オラァ!」
大ぶりの一撃。
二つの力がぶつかり合う。
魂の力と魔王の力。
どちもら人知を超え、理解の先にある力だ。
この技はかつて、魔王すら傷つけた一撃。
僕の大鎌と、アイラの聖剣だけが、魔王を滅ぼすことができた。
シリスに対しても変わらない。
イルとも話して確信が持てた。
彼が生み出した魂のダミーは、作成に何百年の月日がかかる。
それも自身に近い魂を複数集め、融合させなくてはならないだろう。
今の彼の胸に揺らぐ魂は、確実に彼自身のものだ。
切り裂ければ、今度こそ終わる。
「うおっ!」
「ぐっ!」
が、そう簡単に終わってくれるなら、僕は覚悟を決めたりしない。
力は相殺され、互いに無傷で静まる。
「はぁ、はぁ……困るな」
「何がだよ? 頼みの大技が通じなかったことか? それとも戦いが長引きそうなことか?」
「どっちもかな」
「はっは、正直な野郎だぜ」
デスサイズで届かなかった。
魂のストックも無限じゃない。
魔王の力を手に入れた彼を相手に、長期戦になれば僕のほうが不利になる。
デッドリードラゴンは何とか抑え込んでいるけど、どこまでもつかわからないし。
「やれやれだ」
これでは本当に、お別れになってしまうかもしれない。
そんな弱気な考えで戦うなんて、アイラに怒られてしまうかな。
「何を笑っていやがる。楽しくないんじゃなかったのか?」
「無論楽しくないさ。この笑みは呆れているだけだよ」
自分自身の弱さにね。
「そうかよ。だったらそいつを最後にしてやる」
シリスの魔力が高まる。
これまで全力ではあったが、完全に力を掌握していたわけではなかったのか。
一気に膨れ上がった魔力で空間すらゆがむ。
連想させるのは、魔王の姿と声。
「っ――」
「耐えてみせろよ。元英雄」
黒きオーラが身を包む。
破壊と創造が同時に起こったような矛盾が全身を駆け抜ける。
これは理解できる力ではない。
故に、常識では太刀打ちできない。
「魂たちよ!」
僕を守ってくれ。
そう唱えて、全身全霊を込めた守りも、黒き力は呑み込んでしまう。
「ぐっ……」
「さすがのお前もここまでみてぇだな」
血反吐を吐きながら片膝をついている。
なるほど、確かに限界だ。
それでも、負けることだけはあってはならない。
「終わりじゃないさ。少なくともまだ、僕の魂は燃えているよ」
「はっは! 強がりはよせ。もう今のお前に――」
振り下ろされる大剣。
その一撃は速く鋭く、回避は間に合わない。
「これは躱せない」
「ユーレアス!」
一筋の光が流星のように走った。
黒く邪悪な剣は、白く聖なる剣によって弾かれる。
僕はその剣を、彼女の姿を知っている。
「なんだと!?」
シリスが距離をとる。
僕の前に立った彼女を睨む。
「どうして……ここに?」
「もちろん、助けに来たんだよ。ユーレアス」
彼女の笑顔が、思い出と重なる。
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