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39.絶景の旅再開

 宿屋の一室。

 机の上に地図が広げられていて、私とユーレアスが見ている。


「次の目的地なんだけどね? 僕はここが良いと思うんだよ」


 そう言って、ユーレアスが指をさした場所には、リクレスト山脈と書かれていた。

 彼の示した場所にも、七大絶景の一つがある。


「ここの絶景って確か……」

「そう! 氷で作られたドラゴン像がある場所さ!」


 私は思わずガクッと肩を落とす。

 何せドラゴンは、数日前に死闘を演じていた相手だ。

 その記憶が新しい中で、平然と連想してしまう場所を選択するなんて、ハッキリ言っていかれている。

 いやまぁ、ユーレアスらしいと言えば間違いじゃないとも思う。


「何でわざわざここなの? アルフレートから遠いのに」

「うんうん、確かにその通りだ。他の絶景のほうが近い」

「じゃあどうして?」

「単純な理由さ。最近ちょっと暑いと思わないかな?」

「えっ……まさかと思うけど、そんな理由?」

「そうとも! 絶景を見ながら涼もうじゃないか!」


 なんという雑な理由。

 さすがの私も、これには愕然とさせられた。

 涼みたいから雪山に行く?

 常識的に考えて、涼むどころじゃ済まないと思うけど……


「さぁさぁそうと決まれば出発だよ! 荷物の準備を済ませておくれ!」

「ちょっ、本気なんだね……」


 ユーレアスは普段より強引だった。

 無茶苦茶な理由だし、他に何か考えがあるのかもしれない。

 というより、あるのなら教えてほしい。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 馬車を走らせ二週間と少し。

 私たちはカロラ帝国の領土に入っていた。

 目的地であるリクレスト山脈は、カロラ帝国の北部にある。


「ぅ……少し寒くなってきたね」

「うん。話を聞く限り、この辺りから急激に気温が下がるそうだけど。どうやらもう影響が出ているようだね」

 

 カロラ帝国は一年を通して平均気温が低い。

 北部へ近づくにつれ寒さは増し、一年中雪が降っている場所もあるとか。

 そうこう話していると――


「あっ、雪」

「降ってきたね」


 空から白くて冷たい贈り物。

 雪を見るのは、これで何度目だろうか。


「久しぶりじゃないかな? 最近は雪が降る地方に行っていないし」

「そうだね。一年ぶりくらいかな」


 私の生まれ故郷でも、雪は降ったことがない。

 本の中で知っていて、旅を初めてから見ることが出来たものだ。

 最初ははしゃいで楽しかったな。


「降り積もる前に到着したいね」

「うん。少し速度をあげるから、揺れには注意して」


 馬車は加速し、一番近い街まで向かう。

 到着したのは一時間くらいが経過した頃だった。

 それまで雪は降り続けて、すっかり周りに積もっている。

 道が凍る前に到着できたのは幸運だったと、門番の人が言っていた。


「あんたら旅人だろ。どこに向ってるんだ?」

「ソラニンという街に」

「あぁ~ やっぱそうなのか。知ってたらすまんが、この先は普通の馬車は通れないぜ?」

「そうなんですか?」


 私が尋ねると、門番のおじさんは頷いて言う。


「常に雪が降り積もってるからな。馬車の車輪に雪が絡まって進めないんだよ」

「ほうほう、それは以前に経験がありますね」


 ユーレアスが頷きながら聞いている。

 この反応はたぶん、知っているか気付いていたんだね。

 彼はわざとらしく尋ねる。


「ということは、徒歩しかないと?」

「いやいや。ソラニン行きの魔道車が出ているからな。そいつに乗れば一発でいけるぜ」

「なるほど! これは嬉しい情報を聞けたね」

「はははっ、そうだね」

「役に立てたなら良かったぜ。まっ、良い旅をしてくれよ」


 ユーレアスは門番のおじさんをからかっているつもりかな。

 当の本人は天然なのか、ユーレアスが純粋に喜んでいると思っているみたい。

 ユーレアスの弱点は天然だね。


 馬車を預けた私たちは、魔道車の乗降場に向かった。

 本数は午前中に三本と少なめ。

 片道で六時間はかかるらしく、正午までに出ないと夜になってしまうからだという。


「ギリギリだったようだね」

「うん。でも思ったより人は少ないかな?」

「この時間は少ないと、門番の彼が言っていたからそうなんだろう」


 乗降場では六人が待っている。

 カップルが一つと、三人家族が一つ、それから大荷物を持っている女の子。

 女の子の荷物が重みで倒れそうになる。


「うわっー」

「危ない!」

「お任せあれ!」

 

 倒れるより早くユーレアスが駆けつけ彼女を支える。


「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、か弱き女性を守るのも、僕のような紳士の役目なのでね」

「ははっ、ユーレアスらしいね」


 ユーレアスが彼女の姿勢を戻す。

 すると、助けられた彼女は深々とお辞儀をしてくる。


「危ない所をありがとうございました」

「いえいえ、か弱き――」

「それはさっきやったよ」

「おっと、僕の相方は手厳しいな」


 漫才のような私たちの会話を、彼女は呆けてみている。

 それに気づいたユーレアスが咳ばらいをして、自己紹介を口にする。


「初めましてお嬢さん。僕はユーレアス、こっちは」

「ノアです」

「私はテトラっていいます」


 全員の自己紹介が済んだタイミングで、魔道車がやってくる。

 ポーっと空気が抜ける音を出して、私たちの前で停車した。


「とりあえず乗ってしまおうか」

「うん」

「ですね!」 


 そうして、私たちは魔道車へ乗り込んだ。

 雪道の旅が始まる。

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