表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/50

45.一人ぼっち

 半日かけて宿屋に戻って、疲れからすぐに眠ってしまった。

 優しい歌が聞こえた気がする。

 これまで何度か見てきた夢の続きを、私は見せられていた。

 私だけど、私じゃない誰かが抱いた想い。

 ユーレアスと過ごした時間は淡く虚ろで、幻想のようだと思えてしまう。


 でも、目を開ければ現実に戻る。

 そこには彼がいて、優しい微笑みを見せてくれる。

 

 そう、思っていたんだ。


「どう……して……」


 机の上には書置きだけが残されていた。

 そこに書かれていたのはたった一文。


 全部終わらせてくるから、君は待っていておくれ――


 こんなことは初めてだ。

 自由奔放で勝手な人だということは知っている。

 それでも、五年間一緒に旅をしてきて、一度もなかったんだ。

 私を置いてどこかへ行ってしまうなんて。

 

「……探さなきゃ」

「当てもなくか?」


 不意に聞こえてきた女の人の声。

 私はその声を知っている。

 窓のほうに目を向けると、一羽のフクロウが止まっていた。

 瞳の色が独特で、呑み込まれそうなほど濃い。


「冥王……様?」

「いかにも。久しぶりね、ユイノア。今はノアだったかしら」


 冥界の女王イルカルラ。

 彼女が私の前に現れたことも、これが初めてだった。

 その時点で、簡単には解決しない問題があることを察する。

 だけど、私は黙っていられない。


「冥王様! ユーレアスはどこにいるんですか? 何があったんですか?」

「ちょっ、いきなりトップギアで話さないでくれるかしら? ちゃんと教えてあげるから落ち着きなさい」

「は、はい……すみません」

「まったくもう、彼のことになると人が変わるわね。まぁそれは彼も同じだけど」


 冥王様は呆れてため息を漏らす。

 ソワソワしている私に、彼女はゆっくりと説明を始める。


「先に言っておくけど、追うことはお勧めしないわ。彼が貴女を置いていった一番の理由は、貴女を危険にさらせたくないからよ」

「私を?」

「ええ。貴女も見たはずよ、二人の戦いを」


 私は冥王様から、シリスのことを教えられた。

 五年前に彼女から受けていたおつかいの内容が、これでハッキリした。

 そして今回の件も、シリスが関わっているらしい。


「あの日以降、ワタシが使い魔を駆使して世界中を探し回ったわ。そうしてやっと見つけたのよ」


 シリスは、ここから西へ向かった森の奥地にいる。

 なぜかそこから動こうとしない。

 使い魔で探りを入れようと近づくと、彼に察知され潰されてしまうから、何をしているのかは不明という。

 

「結論だけ先に言うとね。彼はシリスを倒すために森へ向かったわ」

「どうして一人で?」

「さっきも言ったわよ。貴女を危険にさらしたくないから、あとは……自分が死ぬかもしれない相手だからね」

「死ぬ……えっ? ユーレアスが?」


 死ぬかもしれない?

 それはおかしい。

 だって彼は、彼の身体は――


「そう、不死身よ。でも相手はソールイーターを持っているわ」


 ソールイーター。

 魂を斬り裂く力を持った武器。

 ユーレアスの持つ大鎌がそれに該当する。

 シリスは大昔に先々代の死神を殺し、魂と武器を奪いとっている。

 元々彼は、魂に触れる力を持っていた。

 つまり、この世でただ一人、シリスはユーレアスを殺せる。

 彼の持つ大剣は、ユーレアスの魂に届く。


「そんな……でもユーレアスなら負けない。彼より強い人なんて、この世にはいない」

「いいえ、今回の相手はわからないわ。何せ同じ力を持ち、彼より前の時代から生きている男よ。だから彼も、負ける可能性を考えていた。そうなったとき、貴女だけでも生き残れるようにと」


 これが最善の選択。

 彼は刺し違えてでも、シリスを倒すつもりだった。


「そんなの……嫌だよ。もし帰って来なかったら……」


 彼のいない世界で、私一人で生きていく?

 そんなの無理だ。

 きっと耐えられなくて、全部を投げ出す。

 でも、私は足手まといだから、助けに行っても邪魔になる。

 今の私に出来ることは、信じて待つことだけ。


「助けたい?」

「えっ……」


 自分の無力さを嘆いていた私に、冥王様が問いかけてきた。


「助けたいなら、ワタシが力を貸してあげるわよ」

「できるんですか?」

「ええ。彼には止められているけど。ワタシとしてもね? 彼に死なれると困るのよ。ただしリスクもあるわ。これをすれば貴女は――」

「やります!」

「ちょっ、早いわね」


 冥王様が呆れている。

 だけど、リスクなんて関係ないと思った。

 ユーレアスを助けられるなら、命も身体もかけられる。


「覚悟はあるのね?」

「はい」

「そう。ならこれ以上は聞かないわ。手を出しなさい」

「こうですか?」


 右手を差し出すと、フクロウが掌に乗る。


「貴女の魂はね? ずっと昔に彼と会っているの。貴女はもう、気づいているんじゃない?」


 夢で見せられた記憶。

 あれがそうだというのなら、私はうんと答える。


「転生のとき、魂の記憶はリセットされる。でもね? 完全に消えるわけじゃないの。魂の奥底には、転生前の記憶と力が眠っている。それを今から起こす」


 冥王様がいうには、転生前の記憶と力を呼び起こせば、ユーレアスと共に戦えるという。

 ただし、別の記憶を呼び起こせば、今の自分が壊れてしまうかもしれない。

 記憶と想いがぐちゃぐちゃになって、廃人のようになる可能性がある。


「それでも構わないのね?」

「はい。きっと大丈夫ですから」


 なぜだか確信があった。

 私なら大丈夫だと……想いは同じだから。


 待っていてユーレアス。

 今から行くよ。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ