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35.一緒にしないでほしいな

「おつかいを頼むわ。ちょっと面倒なのだけど」


 ちょいちょいとイルは僕に手招きをしている。

 僕はユイノアちゃんに微笑んで、イルの元へ歩み寄った。

 彼女は耳元で、僕にしか聞こえない小さな声で言う。


「実はね? ちょっと面倒な奴が復活しちゃったのよ」

「面倒な奴? 僕が知っている人物かい?」

「前に話だけしたことがあるわ。覚えているかしら? 貴方の先々代……死神を殺して力を奪った男のこと」

「ああ、確かに聞いたね」


 僕が彼女と契約したときのことだ。

 思い出しながら、僕は彼女に質問する。


「僕らと同じ眼を持っていて、殺した相手の魂を食らう……だっけ?」

「そうよ。本当に悪質な奴だったわ。それに先々代が負けて、魂を食われて力を奪われちゃったのもよくなかったね」

「ふぅ~ん、でも確かそいつって、先代と協力して倒したんじゃなかったっけ?」

「ええ。相打ちだったけど、見事に刈り取ってくれたわ」


 そう言って、イルはため息を漏らす。


「倒せてなかったんだね」

「そうみたいなのよ。確かに魂は刈り取ったはずなのにね……とにかくそいつが復活して、現世の魂を刈りまくってるみたいなのよ」

「なるほど、それを僕に何とかしてほしいと」

「そういうことよ。かなり危険だけど、貴方は歴代の契約者の中で一番強い」


 彼女はハッキリとそう言った。

 嬉しいことだけど、期待され過ぎるのも困るな。


「居場所はわかっているのかい?」

「残念だけど無理ね。眷属を通して探してるけど、まだ一回しか見ていないわ」

「じゃあ自力で探すしかなさそうだね」

「ええ。でも早く見つけないと、あいつは罪人の魂を集めて遊びだすわよ」


 遊び出すという表現がひっかかったけど、そういう奴なのだろうと想像した。


「ほう、それはまた一大事だね」

「やってもらえるかしら?」

「他ならぬイルからの頼みだ。僕が断るはずもないだろう」

「ふふっ、貴方のそういう所は好きよ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 五年前の約束を思い出す。

 あの日に話していた男が、目の前の彼だと一瞬でわかった。

 だって、生まれて初めてだったからね。

 こんなにも黒く汚い魂を見たのは。


「どす黒いなぁ」

「んあ? そいつは俺の魂の話か?」

「他に何があるんだい?」

「はっは! そりゃそーだな。どうだ? 良い色してんだろ?」

「うん。とっても最低な色だね」


 僕がそう言うと、彼はなぜか戦いの手を緩めた。

 距離を取り、ドラゴンを停留させる。

 煽りに怒ったような表情ではない。

 どちらかというと、疑問を抱いているときの顔をしている。

 そして、急に何かスッキリしたような笑顔で言う。


「あーそうか。お前も見たことないんだな」

「何の話だい?」

「自分の魂の色だよ」


 思わずびくっと反応してしまう。

 僕の霊視は、他人の魂を見ることが出来る。

 だけど、自分の魂だけは見えない。

 鏡に写った自分を見ても、その胸に魂は揺らいでいない。

 興味はあった。

 でも、そういうものだと納得して、諦めていたことだ。


「俺は知ってるぜぇ? 自分の魂がどんな色してるか……ドブみてーに汚い色してるだろ?」

「うん、まさにその通りだね」


 煽りのつもりで僕は肯定した。

 すると彼はゲラゲラを笑う。


「はっは! そうだろうそうだろう」


 と、言いながら徐に指をさす。

 指の先が示しているのは、僕の左胸。

 そこには普通、人の魂が揺らいでいる。


「同じ色してるんだぜ? お前ら死神の魂もなぁ」

「――!?」


 シリスはニヤリと笑う。


「そうだよなぁ、そういう顔になるよなぁ?」

「……」

「良いんだぜ~ いくらでも泣きわめいてもよぉ~」


 彼は得意でに笑いながら、両腕を広げて語る。

 僕はそれを黙って聞いている。


「驚いただろ? そんで絶望したよなぁ~ 秩序のためだか何だかしらねーが、俺と同じ色してるんだからよぉ~ あの女はずりぃーんだぜ? そういう大事なことは黙ってるんだからな」


 あの女とはイルのことか。

 まぁ、彼女がずるい女であることは否定しない。

 現に黙っていたのは事実みたいだし。


「それに気づいてるだろ? 俺と同じ魂が死ねばどうなるか……そう! もれなく地獄行きの無限破壊コースだぁ! 二度と現世に転生することはない。罪人たちと同じように、永遠に苦痛と恐怖を味わい続けるんだぁ!」

「そうか……」

「そうだぜ? だからよぉ~ お前も正直になれよー、使命なんて堅苦しいのは捨てちまってさ。 そんで珍しい魂とか、気に入らない魂で遊ぶんだよ。 もっと楽しく生きようぜぇ」


 彼の言葉が僕の頭に響く。

 もっと楽しく……か。

 耳障りの良い言葉ばかりで、聞いていて疲れるな。


「……はぁ、そういうことか」

「おっ? 乗り気になったかよ」

「残念ながら、君の言葉には一切魅力を感じないな」

「あぁん? おいおい、今のは全部真実だぜ?」

「そうなんだろうね。薄々感じてはいたから、たぶん合っているんだと思う」


 たくさんの魂を刈って、殺してきた者の魂だ。

 普通じゃないだろうし、少なくともノアみたいに綺麗じゃない。

 まさかあんなどす黒い色と一緒とは……正直ショックだったけど、それだけだ。


「でも、僕のやることは変わらないよ」

「正気かよ。お前は死んだら地獄に行くんだぜ?」

「そのための不老不死だ。何の問題もないよ」

「はっは! まじかこいつ、相当イカれてやがんなぁ~ 前の死神は、これを言ったら絶望で泣きわめいてたのによぉ~」


 なるほど、と納得した。

 先々代の死神が敗れたのは、魂の色を指摘されてしまったから。

 自分が穢れているという事実に、その人は耐えられなかったのだろう。


「君は勘違いをしている。僕は別に、使命とか正義のために生きているわけじゃない。世界を救ったのも、ただの暇つぶしだった」


 僕は大鎌を構え、ドラゴンの炎がわずかに揺らぐ。

 瞬きの刹那、僕の姿はシリスの視界から消える。

 そして――


「なっ……」

「そういうちゃんとした人と、僕を一緒にしないでほしいな」


 ソールイーターが、彼のどす黒い魂を切り裂いていた。

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