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40.雪道を行く

 雪道を進む魔道車。

 仕組みは単純で、雪の上を滑っているだけらしい。

 あれなら自力でも出来るぞと、ユーレアスは言っていた。


「馬車より静かで良いね」

「そうかい? 僕は自分で運転するほうが好きだけどな~」

「へぇ~ 運転て楽しいの?」

「楽しいときは楽しいさ。面倒なときは面倒だけどね」

「何それ。じゃあ今度私にも運転させて」

「それは駄目」

「またそういうイジワル言って」


 ユーレアスは私に馬車の運転をさせてくれない。

 頼んでも駄目だと返される。

 勝手に乗ろうとした時なんて、割と本気で怒られて涙目になったよ。


「事故でも起こしたらと思うと気が気じゃないのさ」

「大丈夫だよ」

「根拠のない自信だね」

「だってやらせてくれないから」


 魔道車の中でそんな話をしていると、隣に座っていたテトラがクスリと笑った。


「テトラさん?」

「ごめんなさい。仲が良いんだなーって思って」

「そこに気付くとは、君も中々見る目があるようだね」

「ふふっ、誰でもわかると思いますよ」


 そんな風に言われると、素直に嬉しい。

 と同じくらい恥ずかしくて、私の頬が赤くなる。

 今なら寒さの所為だからと誤魔化せるからいいか。


「お二人は旅人なんですよね?」

「そうですとも」

「ソラニンヘは何をしに? あそこは普通の街ですよ?」

「いえ、行きたいのは街と言うより山のほうなんです」


 私がそう言うと、テトラは少し驚いたような表情を見せる。

 そのまま考えるように手を口元にあて、続けて言う。


「たぶん、数日間は止めておいたほうが良いと思います」

「えっ?」

「というと?」

「強い吹雪が続いているんです。周期は一定じゃないんですけど、一度始まると一週間は続くので」

 

 テトラ曰く、昨日の時点で吹雪が強まっていたそうだ。

 彼女の話通りなら、あと五日間は吹雪が止まない。

 吹雪の中を進むことが危険だということくらい、私たちでもわかる。


「なるほど。では吹雪が治まるまでは街に留まるとしよう」

「うん。わざわざ危険を冒すのもよくないし」

「あっ! だったら私の宿屋に来ませんか?」

「何と、テトラさんは宿屋の娘なのかな?」

「そうなんですよ。私のお母さんが食堂と一緒にやっているんです」


 ソラニンという街は、山のふもとにある。

 気候や地形の関係もあって、作物が育ちにくい。

 だから足りない分は、別の街へ買い出しにいくそうだ。

 テトラもその買い出しに昨日から出ていた。

 山盛りの荷物の理由がそういうことだったみたい。


「今はお客さんも少なめなので、泊ってくれると嬉しいです」

「ほうほう! こんなに可愛らしい看板娘がいる宿屋なら、僕は大賛成だね」

「私も良いよ」


 可愛い看板娘、という単語にはちょっと嫉妬心を抱いてしまったけど。

 ユーレアスは無自覚にそういうことを口にするからよくない。

 これまでにもいろんな女性を勘違いさせて、その都度痛い目をみているのに。


「はぁ……」

「おや? ノアはお疲れかい?」

「誰かさんの所為でね」


 その後はゆったりと魔道車の旅を楽しむ。

 六時間の道のりは中々退屈で、他のお客さんは眠っている。

 私たちはというと、テトラの旅の話が聞きたいと言われ、ずっと話していた。


「ノアさんって本を書いてるんですか?」

「書いてる途中かな? 初めてだし、まだ全然進んでないけどね」

「お二人の旅の本ですよね? 何だかおもしろそう」

「もちろん面白いさ」

「表現できるかは、私の文才にかかっているけど」


 直後、ゴトンっと大きな音がする。

 揺れのなかった魔道車が大きく揺れ、急停止したのがわかった。


「ユーレアス、これって……」

「何かあったようだね」


 私とユーレアスは運転席へ向かう。

 様子を見ると、運転手のおじさんが慌てているようだ。


「どうかしましたか?」

「あ、えぇすみません。見ての通りスノーベアと遭遇してしまって」

「ユーレアス」


 私が前を指さす。

 雪降る白い景色の中で、もっと白い毛並みをしたクマがいる。

 赤い目がギラギラと光っているから、同色の中でもわかりやすい。


「スノーベア……魔物ですね」

「はい。この時間帯は出やすいんですが、運悪く群れとぶつかってしまったようで」


 運転手は申し訳なさそうに説明した。

 ユーレアスが尋ねる。


「その言い方だと初めてではなさそうですね。普段はどう対応を?」

「基本はじっと待ちます。変に動かなければ襲われないので。ただ……この数の群れは初めて見ますから、どうなるか」


 スノーベアは八匹見える。

 進路上で屯していて、動く気配がない。

 こちらには気付いている様子だ。


「動きそうにないね」

「うん。あまり待っていると夜になってしまう」

「その場合はゆっくり引き返すしかありません」

「なるほど、それは困るな」


 そう言って、ユーレアスが乗降口へ向かう。


「ノア、念のために結界をお願いできるかな?」

「任せて」

「ちょっ、お客さん何するつもりですか? 危ないですよ!」


 運転手の言葉を無視して、ユーレアスは魔道車を降りる。

 フィーを呼び出して、魔道車は光の結界で覆う。


「これでよし」

「ノアさん! ユーレアスさんは?」

「大丈夫。彼に任せておけば心配いりませんから」


 ユーレアスが前に進んでいく。

 大鎌を持ち、スノーベアと対峙するため。


「すまないね。悪さをしたわけじゃないから、魂を刈るつもりはない」


 スノーベアが彼に襲い掛かる。


「道を開けてくれるかい?」


 大ぶりの一閃。

 襲い掛かって来たスノーベアを吹き飛ばす。

 さらに残ったベアにも接近し、斬るのではなく打撃で昏倒させていく。


「これは驚いたな」

「す、すごい……」


 皆がその光景を見ている。

 私にはそれが誇らしくて、隠れて小さなガッツポーズをした。


ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


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