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44.七色の竜氷

 夜の間に吹雪は強まり、朝になる頃には弱まってきた。

 一度吹雪くと長く続くという話だったが、絶対というわけではないらしい。


「吹雪が止んでるね」

「ノアの日頃の行いが良いお陰であろうな」

「おやおや? なぜ僕は含まれないのか疑問だね」


 私たちはウルの背に乗り、頂上へ向けて再出発した。

 吹雪が止んでいるのも一時的かもしれない。

 ユーレアスは今日中に到着したいみたいだから、ウルも昨日より速く走っている。


「ねぇユーレアス」

「何だい?」

「頂上にあるのは、氷で作られた竜なんだよね?」

「そうさ。千年以上かけて生まれた氷像。かつて生きた本物の竜が朽ちて、鎧のように纏っていた氷だけが残された。まさに大自然が生んだ彫刻だ」


 元のなったのはグレートドラゴン。

 彼がシリスとの戦いで見せた巨大なドラゴンと同じ。

 数種類のドラゴンの中で最も大きく、強大な力を持つとされる種類だ。

 でも、私が知りたいのはそこじゃない。


「他にも何かあるの?」

「そうなの? 僕は知らないけど」

「……そっか」


 まだ教えてくれないようだ。

 意図があるのか、はたまた天然なだけなのか。


「やけに急いでいるからさ。私の知らない何かがあるのかなぁ~って」

「あーそういうこと。なるほどね」


 ユーレアスは小さく微笑む。


「その感じだと、君は忘れているみたいだね」

「えっ?」


 忘れている?

 彼が隠しているのは、私が知っているはずのことなの?


「心配いらないさ。頂上についたら教えてあげる。それまでに思い出せたら、まぁ……その時はその時だね」


 私たちは頂上を目指して進む。

 その道中、私は彼の言う忘れていることを思い出そうと頑張った。

 雪山に来たことは、今まで一度もなかったと思う。

 自分とどんな関係があるのか想像したけど、結局はわからないままだった。

 そうして時間は過ぎ、雲の層を抜ける。

 雲の層を抜ければ、天候の変化に困る心配もない。


 午後二時頃。

 太陽が天辺にのぼる。

 私たちも、山の頂上へたどり着いていた。

 頂上は中心が抉られたようにくぼんでいる。

 そのくぼみの中に、七大絶景の一つが構えていた。


「さぁ、到着だよ」

「うん、あれが――」


 氷の竜像。

 翼を休め眠る巨大な竜がいる。

 長い年月をかけて生まれた芸術は、まるで生きている本物のドラゴンに思えた。

 エレナ・ウォーカーはこう記している。


 ドラゴンの肉体は消えゆくとも、その魂は永遠に残り続ける。

 存在の証明は、天に近き場所で生き続ける。


 まさにその通りだ。


「この地で翼を休め、天寿をまっとうした。死した後も肉体から魔力が漏れ出し、覆っていた氷を強化したようだね。その後、中身の肉体が朽ちても、正面の氷だけは消えなかった。肉体から得た魔力によって、氷は永遠に溶けない性質を獲得したんだ」

「そんなことができちゃうんだ」

「うん。ドラゴンっていうのは、いつの時代も僕らの想像を超えてくる存在だから」


 太陽の光が当たって、氷の表面がキラキラ光っている。

 そういえば、この氷像には変わった特性があるのだと、冒険記では記されていた。

 思い出そうとしていると、ユーレアスが私に言う。


「ノア、君は今日が何の日か覚えているかい?」

「えっ、今日?」

「うん。さっきは覚えていない様子だったけど、そろそろ思い出したかなと思ってね。いや、その様子じゃ思い出せていないか」


 確かに思い出せていない。

 ユーレアスはやれやれとジェスチャーしている。


「今日は君の誕生日だよ」

「あっ……」


 自分でも呆れてしまう。

 そうだ……そうだった。

 今日が私の生まれた日だった。

 旅をしていると、誕生日なんて思い出すときもないから。


「やれやれ。僕が覚えていて、当の本人が忘れているなんてね」

「はははっ……本当にね」

「まぁ良いさ。お陰でちょっとしたサプライズに近づけた」


 そう言って、ユーレアスは氷像へ近づく。

 軽く手を触れながら、氷像に込められた変わった特性について語る。


「冒険記に記されていた。この像には変わった特性がある。こうして魔力を流すと――」


 氷像は七色に輝き出す。


「うわぁー、綺麗」


 キラキラと光が反射して、七色に輝いている。

 まるで虹を纏っているようだ。

 

「ノア、誕生日おめでとう」


 彼はニコリと微笑んで続ける。


「これを君に見せたかった。誕生日は特別な日だから、特別な場所で言いたかったんだよ」

「ユーレアス……ありがとう」

「それからこっちがプレゼントだ」


 ユーレアスはポケットからアクセサリーを取り出した。


「ネックレス?」

「うん。その宝石も変わっていてね? 一日ごとに色が変わるんだよ」


 氷像と同じ七色。

 ネックレスに埋め込まれた宝石は、そういう性質を持っているらしい。

 とても貴重なものらしく、私に内緒でずっと探していたとか。


「ありがとう。大切にするよ」

「そうか。気に入ってくれると嬉しいよ」


 最高の一日。

 最高の誕生日プレゼントだ。

 特別な日を、特別な場所で、特別な人と過ごす。


「これからもよろしくね」

「おうとも」


 だから、思いもよらなかった。

 その日の夜。

 ユーレアスは私の前からいなくなった。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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