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追放聖女と元英雄のはぐれ旅 ~国、家族、仲間、全てを失った二人はどこへ行く?~  作者: 日之影ソラ


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34/50

34.デッドリードラゴン

 墓地を呑み込み夜空を汚す。

 朽ちかけの両翼で羽ばたき、死臭を周囲へまき散らす。

 空飛ぶ公害にして汚染物。

 人はそれを恐れ、忌み嫌い、記憶からも遠ざけた。


 しかし、目の前にしてしまえば認めざるを得ない。

 その姿を見てしまえば、それが一体何の屍であるのかを。


「ドラゴンの……アンデッド?」

「デッドリードラゴン」


 ユーレアスがぼそりと口にした。

 聞いたことのない名前だけど、ドラゴンではあるみたいだ。

 それより今、私たちは空中にいる。

 下は割れた地面で、目の前には巨大なドラゴンだ。


「大丈夫」


 ユーレアスが青い炎を生み出す。

 それが形を変化させ、巨大な鳥へと変身した。

 私たちは青い鳥の背に乗り、巨大なドラゴンと向き合う。


「どうだぁ? すっげーだろ?」


 シリスは高々と叫ぶようにそう言った。

 確かに凄い迫力だ。

 それと……やっぱり臭い。

 言いたくないけど、あのドラゴンの上に乗っていて、鼻がおかしくならないのかな。


「デッドリードラゴン……かつてドラゴンだったものの成れの果て。しかもこれの基になったのは、グレートドラゴンか?」

「ご明察! 手に入れるのに苦労したんだぜ~ さぁ、さっさとやり合おうぜ?」


 シリスは戦う気満々だ。

 すでに勝ち誇ったような表情をしている。

 ドラゴンが強大な力を持つことは、世界でも共通の事実だ。

 彼の乗っているドラゴンがどれほどかわからないけど、その表情から自信が溢れている。

 対してユーレアスは、表情を変えずに彼を見つめる。


「いいだろう。でも、その前に彼女を下ろしてもいいかい?」

「ユーレアス?」

「あぁん? 何わざわざ俺に確認してんだ? そんなもん良いわけ……いや、そうだな。いいぜ」

「だと思ったよ。君がやりたいのは、彼女の魂を汚すことだ」


 つまり、殺すことじゃない。

 ユーレアスはそう言って、炎の鳥をもう一匹生み出し、私を残して飛び移った。


「ごめんね、ノア。出来るだけ離れていてほしい」

「ユーレアス……大丈夫なんだよね?」

「もちろんさ。まさか、僕が負けると思っているのかい?」


 ユーレアスは笑っている。

 いつも見せる優しい笑顔で、私を見つめる。


「思わない」

「うん。信じてくれてありがとう」

「信じてるよ。だから勝って!」

「仰せのままに」


 私を乗せた鳥が離れていく。

 彼らの戦いが見えるギリギリで停留して、戦いの始まりを待つ。


「準備はいいかよ」

「見ての通りさ」 

「そうかよ。んじゃ――消し飛べ」


 ドラゴンが漆黒の火球を放つ。

 ユーレアスは鳥を羽ばたかせ回避。

 地面の割れ目に衝突した火球は、大爆発を起こし、爆風は私の所まで届く。


「はっは! 爽快だなーおい!」

「あ~もう、めちゃくちゃやってくれるね」

「何だ? 羨ましいのかよ」

「ははっ、残念ながらそれはないよ」


 ユーレアスは鳥に乗ったまま向き合う。

 シリスは彼の鳥と自分のドラゴンを見比べて、クスリと笑って言う。


「そんな貧相な使い魔しかねーくせして、強がんじゃねーよ」

「おっと、甘く見られたものだね」

「あぁん?」

「僕はこれでも七百年以上生きている。世界を救ったことだってある。そんな僕が――」


 青い鳥は煌めくように燃え上がり、広がり、大きくなる。


「ドラゴンの魂くらい、持っていないわけがないじゃないか」


 青い炎は形と大きさを変化させ、青いドラゴンを作り出した。

 大きさ、迫力共にシリスのドラゴンのそん色がない。

 ユーレアスの従僕は、彼がかつて刈り取った魂をストックして生み出されたもの。

 その姿形は、元になった魂に寄る。

 つまり、彼が生み出した青いドラゴンは、かつて彼が倒した相手。

 私が知らないずっと昔に、彼はドラゴンすら刈り取っていたんだ。


「何だよお前、思ったより楽しめそーだな」

「僕は楽しむつもりはないよ。さっきも同じことを言った気がするけど、忘れちゃったのかな? おじいちゃん」

「はっは! だったら労わってんだ!」


 ユーレアスのドラゴンが青い炎を、シリスのドラゴンが漆黒の炎を放つ。

 二つの炎がぶつかり合い、混ざり合って、周囲が熱で溶けていく。

 吹き荒れる風も熱くなる。


「真似してんじゃねーよ!」

「こっちのセリフだね」


 炎は相殺し合って、今度は体当たりをし合う。

 これでも同時で、同威力。

 どちらも後ろへ吹き飛び、空中で体勢を整える。

 続けて炎を放つが、これまた同時でぶつかり合い爆発する。


「すごい……」


 私の口から漏れたのは、素直な感想だった。

 こんな光景を見せられれば、誰だって同じ気持ちになるだろう。

 シリスが何者なのかとか。

 ユーレアスや冥王様との関係はとか。

 そういう頭の中のごちゃごちゃが、衝撃で全部吹き飛んでいってしまった。

 気付けば魅入っている。

 まるで、物語の中に入り込んだようだ。


「ふんっ!」

「オラァ!」


 二人はドラゴンの背から跳びあがり、空中で刃を交わす。

 一瞬で斬り合い、互いの身体にかすり傷を残して、自分のドラゴンの背へと戻る。

 すかさず尻尾や羽で攻撃するが、どれもタイミングが被って当たらない。

 互いに拮抗した実力を見せつけ合う。

 ふと、二人の表情に目を向けた。


 シリスは楽しそうに笑っている。

 ユーレアスは、とても悲しそうな表情をしていた。

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少しでも面白いと思ったら、現時点でも良いので評価を頂けると嬉しいです。


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