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4.死神との出会い

 迫りくる魔の手。

 私は身を震わせることしか出来ない。

 口も動かず、祈るだけ。

 男は剣を振り上げ、今にも消えそうな命が一つ。


「じゃあな国王様。恨むんなら、あんたを殺す様に依頼した奴を恨めよ」


 男は剣を振り下ろす。

 無慈悲にも剣はお父様の首を……


「なっ!」

「駄目だよ」


 撥ねる手前で止まった。

 ぐっと力強く握られた腕に、男は焦りの表情を浮かべる。

 私とお父様は、その隣に立つ人物に注目していた。

 銀色の髪を後ろで結び、薄紫色の瞳が光に反射してキラキラしている。

 旅人だろうか?

 ちょっぴり汚れたマントで身を包み、腰には小さなポーチを身につけている。


「不必要に死人を増やさないでくれ。冥界は大変なんだから」

「お前は……くそが!」


 野盗は彼に握られた腕を力いっぱい振り払い、彼へ向けて剣を振る。


「おっと! あぶないな~」

「てめぇ……」


 彼はひらりと剣を交わし、野盗を突っぱねて距離を取る。

 お父様は顔を上げ、彼に尋ねる。


「貴方は?」

「通りすがりの旅人ですよ」


 彼はニコリと微笑んでそう言った。

 こんなにも幻想的な笑顔を、私は見たことがない。


 野党が歯ぎしりをして、彼に怒鳴る。


「旅人だぁ? 関係ねー奴が邪魔するんじゃねぇよ!」

「邪魔? 邪なのは君たちのほうだろう?」


 余裕を見せる彼に、野盗たちは苛立ちを露にする。

 武器を構え、標的を私たちから彼へ変えたのがわかった。

 彼は大きくため息をこぼす。


「やれやれ。無益な殺生はしたくないんだけどなぁ」

「だったらてめぇが殺されろ」

「それもまぁ、良いのかもしれない。だけど君たちを放っておくと、たくさんの命が犠牲になってしまいそうだ」


 そう言って、彼は右腕を伸ばす。

 掌に青い炎が宿る。

 炎は形を揺らぎ、大鎌へと変化した。


「仕方がない。君たちの魂を刈り取ろう」

「はっ! やる気かよ? この人数差が見えねぇのか?」

「よーく見えているさ。これでも人より眼はよくてね。普通なら見えないものまで見えるくらいだよ」

「だったら頭が足りないんだな」

「それもどうだろう? 君たちよりは随分利口だと思うけど」


 わざとなのか、天然なのか。

 彼の言葉は野盗を刺激し続ける。

 人数差は変わっていない。

 圧倒的に不利な状況なのに、彼は平然と笑みを浮かべている。

 穏やかな日常の一コマのように、ニコニコと微笑んでいる。


 今にも襲い掛かってきそうな野盗たち。

 彼は余裕の表情を浮かべ武器を持ったまま構えない。

 代わりに何も持っていない左手を挙げて言う。


「ウル」

「お呼びですか? 我が主」


 現れたのは漆黒の毛を持つ狼だった。

 普通の狼でないことは、誰の目を見ても明白だ。

 人間の大人を超える大きさに、尻尾は蒼い炎を帯びている。

 加えて言葉を発せられる狼なんて聞いたことがない。


「二人を守るんだ」

「了解した」


 ウルという名前の狼は、彼に命じられて私たちの前に立つ。

 彼が呼び出した魔物だろうか?

 本音を言えば、少しだけ怖い。


「大丈夫だよ。この子は僕の相棒だから」


 それに気づいた彼が、私に向ってそう言った。

 なぜかわからないけど、彼の言葉を聞いた途端に、恐怖心は綺麗さっぱり消えてしまった。


「主よ。前を見たほうが良いのではないか?」

「ん? ああ、そうだね」

「てめぇその獣……ビーストテイマーか?」

「残念、外れだよ」


 ウルを見て、野盗の何人かは恐怖を感じているようだ。


「今なら許しても良いんだよ? もう二度と悪さをしないって誓うなら」

「ふざけんな! いくぞてめぇら!」


 野盗たちは武器を構えなおす。

 優しい言葉にも耳を傾けず、彼に襲い掛かった。

 彼は小さくため息をこぼす。


「そうか。残念だよ」


 次の瞬間。

 全員の視界から彼は消える。


「どこに――っ!」


 大鎌がチラリと見えた。

 偶然にも最初に彼を見つけられたのは私だった。

 野盗たちの後ろに、大鎌を振り抜いて彼が立っている。

 遅れて気付いた男たちは、自分の胸に手を当てていた。


「斬られた?」


 困惑する野盗たち。

 胸に痛みでも走ったのか、全員が同じ場所をおさえている。

 ただし、斬られたような跡はない。

 

「いいや、ちゃんと斬ったよ」

「は?」

「肉体をじゃない。君たちの魂をね」

「何言ってやが……」


 一人がバタンと倒れる。

 さらに一人、二人とその場に倒れ込んでいく。

 血は流れていない。

 斬られた後は見当たらない。

 だと言うのに、彼らはピクリとも動かなくなった。

 最後まで意識を保っていた男が、彼を見上げてぼそりと呟く。


「しに……がみ……」

「はははっ、そう呼ばれるのも久しぶりだね」


 ブオンと大鎌を振り回し、青い炎となって消える。

 それが私たちと、【死神】と呼ばれた英雄との出会いだった。


ブクマ、評価はモチベーション維持につながります。

少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


☆☆☆☆☆⇒★★★★★


よろしくお願いします。

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