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41.丸分かりですよ

 魔道車の旅は六時間。

 道中のトラブルを挟みながら、おおむね時間通りに到着する。

 雪化粧で覆われた街ソラニン。

 その歴史ある街並みは、多くの登山家や旅人が愛したと言われている。

 という話を、テトラから聞くまで知らなかった。

 同じ旅人としてちょっぴり恥ずかしい。


「いやー、ありがとうございました。お二人のお陰で無事に到着できましたよ」

「いえいえ。こちらこそ勝手な真似をして申し訳ない」

「そんな風に言わないでください。何かお礼をしたいのですが」

「お気持ちだけ受け取ります」


 魔道車の運転手にはとても感謝された。

 他のお客さんからもお礼を言われて、気分はとても良い。

 はずなのに、寒さが全てをかき消している。


「さ、寒い……」

「これが麓の寒さか。中々どうして耐え難いね」

「山はもっと寒いですよ?」

「「うっ……」」


 テトラが恐ろしいことを言うから、私もユーレアスも変な声が出てしまった。

 予想していた倍は寒い。

 ここで身が震える寒さなのだから、山は想像を絶する寒さだろう。


「これは……防寒対策を万全にすべきだね」

「うん。吹雪で足止めされて、逆に良かったかも」


 準備もせずに出発していたら、今頃二人で氷漬けになっていたかもしれない。

 そう思うとぞっとする。

 思わなくても純粋な寒さでぞっとする。


「お二人ともこっちです!」


 魔道車を降りてからは、テトラの案内で宿屋に向う。

 彼女の母親が営むという宿屋に、これから数日間お世話になる。

 到着したのは、赤い木で出来た三階建ての建物だった。

 看板には大きな文字で『ゆらぎ亭』と書かれている。


「ここです! どうぞ中へ」

「「おじゃまします」」


 一階は食堂になっていて、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 カランたてた音に気付いて、中から一人の女性が顔を出す。


「もどったのかい?」

「ただいまお母さん!」

「おかえり」


 彼女の母親が、隣にいる私たちに気付く。


「その二人は?」

「宿泊希望のお客さんだよ!」

「本当かい? それは嬉しい知らせだね」


 二人して喜んでいるのが伝わる。

 テトラの母親の名前はユラ。

 父親は出稼ぎに行っていて今はいないとか。

 親子二人で切り盛りするこの店は、街でも人気の飲食店らしい。

 二階より上が居住スペースで、宿屋も一緒にやっている。


「テトラ、受付お願いしていいかい?」

「うん! お二人ともこちらへどうぞ」


 テトラに案内され、カウンター席に腰掛ける。


「部屋はいくつにしますか?」

「ベッドが二つなあるなら一部屋、一つなら二部屋でお願いしよう。ノアはいいかい? 」

「うん」

「じゃあベッドが二つの部屋が空いてるので、そっちにしましょう」


 テトラはそう言いながら、契約書とペン、部屋の鍵を取り出す。


「二階の一番奥です。鍵は先にお渡しするので、荷物とか移動させておくと良いと思います」

「お気遣い感謝するよ。じゃあ僕が荷物を運んでおくね」

「うん。私がこっちを書いておくよ」


 ユーレアスは二人分の荷物を抱え、二階へ続く階段を昇っていく。

 その間に私は、出された書類にサインを書く。


「あの、ノアさん」

「何ですか?」

「ずっと気になっていたんですけど、何で男の人のフリをしているんですか?」

「ぅ……」


 まさかの質問に動揺して、ペンが変な方向へ進む。


「え、えっと……気付いていたんですか?」

「わかりますよ。それにノアさんって、ユーレアスさんのこと好きですよね?」

「うっ……」


 さっき以上の動揺が押し寄せ、ペンが床に転がり落ちた。

 急いで拾い上げると、テトラが返事を待っている。

 私はモジモジしながら彼が戻っていないことを確認して、小さく頷く。


「やっぱり!」

「な、何でわかったんですか?」

「女なら誰でもわかると思いますよ? ノアさんがユーレアスさんを見ている時、とっても女の子の顏してますから」

「そ、そうなんですね……」


 は、初めて言われた。

 というか、そんなにわかりやすいのかな?

 だったら今まで関わって来た人も、わかってたり……

 そう思ったら急激に恥ずかしさが押し寄せてきた。


「でもでも、私が見る限り、ユーレアスさんの方は気付いてませんよね?」

「そ、それもわかるんだ」

「わかりますよ! 何だか鈍感って見た目してますし」


 それはとても共感できる。

 何度も直接伝えているのに、彼から気持ちを聞けたことはない。

 彼がどう思っているのか、ずっと知りたくて仕方がない。

 

「だったらピッタリな物がありますよ!」

「えっ……」


 テトラが一枚のチラシを見せてくる。

 そこに書かれていたのは、この国で行われているイベントについて。


「バレンタイン?」

「そうです! ちょうど明々後日なんですけど、好きな人に甘いお菓子をプレゼントする日なんですよ」

「え、えぇ!? そ、そんな日があるんですか?」

「ありますよ! この日を切っ掛けに恋人同士になる人も多いんです! ノアさんもチャレンジしてみてください」


 バレンタイン……好きな人への贈り物。

 良いイベントだと思う。

 でも、でも私は……


「あ、あのテトラさんは料理が得意だったりしますか?」

「はい? ええ、まぁお母さんの手伝いしてますし。お菓子作りも好きですからね」

「もしよければその……私に教えてもらえないですか?」


 本当に恥ずかしい限りだけど、私は料理が一番苦手だ。

ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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