43.リクレスト山脈
ソラニンの街から山を見上げる。
大きな雲がかかっている時は、吹雪が起きているそうだ。
私たちが滞在してから五日間、山は吹雪が続いていた。
だけど今日は――
「雲が晴れているね」
「うん」
山の天辺まで見えそうだ。
街は雪も降っておらず、久しぶりの晴天。
民家では洗濯物を外に干したりと、普段より忙しそうに思える。
ユーレアスが言う。
「さっそく出発の準備しようか」
「そうだね」
滞在している間、私はお菓子作りを頑張っていた。
ユーレアスはというと、テトラのお母さんの手伝いをしたり、登山に向けて必要な物を揃えたりしていたそうだ。
彼のお陰で準備はほとんど終わっている。
寒さにも負けない素材で作られた服を着て、遭難した場合の備えもバッチリだ。
「さぁ英気も十分養ったし、早々に出発しようか」
「英気って、大げさだなぁ」
私たちは朝の七時に街を出発した。
山の天気はいつ変わるかわからない。
良いうちに、なるべく早く雲を超えてしまいたいとユーレアスは言っていた。
とはいっても、徒歩では頂上までかなりの時間がかかる。
そこで彼が用意したのは、雪山専用の乗り物――ではなく、青い炎を纏った狼のウルだった。
「ウル、行ける所までよろしく頼むよ」
「了解した。が、久方ぶりに呼び出されたと思えば……登山とは呆れたぞ」
「はっはっはっ、すまないね」
見ての通り、ユーレアスは悪いと思っていない様子。
ウルはさらに呆れてため息を漏らす。
彼の背に乗った私たちは、快適に山道を登っていく。
「何だかズルしてるみたいで気が引けるな」
「そうでもないさ。ちゃんと自分の力を活用して登っているわけだからね」
「大変なのは我だぞ」
「ごめんね、ウル」
「ノアが謝る必要はない。悪いのは主だ」
「おっと、ウルも最近は言うようになったね。成長しているようで嬉しいよ」
皮肉たっぷりのセリフは相変わらず。
ウルもわかっているから、一々相手にしていない。
この二人はいつもこうだ。
私と出会う前から、一緒に旅をしている間柄で、遠慮もなくなっているのだろう。
少し羨ましく思えるけど、口にはしない。
「快適快適。このペースだと、昼過ぎには頂上まで行けそうだね」
「そう簡単に行くと思えんな」
「ほうほう、何か根拠でもあるのかい? ウル」
「主の旅は、順調な時ほどしっぺ返しがあるからな」
いわゆるこれまでの経験という奴か。
確かに、私も思い返すとそういう場面は多かった気がする。
危険だから注意しろーっと思っている時は何も起こらなくて、絶対大丈夫が絶対じゃないんだ。
今回も……
「そういうパターンであったな」
「ウル、なぜ僕を見て言うんだ?」
さっきまで晴れていた空を、今は暗い雲が覆っている。
雪もチラついている。
まだ本格的に降ってきてはいないけど、そのうちに吹雪いてきそうだ。
「主よ、早めに避難することを勧める」
「そうだね。近くに洞窟とかないかな?」
「さてな。ないなら掘れば問題ない」
「確かに! ウルは良いことを言うね」
そう言って、ユーレアスは徐に炎を生み出す。
何をするつもりなのか、私はすぐに察してかがんだ。
「そーれぇ!」
爆発音が鳴り響く。
吹きあがった雪が周囲へ降り注ぐ中、ぽっかりと斜めに空いた穴が見える。
「よーし! 後は上手く加工して、吹雪に備えますか」
「ユーレアス……やるなら先に言ってほしかったな」
「ノアよ、主にはその辺りの気配りは無理だ」
ウルが言うのだから間違いなさそうだ。
私たちはユーレアスが掘った穴へ入り、その数分後に吹雪が襲う。
「本当に変わりやすいんだね。山の天気って」
「仕方ないさ。明日まで待って変化がなければ、最悪強行突破も考えないといけないかな」
「強行突破? 下山じゃ駄目なの?」
「うん。明日には登りたいんだ」
ユーレアスが穴の外を見つめてそう言った。
彼が危険を冒そうとするなんて珍しい。
やっぱり山頂には、私が知らない何かがあるのかもしれない。
とは言え、今日は吹雪も強まるばかりだ。
さすがに進めなさそうだと断念して、穴で夜を過ごすことに。
「ユーレアスが寝てる」
「主も睡眠はとるだろう」
「そうじゃなくて、普段は一番に眠ったりしないから」
ウルと一緒だからかな。
私と二人だけの時は、朝まで眠らないときもあるのに。
「信頼されているんだね、ウルは」
「ノアもであろう?」
「私はまだまだ足りないよ」
「そうでもない。主はノアと出会ってから、特に楽しそうだ」
「本当?」
「ああ。長年共に行動している我が言うのだ」
「そっかぁ……」
そういえば、ウルと二人で話すのも久しぶりだ。
フカフカの毛並みは相変わらず気持ち良い。
「主は手強いであろう?」
「うん、鈍感だから」
「だな。頑張ることだ」
「うん」
ウルは私の想いを知っている。
時々こうして相談にのってもらっていたことを思い出す。
ユーレアスと似ている所為かな。
彼にもたれ掛かっていると、すごく安心するんだ。
「ありがとう、ウル」
「礼を言われることはしていない」
そうしていつの間にか、私も眠りについていた。
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